第235話 聖女の真骨頂(第三者視点)

「それじゃあ、今日もお留守番してるデスよ」

『了解』


 白い神官服に身を包んだノエルは借りることになった拠点から出かけていく。


 ノエル達が転移罠を踏んでエジプトの飛ばされて数日。ノエルは、日本への渡航と自分たちの身の安全と必要な物の提供の対価に、ダンジョンのスタンピードによって大けがを負った人達の治療を行い、昨日依頼分は完了した。


 実際はこれで対価は十分だったが、頼まれると断りにくい性格のノエルは食料事情の改善に関してもどうにかしてあげたいと思っていた。


「案内してくださいですよ~」

「分かりました」


 拠点の前に待機していたエジプトの使いに声を掛け、車に乗って今日の現場へ。


「沢山被害受けたですか?」

「はい。スタンピードによって町の被害は大きく、特に食料はかなりダメージを受けました。空港も破壊され、整備に手間取りましたし、食料の手配が追い付いていない状況です」

「なるほどですよ~」


 自分たちは生活を保障している貰っているため、食事もきちんと提供されているが、車の窓から見える街の状況はあまりいいものとは言えなかった。


 多くの人たちが仕事を失い、食料の入手もままならず、ガリガリにやせ細っており、無気力に項垂れて座り込んでいる姿が多々目に入る。


 ここ数日見てきた光景であるが、何度見てもひっ迫した状態だった。


「手配しました土地はこのような場所でよかったでしょうか?」

「問題ないですよ~」


 ノエルが案内されたのは街の外れの何もない土地。元々は畑だったが、荒れ果てた土地となっており、モンスター達によって蹂躙され、今は見る影もない。


「それでは、聖女ノエルの真骨頂を見せる時ですよ!!」


 ノエルはカバンから取り出した杖構え、目を瞑って呪文を唱え始める。


「チェンジフィールド!!」


 杖の先端が光り輝き、呪文を唱え終わり、目をカッと見開いたノエルは杖を高く掲げて魔法名を告げた後、杖をトンっと地面に付けた。


『は?』


 その瞬間荒れ果てた大地が杖を突いた場所を中心に、畝のある畑へと姿を変えていく。土も荒廃していたとは思えないようようなしっかりとした畑の土へと変化していた。


 その光景に一緒についてきていた案内人と労働力としてついてきた数十人の人間は目を丸くして驚く。


 その範囲は1ヘクタール。その範囲がものの数分で畑へと姿を変えた。


「ふぅ~」


 ノエルは一度息をつき、さらに呪文を唱え始める。


「アースブレッシング!!」


 再び杖の先に光が集まり、ノエルは先端を畑に変わった土地に向けた。神々しい光の波動が畑に広がっていき、畑じたいが淡い光を放つ。


 数十秒ほどすると、光が収まった。


「ふぅ。これでこの畑はどんな作物も一カ月間すぐに育つようになりましたですよ」

「はっ!?ほ、本当ですか!?」


 ノエルは案内人に声を掛けると、呆然としていた案内人は我に返り、驚愕を露にする。


「はいですよ。何か試しに植えてみるですよ」

「わ、分かりました」


 信じられないという案内人を納得させるため、ノエルは持ってきてもらった植物の種を出来た畝に植えてもらう。


 案内人は狼狽えながらも、車に積んできた種を持ってき、試しに畑に姿を変えた場所の端っこに種を植えた。


『ええぇええええええ!?』


 その変化は劇的だった。


 種を植えて数十秒後ぴょこりと芽を出し、そこから数カ月の成長を数十倍で再生しているかのようににょきにょきと茎をのばし、青々とした葉をつけた。


 その成長スピードに案内人を含む現地人達が驚きの声をあげてしまうのも無理はなかった。


 そして最後には、すくすくと育った葉の先に実をつけ、一番食すのに適した状態まで成長した。


「うん、美味しいですよ!!」


 ノエルは実った真っ赤な実。トマトと呼ばれる野菜をもぎ取ってそのままかぶり着いて、味も問題ないことを確認した。


「こ、こりゃあ、大変だ。私はもっと手伝いの人間を連れてくる。恐らく食べ物が手に入ると聞けば、大勢やって来るだろう。君たちは早速作物を植えていってくれ」

『了解!!』


 あっという間に作物が育ち、収穫可能な状態になることを理解した案内人は、今の人数ではこの畑を活かしきれないと判断し、応援を呼んでくることにした。


 指示を受けた現地人達が種を持って作物を植え始めた。


「ノエル様、畑に変えられるのはこの一か所だけでしょうか?」

「一応後九カ所。十ヘクタール分やるつもりですよ」


 案内人はすぐにノエルの元に近寄ってどの程度この畑を広げられるのか確認を取る。


 ノエルとしては魔力量的には全く問題ないのだが、あまりやり過ぎると色々マズいのでその程度で抑えた。


 その程度の基準が著しくズレているのは否めないが。


「わかりました。この度は食料事情の改善にご協力いただきまして深く深く感謝いたします。私達エジプトの民はこの恩を一生忘れないでしょう」

「まだ何も終わってないですよ~」


 まさかそんなにやってもらえるとは思っていなかった案内人はノエルの慈悲に感謝し、深々と頭を下げる。ノエルは元々丁寧だった態度がさらに恭しくなったのを見て苦笑いを浮かべた。


「いえ、私はこれから人手の手配に行かなければならないため、もうお会いできないので、先にお礼を。代わりの者が来るまでここでお待ちいただくことになりますが、構いませんか?」


 すでに食物を植え始めた傍から実を付けている植物を尻目に案内人がノエルにさらにお願いをする。


「分かったですよ。あ、言い忘れたですけど、この魔法の効果は一カ月ですよ。それが過ぎたら普通の畑に戻るので気を付けるですよ」

「分かりました。十分な効果です。これで飢える者は格段に減るでしょう。本当にありがとうございました。それでは」


 ノエルは元々協力するつもりだったので了承すると、注意事項を忘れず伝える。


 案内人は注意事項を聞き、ウンウンと頷いて再び頭を下げると、そそくさと人手の手配に走った。


 それからノエルは十ヘクタール分の土地を畑に変化させると、やってきた応援と作物の種が次々と植えられ始め、どんどん実をつけていき、それをさらなる応援が収穫し集めていく。


「荒野に作物生やしましょう!!ですよ!!」


 ノエルは現地人の姿を見ながら、ニッコリと笑ってそんな風に独り言ちた。

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