第226話 ラスボスには誰も敵わない
「いやいや、勘違いするな七海」
「何が勘違いなの!?お兄ちゃん!!シアお姉ちゃんと結婚の話をするためにお姉ちゃんの両親を連れてきたんでしょ!!」
唐突に叫んだと思ったら、明らかに勘違いしてる七海を宥めようとすると、七海はプリプリと頬を膨らませて俺を問い詰める。
そういえば、七海はシアの両親がダンジョンで遭難していると言うことを知らなかったな。俺が知らなかったくらいだから当然だ。
確かにいきなり両親を連れてきたらそう言う勘違いをしてしまうこともあるか。二人の服装ボロボロだけどな。
「いやいやいやなんでそういう話になるんだよ!!」
「だって女の子の両親と話をするっていうのはそういうことでしょ?」
俺は突然結婚なんて言われて困惑すると、七海はどこ情報か分からない話を持ち出して俺に尋ねた。
思い込みが激しいのは誰に似たんだか。
「違う。簡単に説明すると、シアのご両親は結構長い間ダンジョンから出られなくなっていたらしい。確かに二人は酷い状態だったから、薬を使って全快してもらった後、脱出に協力したってわけだ。ついでに、俺がシアのパーティメンバーだから、シアに会わせるためにラックの新しい力で一緒に来たんだよ」
「そうなんですか?」
「いや、私はそうなってくれても構わないな」
「そうね」
俺がざっくりと経緯を説明すると、七海は真さんとアンナさんに視線を向けて訴える。その質問に二人が訳が分からないことを言いだした。
しかもその顔は俺を見て口端を吊り上げていた。
うわ!?この人たち確信犯じゃないか。
俺をからかって遊ぶつもりだ……。
「ほら!!やっぱりそうなんじゃない!!お兄ちゃんの嘘つき!!」
「おいおい、俺が七海に嘘をつくわけないだろ?お二人とも勘弁してくださいよ」
七海は俺を下から俺の顔を覗き込むようにして睨み、俺は困惑しながら七海を宥めた後、二人に抗議の視線を送った。
「いやぁ、すまんすまん。七海ちゃんで良かったかな?俺は葛城真。こっちが妻のアンナだ。よろしくな」
「よろしくね」
二人は俺に謝りながら、悪ふざけが過ぎたと苦笑いを浮かべて改めて名乗る。
「さっきの話だが、佐藤君、ここでは普人君と言った方がいいか。彼の言っていることは本当の事だ。私たちは半年ほど前にダンジョン内で遭難、というか深い所まで転移してしまってね。帰り道も分からないまま彷徨っていたんだが、敵もかなり強くて中々探索が進まなかった。そんなことをしている間にも時は過ぎていき、バッグの中の食料やポーション類が尽き、そんな時、私は毒を受けてしまった」
「私がうっかり足を滑らせてね。それを庇って毒のある攻撃を受けてしまったのよ」
「あれは俺が勝手にやったことだ。気にする必要はない」
「あなた……」
「アンナ……」
事の経緯を詳しく説明してくれていた真さんだったんだけど、アンナさんが申し訳なさそうに話に割り込むと、夫婦の桃色の世界を醸し出した。
お互いの名前を呼びながら二人の距離が近づいていく。
「コホンッ」
不穏な流れを感じたので俺は思いきり咳ばらいをした。
全くこの夫婦は……。
まぁいくつになってもラブラブなことはいいことだとは思うし、そんな夫婦に憧れもするけど、TPOは弁えてほしいところだ。
「んんっ。そ、それで私は殆ど意識がなくなってね」
「わ、私も一人ではモンスターを倒すのはもうきつかったから、それほど大きくない部屋に移動して、そこで後は二人とも死を待つばかりという状況だったわ。シアには必ず帰ってくる。そう言って出てきたのに、もう約束は守れそうにない、そう思っていた。そんな所に突然現れたのが、彼、普人君だった。彼のおかげで私たちは一命をとりとめ、ダンジョンから脱出して今に至る、と言う訳」
ここがどこかを思い出した真さんが佇まいを正して言葉を繋ぎ、その後をアンナさんが語った。
まぁこれで概ね伝わったと思う。
「ふーん。そうだったんだ。ごめんねお兄ちゃん。七海の勘違いだったみたい」
「ふぅ、分かってくれればそれでいいんだよ、分かってくれれば」
七海は俺に詰め寄るのを止めてしょんぼりとした。俺は安堵しながら七海の頭をポンポンと撫でる。
「まぁ、普人君がシアの旦那になってくれるなら構わないと言うのは本心だがな」
「そうね、シアはポワポワしてるから普人君みたいな人が良いと思うわ」
最初はシアの事で俺をとても警戒していたはずの真さんもアンナさん。いつの間にか二人の好感度が上がり、今やいつでもウェルカムみたいな雰囲気だ。
しかし、それをここでいうのは止めてほしい。
「あぁ~やっぱり!!そういう話したんだ!!」
「一切してないから!!ここで爆弾をぶっこむのは止めてください!!」
七海の怒りが再燃し、俺は再び困惑の中に囚われた。
ほーら、やっぱりこういうことになるじゃないか!!
「お風呂の準備して帰ってきてみれば……あんたたち!!」
『ひゃい!!』
しかし、俺達は忘れていた、この家にはラスボスが存在するということを。
後ろから聞こえる恐ろしい声。
俺達はおろか、真さんやアンナさん、そして愛莉珠ちゃんに至るまで声を上ずらせて返事をし、恐る恐る後ろを振り返る。
そこには腕を組み般若のような形相をしたウチのママンが圧倒的オーラを立ち昇らせて立っていた。
「特にそこの夫婦二人!!汚いし、臭い!!さっさとお風呂に入りなさい!!それと、他人の家で変なことしたら分かってるわね!!靴はそこで脱いで玄関に置いていくように!!そこの子はひとまず靴を脱いだら外で待機!!」
『イエス、マム!!』
母さんからの指示に皆蛇に睨まれたカエルのように直立不動で返事をする。
「普人、あんたも靴を脱いで置いてくるついでに二人を案内してきなさい」
「承知しました!!皆靴を脱いでついてきてくれ」
『了解!!』
俺も母さんから指示を受けて皆に指示を出し、返事を聞いた後に先導していく。
「七海!!あんたは全員が移動した後の掃除!!」
「了解しました!!」
俺の後ろで七海が追加の指示を受けていた。
この家で
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