第233話 仲間

「朝か……」


 昨日は生徒会長の件があってなかなか寝付けずに悶々してしまった。しかし、ラックの癒しパワーによっていつの間に眠りに落ちていたみたいだ。


 当のラックが俺を包み込んでスヤスヤと寝息を立てている。俺は軽くモフモフすると、ベッドから俺降りて、更衣室に向かい、顔を洗って歯磨きをして目を覚ました。


「ウォンッ」

「お、ラック起きたか。昨日はありがとな。おかげで眠れたわ」


 部屋に戻るとラックが目を覚ましていて、俺を出迎える。俺はすぐにラックに近寄ってわしゃわしゃと撫でた。


 昨日は悶々としていたけど、一晩寝ると頭が結構スッキリしていて恐怖も小さくなっていた。


「早乙女先輩はあんなこと言ってたけど、大丈夫かなぁ」


 昨日早乙女先輩は俺の話を聞いて生徒会長に待ち伏せのことを止めさせると言っていたけど、一体どうなる事やら。


 そういえばバタバタしたり、生徒会長の恐怖から忘れていたけど、天音と零には完全に連絡してなかった。


 七海から連絡していたかな。


「数日連絡もしなくてごめん。七海からお願いされてダンジョン失踪事件調べてた、と」


 俺は二人にLINNEでメッセージを送る。


 早朝だし、起きてないと思うので連絡はまだ先になると思う。


―ティロリンッ


「早いな……起きてるのか」


 俺の予想は外れ、すぐに既読になり、連絡が来る。


『七海から聞いてる。同級生を探しに行ったんだってね。普人君なら無事だと思ってたけど、どうなったの?』

『七海ちゃんから連絡貰ったわ。私もその件を調べてるんだけど、全く危ないことに首を突っ込むわね。心配したわよ。まぁ……佐藤君なら問題ないとは思うけど……。それで、何か分かったのかしら』


 二人とも七海から連絡を貰っていたらしく、俺が愛莉珠ちゃんを探しに行った事は知っていた。でも、帰ってきてからの連絡は貰っていないようで、結果を知らなかった。


「七海のクラスメイトは無事に連れて帰ってこれたし、失踪事件の原因も分かったよ、と」


 俺は簡単に結論だけを述べる。


 実際にはシアの両親の事もあったけど、元々俺にも言ってなかったし、シアの家族のことはたまたまなので伏せておく。


『え、ホント!?良かったね!!七海がとても落ち込んでいたから私も心配だったんだぁ』

『え!?失踪事件の原因分かったの?詳しく教えて欲しいわ!!』

『あ、私としたことが……。七海ちゃんのお友達が無事で良かったわ』


 天音は事件にはそれほど興味がないからか、純粋に愛莉珠ちゃんが無事に帰ってきたことで七海も元気になることを喜び、零は事件に関わっているからか、先にそっちの方に思わず反応してしまった後、愛莉珠ちゃんの無事を祝った。


「詳しい話を共有したいんだけど、今日はダンジョンに行かずに話せるか?と」


 シアの両親の件もあるし、文章だけでは伝わらない部分も多い。できればちゃんとパーティ全員で向かい合って話をした方が良いと思う。


『私は問題ないよ』

『私も大丈夫よ。むしろ話を聞きたいわ』


 二人とも時間は問題ないらしい。


 後は場所と時間か。


「場所と時間はどうする?と」

『どこがいいのかな。私はどこでもいいし、時間も合わせるわ』

『うーん、内容的にあまり人が多いところで話すようなことでもないから、佐藤君の家がいいんじゃないかしら。私も時間はいつでも大丈夫よ』


 それなら、と俺は十時を指定した。


 その後、シアにも連絡を入れておいて、俺は家に行って七海を起こし、事情を説明した。シアからも後から連絡が来ていて、問題ないということだった。


「皆改めて今日は集まってくれてありがとう」

「ありがとう」

「気にしなくていいわよ」

「そうね」

「ん」


 全員が集まったらリビングのテーブルに着いて話し始める。母さんがお茶とジュースを入れてくれて、皆の前に置いていく。


「それじゃあ、ダンジョン失踪事件を調べることになった経緯と分かったことを話したいと思う」

「はーい」

「よろしくね」

「頼むわ」


 全員が耳を傾けたので、俺は七海から呼び出しがあり、愛莉珠ちゃんが失踪したことを知って探しに行き、日本に帰ってくるまで流れを出来るだけ要点をかいつまんだで話した。


 それに付随してラックの新しい力についても説明した。ラックの力については皆驚きつつも、ラックだからね、と何やら勝手に理解していた。


「動く転移罠と転移先が同一ダンジョン内に収まらないということね。確かにそれなら失踪事件の多くに説明がつくわ」

「これって結構ヤバいわよね。対策とか出来なさそうだし」


 話を聞いた二人はこの問題を深刻に捉えていた。


 確かにこの現象はヤバい。なぜなら転移を防ぐ手段がないからだ。


「そうだな。罠が見える探索者なら回避もできるかもしれないけど、罠が動いているし、かなり速いからなかなか難しい」

「ちなみに転移先っていつも一緒なのかしら、それともランダムなのかしら?」


 俺の話から零は転移罠の転移先について気になったらしい。


「そこまでは分からない。愛莉珠ちゃんの救助を第一に考えていたから、試している時間もなかったし。一応俺が転移した先に愛莉珠ちゃん居たことを考えると、固定なんじゃないかとは思うけどな」

「確かにね。でもそれならランダムよりは対策と言うか、どこに飛ぶかさえ分かっていれば、各国の探索者組合に当たる組織と連携すればどうにかできそうだわ」

「そうだな。それが分かれば対応のしようもありそうだ」


 話を聞く限り確かに零の言う通り、転移罠の転移先が一定ならどうにかできそうだ。


「それじゃあ、悪いんだけど、皆にその転移先を調べるの手伝ってもらえないかしら?」

「え!?それって俺達が関わってもいいのか?」


 いきなりの零の提案に俺は驚く。


 そういう依頼は守秘義務とかあるだろうし、外部の人間を関わらせちゃまずいきがするんだけど。


「問題は大有りだけど、どこかに転移しているという情報はすぐに上げるとして、飛び先が分かるのなら出来るだけ早く情報をまとめたいのよね。それにはラックの力を借りるのが一番早そうだし、私一人よりも皆と居る方が安心だからね。勿論報酬は払うわ」

「それもそうか」


 今はそんなに悠長なことを言ってられないくらいにはひっ迫している状況ということだ。


 零の言う通り、早く対策しないと被害者はどんどん増え、転移先のダンジョンや国で酷い目にあう可能性が高いからな。


 コンプライアンス違反もやむなし、ということか。


「いや、俺は構わないよ。ただレベル上げるのも飽きてきたし、ちょうどいい。それに報酬はいらない。仲間だからな、水臭いことはいいっこなしだ」


 俺は礼の提案に乗り、ニヤリと笑って答える。


「私も勿論いいよ!!それに私も報酬いらないからね!!お世話になってるし」

「私も手伝うわ。面白そうだし。報酬もいらないわ」

「手伝う。報酬はいらない。れいたんは仲間」


 他のメンバーも俺に続いて笑顔で返事をした。シアはアホ毛が飛び跳ねているだけど、楽しそうだ。


「佐藤君……皆ありがとう……」


 零は俺達の返事が嬉しいのか、少し目を潤ませて微笑んだ。


 こうして俺達は転移罠の調査を行うこととなった。

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