第225話 しかして振り出しに戻る(第三者視点)

「ここはどういうダンジョンなんデスか?」

「ここはEランクのレンガ造りの迷宮を舞台としたダンジョンですね」


 ダンジョンと外を繋ぐ洞窟を歩きながらノエルが質問すると、陽葵が答える。


「罠が結構あるタイプのダンジョンデスね」

「はい。ただEランクなのでそれほど致命的な罠はありません。ちょっとした落とし穴とか網が降ってくるだと、その程度です」


 RPGに出てくるレンガ造りの塔や迷路を思わせるような迷宮タイプのダンジョンには罠が多く設置されている。


 低ランクのダンジョンにであれば命の関わるような罠はなく、高ランクのダンジョンになれば命にかかわるような凶悪な罠が設置されている場合もある。


 今回失踪した探索者はEランクであり、挑んでいたダンジョンもEランク。それほど脅威のある罠はない。


「それなら問題なさそうデスね!!手がかりを探すデスよ」

「あ、待ってくださいよ~」


 脅威がほとんどないと分かったノエルはすぐに走り出す。虚を突かれた陽葵は慌てて後を追いかけた。


「うーん、今の所、目ぼしい手掛かりがないデスよ~」

「もう三日も経っていますし、もしかしたら……ぐすっ」


 それから数時間ダンジョン内を全ての部屋をマッピングしながら捜索しているが、一向に手掛かりらしいものが見当たらない。


 そのせいで一度はノエルと言う希望が現れて盛り返した気持ちが、再びマイナスへと落ち込み、涙が溢れてくる。


「諦めるのは早いデスよ~。最近何か変わったことはなかったデスか?」


 陽葵の様子を見かねたノエルは、何か手掛かりがないかと彼女に話を聞く。


「ぐすっ……ダンジョンで人間が失踪する事件ですが、妹だけでなく、実は世界中でいくつも起こっているみたいなんです」

「そんなことが……。それなら尚更まだ諦めるのは早いデスよ。ダンジョンの罠に何かあるはずデスよ」


 陽葵はぐずりながら思い当たる節を答えると、日本に行ける事で頭が一杯で全くダンジョン関係の事を調べてなくて知らなかったノエルは、尚更陽菜が死んでいる可能性は低くなったと考えた。


「とにかく先を急ぐデスよ!!」

「はいっ。え!?」

「ここからはもっと急ぐデスよ!!」

「きゃぁああああ」


 しかし、猶予もほとんどないと考えたノエルは、再び陽葵を小脇に抱えて走り出す。油断していた陽葵は驚き、急加速に晒されて悲鳴を上げた。


 その悲鳴はダンジョン内に木霊し、ドップラー効果のように遠ざかっていった。


「と、止まってください!!」

「どうかしたデスか?」


 それから夜も寝ずにダンジョンを調べながら進んでいた二人だったが、陽葵が何かを発見してノエルの体を叩いて止めさせる。


「あれを……!!」

「あれは……靴、デスか?」


 陽葵が見つけたのは靴。ノエルはその靴の元に駆け寄って陽葵を床に下した。


 陽葵はその靴に必死に駆け寄り、抱きしめる。


「それは?」

「私が妹のランクアップ祝いにプレゼントした靴です……ぐすっ」


 ノエルが大事そうに抱える陽葵に尋ねると、再び涙を流して答える陽葵。


「ということはこの辺りで何かがあったという事デスよ。念入りに調べるデスよ」

「うっ……ううっ……」

「ちょっと調べてくるデスよ」


 靴を抱いて動かなくなった陽葵を見て、辺りを調べることにしたノエル。


「うーん、この辺りは魔力の流れがおかしいデスよ。これは転移罠がある所に多い傾向にある現象ですね。そうなると今世界中で起こっている失踪事件も転移罠が関係している可能性が高いデスね!!」


 ノエルは当たりを見渡しながら念入りに調べていく。その際のノエル目は淡く青白く輝いていた。


 それは魔力視と呼ばれるスキルだ。魔力視のスキルを持つ者は多くない。七海もダンジョンで獲得していたが、非常にレアなスキルである。


 ノエルはそのスキルを使ってダンジョンの魔力の流れを調べていた。魔力の流れがおかしいところに罠があることも多いからだ。


 そして今までの傾向から今回の罠は転移罠だと判断した。


「これでより生存の可能性は高まったデスよ」


 独り言ちでノエルは陽葵の元に戻った。


「すみません……取り乱してしまって」


 暫くして落ち着いた陽葵が自分の方に向かって歩いてくるノエルに頭を下げて謝罪する。


「気にしなくていいデスよ」

「はい、ありがとうございます。それで……何か分かりましたか?」


 気にするなと首を振るノエルに、陽葵は恐る恐る尋ねた。


「陽葵、妹さんが生きてる可能性は高くなったデスよ」

「ほ、本当で」


 ニコリと笑って答えるノエルに、嬉しさと驚愕に表情を変えて述べる陽葵。


 しかし、そこまでしか聞くことができなかった。


 ノエルは気づけば全く様相の違う場所に佇んでいたからだ。


「オーノー!!転移罠が動いているデスか!?その上、洞窟?全く別ダンジョンデス?それなら失踪者が出るのも納得デスよ!!魔力の感じからDくらいデスよ?とにかく一旦ダンジョンの外に出るデスよ!!」


 ノエルは頭を抱えて叫んだ後、考え込むように顎の下に手を当ててブツブツと呟く。


 ノエルは罠にかかった自分の浅はかさを悔いながらも出来るだけ探索しながら外に向かうことにした。


「お、誰かいるデスよ!!」


 ダンジョン内を走っていると、途中で敵と戦闘しているパーティに見つける。


 それは日本人らしき容姿をしていた。


「もしかして……」


 ノエルはそのパーティに近づいていく。本来であれば探索者パーティに探索者が近づいていくと警戒されるのだが、ノエルにはそういう考えが一切なかった。


「救援いるデスかぁ!!」

「!?た、頼む!!」


 どうやら四人のパーティらしく、三匹のモンスターに苦戦していた。リーダーらしい戦士の男がちらりとノエルの方を見て救援を依頼した。


「ラブリーセイントにお任せですよ!!」


 ノエルは一瞬で三匹の敵を杖で殴り殺した。撲殺神官である。


『はぁ!?』


 四人のパーティは驚きであごが外れるかのように口を開いている。


「ふぅ。もう安心ですよ!!それで、そこのあなたは陽菜、という名前ではないデス?」


 ノエルが振り返ってニッコリと笑った後、一人の女の子が陽葵によく似ていたので尋ねた。


「え、え、どうしてそれを……」

「私はあなたのお姉さんの頼みであなたを探しに来たデス!!」


 困惑する陽菜。


 そんな陽菜の気持ちを無視するようにドヤ顔でノエルが胸を張った。


「お、お姉ちゃんが!?」

「はいデスよ。とっても心配してました」

「そっか、お姉ちゃん心配してくれてたんだ……」

「無事でよかったデスよ!!」


 姉が自身を心配していたと聞いて驚愕する陽菜。


 それもそのはず。普段は口うるさくて何かとズケズケとしたもの良いをする姉が自分のことを心配しているとは思わなかったのだ。


 ノエルも陽菜の無事を喜ぶ。


「わざわざ探しに来てくれてありがとうございます。私達も帰れるんですね?」

「んー、すぐには無理デスよ?私も罠で飛んできたですから!!」

「そ、そうですか……」


 ノエルが探しに来てくれたということで自分達も帰れるかもと期待した面々であったが、ノエルの返事に落胆を隠せない。


「とりあえず、また罠にかかることが出来れば帰れるかもしれないデスが、そう何度も罠に掛かれるかは分からないので、外に行くデスよ!!」

「そうしたのはやまやまですが、ここのモンスターが強くて……」

「そこはこのラブリーセイントに任せるです。地上まで安全に連れて行くデスから!!」

「あ、ありがとうございます」


 他のパーティメンバーとも話し合い、ノエルたちは外へと向かった。


「ピラミッドォオオオオオオオオオオオ、デスよ!?」

「ここってまさか……」

「そうだよな、多分……」

「だろうね……」

「でしょうね……」


 比較的浅い階層だったらしく、短時間で外に出た四人は呆然とする。なぜなら視線の先にはピラミッドと呼ばれる古代の建築物があったのだから。


 しかも教科書で見たことがあるようなとっても有名なピラミッドに酷似していた。


 そんなピラミッドがある場所は一つしかない。


「せっかく日本に行けたのに、次はエジプトですよぉおおおおおおおおおお!?」

 

 ノエルは頭を抱えて天に向かっていつものように咆哮を放った。

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