第236話 想定外(第三者視点)

「どうしたんですか、急に呼び出したりして」

「はぁ……ホントに分かってないのか?」

「えぇ……。特に呼び出されるようなことをした覚えはありませんね」


 近未来的な造りの一室で一人の女と男が向かい合っていた。


 女は巻き毛のセミロングヘアーゆるふわな雰囲気を持っていて、男は肌を小麦色に焼いた暑苦しそうな外見を持っている。


 何を隠そう神ノ宮学園の生徒会長北条時音と、ダンジョン探索部部長早乙女真司である。二人は幼馴染であり、お互い忌憚のない意見を言い合える間柄だ。今回真司が時音を呼び出していた。


 しかし、時音にはその理由が思い当たらず、真司に尋ねられ、腕を組んで考えてみたが、何も出てこなかった。


「まさかこんなことになっているとは俺も思わなかったぜ」


 何も分かっていない時音の様子を見て肩を竦める真司。


 真司もどうしてこうなったのか全く分からないと言う点では時音と同じである。


「一体何がどうしたっていうんですか?」

「はぁ……よく聞けよ?お前普人に滅茶苦茶警戒されてるぞ?」

「え?」


 ここまで言っても全く気付く様子の無い時音に呆れながら、今回図らずも発覚した内容を伝える真司。時音はまさかそんなことを言われるとは思わなかったとでも言うような表情でぽかんと口を開けた。


「え?じゃねぇよ。お前一体何やってんだよ」

「それは早乙女君のアドバイスに従って、とにかく接点をもって、挨拶したり声を掛けたりして自分の存在を認知してもらおうとしましたよ?お昼を一緒に食べて、佐藤君が興味ありそうな話題などを話したり……」

「お前の言っていることが正しいなら俺も何も言わなかったし、普人が警戒する理由もないんだけどな……」


 真司が時音を咎めるような態度で尋ねると、時音は真司に言われた内容を思い出しながら答えた。


 時音の言っている内容は全く普通の内容のはずなのだが、その実態は異常だった。


 普人に話された内容を聞いた時の事を思い出しながら遠い目をする真司。


「佐藤君に何か言われたんですか?」


 真司の様子を見て何かあったと確信して尋ねる時音。


「ああ。まずなんでお前は普人が行くところ行くところ、まるで待ち受けていたかのように会ってたんだよ?」

「それは勿論、佐藤君と偶然出会って一緒にお昼を食べたり、お話しするためですが?」


 待ち伏せしている時点で偶然ではないのだが、相手が偶然だと感じれば偶然、という考え方をしているらしい時音。


 その時点で大分おかしい。


「はぁ……いやお前、バレてたら偶然もへったくれもないだろうが」

「まさか待ち伏せがバレていた……と?」


 真司は自分の行動の異常さを理解していない時音を見て呆れながら返事をする。その返事に、信じられない現実を確認するように時音は恐る恐る尋ね返した。


「当然だろ。あいつは俺よりも強いんだぜ?時音の気配くらい察知できるだろうよ」

「~~!?」


 現実を目の当たりにした時音は顔を真っ赤にして俯く。


「は、恥ずかしい……」


 そして出てきた言葉がこれだ。


「いや、なんで恥ずかしがってるんだよ……」


 流石の真司も困惑するしかない。


「だって全部偶然じゃないってバレたら恥ずかしいじゃないですか……」

「そりゃあそうだけど、もっと別の所に考えを向けろよ」


 恥ずかしそうに真司を見上げる時音。何も知らない人が見れば、恋に落ちてもおかしくないような可愛らしさだが、幼馴染の真司はバッサリと切り捨てた。


「別の所ってどこですか?」

「お前は仕事はできる癖になんでこういうところは残念なんだ……」

「あ、それ普人君にも言われました!!酷いですよね!!」


 全く見当がつかないと言った表情で首を傾げる。


 生徒会長としての仕事や家にまつわる仕事は完璧こなしているだけに、恋愛事に関わると途端にポンコツになる時音に、真司はあきれ果てる。


 時音は真司の言葉が普人と被っていて頬を膨らませて不機嫌そうに怒った。プンプンと言う擬音がピッタリである。


「お前なぁ、ちょっと考えてみろよ。大して仲良くもないお前と知り合い程度の男が居たとする」

「はい」


 真司は時音にも分かりやすいように時音の身に置き換えて話を始める。


「その男が偶然と言いながら、お前が行く先々に現れたとしたらどうだ?しかも数回どころではなく、何度も何度も」

「……数回はたまたまかなと思いますが、続けばちょっと不審に思うかもしれません」


 時音を男に置き替えて自分のやっていることを客観的に認識させると、徐々に自分のやっていたことがおかしなことだったと気づき出したのか、少し落ち込みながら返事をする。


「だろ?それが偶然ではなく待ち伏せだと分かっていたとしたら?」

「物凄く不審です……」


 追い打ちをかけるように再び尋ねる真司に、さらにしょんぼりして答えを返す時音。


「それじゃあ、お前のやってた行為はそれと何か違うか?」

「違い……ません……ね。それは確かに警戒されてもおかしくないかも」

「やっとわかったか……お前のは校内限定とはいえ、所謂ストーカー行為に近いからな」


 そして最後に止めを刺すようにその男の行為と自分の行為を比較させたことで、ようやく時音は自分の行いが普人を警戒させるに足る行為であったことを認めた。


「それから、他の女とキスしたからといって、お前とも当然してくれる、ってのもおかしなことだからな?」


 今度は話が変わり、キスの件へと移る。


「え!?」


 真司の言葉に驚愕の表情を浮かべる時音。


「だから、え!?じゃない。お前が誰かとキスをしたとて、仲良くもない男から自分とも当然キスするよなって言われたらどう思う?」


 なんでそんなことも分からないんだと思いながら、真司は再び置き換え話法で時音に説明し、問いかける。


「気持ち……悪いです」

「そういうことだ」


 時音はキスの件も納得したように落ち込んで答えた。


「だから、今後は本当に偶然じゃない限りそんなことしないようにな」

「はい……そうですね」


 ようやく自分の行いがおかしい事を理解した時音に真司が注意すると、シュンとしながら時音は頷く。


「まさか、自分が警戒されていたなんて……全くの想定外です……」

「おれはお前の全てが想定外だよ」


 自分の行いを自覚した時音の呟きに、真司は呆れるように返事を返した。


「はぁ……」


 真司はもっと具体的な助言をするべきだったかとため息を吐く。


「そうなると、今後はどのようにして仲良くなればいいのでしょうか?」


 偶然を装って会うことが出来なくなるということは接点が少なくなるということ。普人を手に入れたい時音としてはどうにかして穏便に仲良くなりたかった。


「うーん、そうだな。LINNEで会話をするのはどうだ?」


 真司は少し考えた後、これなら間違いは起きないだろうと気軽に連絡できるLINNEでの会話を勧めた。


「LINNE……ですか」

「ああ、それならただ送るだけだし問題ないだろ?」

「そうですね、そうしてみます」


 少し考え込む時音だったが、真司の言葉を受けてLINNEしてみることした。


 これがまた新たな悲劇を生むことも知らずに。

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