第242話 温かさ

 俺と新垣さんが外に出て少し経つと、中からシアと六条さんが出てきた。シアはいつも通りだったんだけど、なんだか六条さんがなんだか呆然とした表情でシアの後ろを歩いていた。


「大丈夫だったか?」

「ん。問題ない」


 俺に近づいてきたシアに尋ねると、彼女は表情を変えることなく頷いた。ただし、アホ毛がサムズアップの形になっていたので、バッチリだったんだろうと思う。


 そして彼女は俺の横にやってきて腕を取って自分の腕に絡めた。


「~~!?」


 俺は突然の行動に面食らう。


 全くそういうことをナチュラルにやってくるのは心臓に悪いぞ、シア君。


「どうかしたのか?」

「こうしたくなった」

「そ、そうか」


 何か理由があるのかと思ってきいてみても、理由は特になかったみたいだ。


 俺は止めろとも言いにくいのでそのままにさせることにした。


「えっと、その娘とはそういう仲なのかい?」

違いますよ」


 シアが僕にくっついて居るのを見て尋ねてきたけど、只今保留中なので否定する。


ということは将来はその可能性もあると?」

「そうですね、まだわかりませんけど」


 シアは可愛いし、一緒にいて苦にならないから何も問題はないはずだけど、俺は未だに自分の気持ちが整理できないでいた。


「はぁ……君は贅沢なんだねぇ。そんなに可愛い娘に好かれておいて」

「そうですね、分かってますよ」


 新垣さんが呆れた表情でため息を吐いたので、俺は申し訳なさげに返事をする。


「まぁ分かってるんならいいんだけどね」

「はい、ご忠告ありがとうございます」


 新垣さんも何かあったんだろうか。


 仕方ないなとでも言いたげな新垣さんに俺は頭を下げておいた。


「それじゃあ、出張所に行こうか」

「はい」

「ん」


 話が一段落した俺達は出張所に向かう。


 今日も出張所でそのまま合否が発表されるらしい。


「六条さん、大丈夫?」


 しかし、なぜかついてこない六条さんに向かって声をかける新垣さん。


「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない……」


 六条さんは呆然としたまま何がしか呟いているが、小さすぎて聞き取れない。


「ろぉくじょうさん!!」

「ひゃ!?」


 新垣さんが六条さんに近づいて少し大きな声を出しながら正面から両肩を叩くと、驚きで飛び上がって可愛らしい悲鳴を上げた。


「え、あ、新垣さん?」

「はい、大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ?」


 目をパチクリとしてなぜか目の前にいる新垣さんにきょとんとした表情を見せる六条さん。新垣さんは彼女の顔を心配そうにのぞき込む。


「あ、は、はい、大丈夫です。ご心配おかけしました」


 新垣さんの顔の近さに狼狽したのか、我に返ったらしい六条さんは一歩下がって頭を下げた。


「それならよかった。これから二人の評価を出張所に提出するからついてきてください」

「分かりました」


 今度こそ四人で探索者組合の出張所を目指して歩き出した。


「試験をお疲れ様でした」

「はい、こっちが佐藤君の方の報告書です」

「こっちが葛城さんの報告書になります」

「はい、お預かりします」


 探索者組合に着くなり新垣さんと六条さんは受付に紙の報告書を提出する。受付さんが書類を預かって処理をし始めた。


「佐藤さんと葛城さんはカードを提出していただけますか?」

「分かりました」

「ん」


 一分もしない内に受付さんから指示があったので、俺とシアは言われるがままにカードを提出する。


 このやりとりも二度目だけど、シアと一緒だとまた違った感じがするな。


「それではこちらの番号札をお持ちください。処理が完了いたしましたらその番号でお呼びします」

「分かりました」

「ん」


 俺とシアは渡された番号札を受け取った。


「それじゃあ、僕はここで失礼するよ」

「分かりました。試験ありがとうございました」


 僕たちが番号札を受け取ったのを見届けた新垣さんは俺達に別れを告げる。今回もお世話になってしまったので俺は頭を下げて礼をした。


「いやいや、こっちこそ貴重な体験させてもらってありがとう。それじゃあ六条さん僕たちは支部に行きましょうか」

「そ、そうですね」


 新垣さんは慌てるように苦笑いを浮かべて手を振った後、六条さんと顔を見合わせて二人は去っていった。


 その後、俺達が呼ばれた際に伝えられたのは合格。


 文句なしの最高評価での合格だった。


「やったな!!」

「ん!!」


 俺とシアはお互いの合格を喜びあうと、帰路に就いた。


『お兄ちゃん、今日は家に寄ってってね!!』


 昨日七海がそんな風に言っていたので家に寄っていく。


「なんだろうな?」

「分からない」


 その理由が分からない俺達は、二人して首を傾げた。


「ただいま~」

「ちは」


 何もか分からないまま家に着いた俺達。俺がドアを開け、二人で挨拶をしながら中に入ろうとした。


―パァンパァーンッ


「Dランク昇格おめでとう!!」

『おめでとう!!』


 しかし、その瞬間、乾いた音とともに紙テープや紙ふぶき、そして祝いの言葉が俺とシアの頭に降り注ぐ。


 玄関には母さんをはじめとして七海と天音、そして零が揃っていて、皆で俺たちを出迎えてくれた。


 そういうことか。


 俺はなんだか心が温かくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る