第237話 一石二鳥の計画

 シアとの諸々を白状させられた俺はぐったりとソファーに横たわっている。


「キスってどんな感じなの?」

「柔らかい?」

「もう!!そういうんじゃなくて!!」


 もう一つのソファーでは七海がシアに話しかけているけど、微妙に話がかみ合わない。


「転移先の検証のことなんだけど、夏休みになってから本格的に手伝ってもらうことにするわ。皆は学校があるし、転移の検証になると、次の日帰って来れないとかもあるだろうから」


 ソファーの少し前に置いてあるテーブルの座布団に座っている零が俺に向かって話しかける。


「確かにそうだな。ダンジョンで転移罠を探して踏むのも結構大変だったし、ダンジョンの転移先によっては帰ってくるのも大変だからな」


 ダンジョンの失踪事件に関しては、現在分かっていることをまとめてすでに零が報告書として送信したので、世界中で共有と協力体制が築かれれば、徐々に転移によって行方不明になった人が生きて見つかり、保護される可能性も上がるはずだ。


 そっちは大きな組織でやってもらって、俺達はひっそりと転移先の調査に精を出す。その過程で行方不明の人が居れば助けてもいいかもしれない。


「……そもそも狙って踏めるようなものでもないんだけどね」

「なんか言った?」

「いいえ、だから休みに入るまでは土日と祝日の前日だけにしましょう」


 俺の返事に何か言われた気がするけど、零は首を振って否定し、休みまでの予定を提案する。


 とはいえ、休みまではもう一週間程度。来週が終われば夏休みに入るので、月曜日が祝日の為、実質休み前に行けるのは今日と明日だけ。


 それ以降は夏休みに入ってからということになる。


 それまでは皆で近場のダンジョンに海外の人が来ていないか探しに行くくらいしかできないと思う。


「分かった。俺は問題ないよ」

「私も大丈夫!!」

「私もいいわよ」

「ん」


 零の提案に皆が了承した。


 ということは夏休みの間はダンジョンと海外に行っている可能性が高いのか……。

 海外に行くのに、ただ調査するだけというのはちょっと勿体ない気がするなぁ。


 俺はせっかくの夏休みが調査だけになってしまうのは、高校デビューを夢見た健全な男子としては悲しいと思ってしまった。


 勿論人の命は大事だし、転移先の調査も早くやるに越したことはないけど、それだけに囚われてしまうのは、精神的に良くないと思う。


「なぁ零」

「何かしら?」

「俺達が転移してその先を調べる時、その国での滞在許可とかどうにかならないか?」


 そう考えた俺は零に尋ねる。


「そうねぇ。私だけじゃ厳しいかも」

「そっかぁ。無理かぁ」


 零の返事に俺は目を瞑ってソファーに仰向けになる。


 ラックの影で移動すれば観光できなくもないだろうけど、コソコソするのもなぁ……。


「早とちりしないで欲しいわ。私だけじゃ厳しいって言ったのよ。もう二人程協力してもらえれば問題ないと思うわ」


 どうやら無理なのは俺の早とちりらしく、零には解決策が思い浮かんでいるらしい。


「え?そんな人いるのか?」

「いるじゃない。とっても有名な二人がね」

「まさか、その二人って……」


 俺はその解決策を実行するための人材に心当たりがなかったので零に問い返すと、零はシアの方を向きながら答える。


 つまりそれは……。


「ええ、その通りよ。アレクシアちゃんのご両親ね」

「ん?お父さんとお母さん?」


 零は予想通りの答えを述べる。シアは自分の名前を呼ばれて首を傾げた。


「そう。あの二人も口添えしてくれれば、多分世界中どこにいても不法滞在で罪に問われることはないわ」

「へぇ……あの二人ってそんなに有名だったのか」

「むしろ知らない方が珍しいのよ?まぁ佐藤君なら分からないでもないけど」


 シアを見たまま答える零に、俺はそんなに凄い人達だとは知らず、軽く非難された。


 誠に遺憾である。


「なんかナチュラルにディスられてる気がするんだけど」

「そんなことないわ。褒めてるのよ」

「そうか?それならいいんだけどな。シア、真さんとアンナさんにも口添えを頼めそうか?」


 ジト目で零を見つめると、零は肩を竦めた。俺は渋々納得し、シアに尋ねる。


「ふーくんは命の恩人。言えばオッケーしてくれる」

「そっか。そしたらお願いしておいてもらえるか?」

「ん。後で言う」


 シアの心強い答えを受けて伝言を依頼しておく。どうやらスマホも壊れてしまって契約し直さなきゃいけないらしい。


「出来れば三人の連名って形にしたいから私も会わせてもらっていいかしら?」

「わかった」


 零がシアに頼むと、シアは快く頷いた。快くと分かるのはアホ毛が手のOKマークみたいになってるからだ。


「そういえば、なんでそんなこと言ったの?別に調査だけならそんなのなくてもいいよね?」

「それはな……せっかくだから海外旅行も兼ねようかと思ってな。どう思う?」


 目敏く天祢が俺の質問の意図を聞いてくるので、俺は自分の頭の考えを述べた。


「えぇええええええええ!!海外旅行!!お兄ちゃん流石!!それいいね!!」

「確かに調査だけじゃ息が詰まるものね。私もいいと思うわ」

「ん、海外旅行楽しみ」

「海外かぁ。アメリカ以外は楽しみね」


 四人とも嬉しそうに俺の提案に同意してはしゃぐ。


「だろ?ただ調査するよりもメリハリが出た方がやる気が出るし、観光もできるし一石二鳥でいいと思ってね」


 全員の反応に俺はドヤ顔になった。


「確かにね!!今からテンション上がってきた!!」


 七海は今日行くわけじゃないのに早く行きたくてウズウズしている。


「母さんはどうする?」

「私はあんたたちの体力に付いていけそうにないから、こないだ貰ったチケットでスパにでも行ってくるわ」

「了解」


 母さんは俺達について来ず、スパエモに行くらしい。母さんには少し大変だろうからな。母さんがそれでいいなら問題ない。


 こうして俺達は転移先の調査だけでなく、観光旅行も兼ねることにした。

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