第224話 名探偵にお任せですよ!!(第三者視点)

「たのもう!!デスよ」

「いらっしゃいませ、えっと……お客様、そちらの二人は?」


 探索者組合に入るなり、その異質なノエルの状態に思わず案内役の職員が声を掛ける。


 中学生から高校生程度の女の子が、大の大人の男を二人も引っ張ってくれば、それは目立って当然だった。

 

「女の子を探索者の力で脅して言うことを聞かせようとした奴らデスよ。引き取って欲しいデスよ」

「そ、そうですか。分かりました」


 ノエルの言葉に女性職員は胸元のマイクのような者に話しかける。一分もしないうちに数名の男達がやってきて気絶したままの男二人を連れて行った。


「それでお話をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

「はいデスよぉ」


 連れてきた男たちの事を詳しく聞きたいと職員に促されたノエルは、嫌な顔一つせずに頷いた。


「すみません!!!!!!助けてください!!!!!!」


 しかし、次に探索者組合にやってきた来訪者によってその流れは断ち切られる。


「どうされましたか?」

「あ、あの、妹が、妹がダンジョンに行ったきりもう三日帰ってこないんです。探しに行ったんですけど、ダンジョンのどこにもいなくて!!お願いです、助けてください!!」

「お、落ち着いて下さい」


 ノエルの対応をしていた案内役の職員が焦った様子で大汗をかいて探索者組合に入ってきた女性に声を掛けると、女性は職員に縋りつき、大粒の波を流して訴えかけた。


 職員はその女性の様子に狼狽えながら女性を落ち着かせる。


 探索者なら数日ダンジョンから帰ってこないなど普通の事だが、ダンジョン内のどこにもいないと言うのはおかしい。


「ピピーンッ。これは事件の香りデスね!!」


 背景真っ黒な画面で白い閃光が走るシーンのように、ノエルはいかにも何かあるようなていで、顎の下を親指と人差し指で挟んでニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「どうか捜索を……!!」

「いえそれは……」


 ノエルまでは縋り付く女性と職員の戦いが繰り広げられている。


「話は聞かせてもらった、デスよ!!」

「あ、あなたは!?」


 ノエルは二人の間に割り込み、ドドーンと胸を張って自慢げに笑みを浮かべ、割り込まれた女性は涙を流しながらノエルの名を聞く。


「私は名探偵ノエル!!今回の事件は私が引き受けた!!デスよ!!」

「え!?」

「はぁ!?」


 ノエルはどこから出したか分からない探偵帽子とケープを身に纏い、サムズアップしてウインクした。女性と職員はノエルの芝居がかった動きにあっけに取られてしまう。


「ほら、さっさと行くデスよ!!事件は待ってくれないですよ!!」

「え、あ、ちょ!?」

「あ、こら!!まだどっちも話を聞いてないんだから勝手にどこかに行かないでくださぁああああい!!」


 ノエルは二人の返事など待たずに女性の手をとって引っ張り、走って探索者組合から出ていく。一瞬虚を突かれて固まった職員だったが、彼女も二人を追いかけて走り出す。


 しかし、途中からノエルは女性を小脇に抱えてスピードを上げたため、職員は追えなくなってしまった。


「あぁああああ!!全くもう!!どうすんのよ、これ!!始末書物よ!!」


 職員は追いつけないことが分かって走るを止め悪態を着いた。彼女をバカにするように蝉が鳴き、太陽が照り付けていた。


「それで、そのダンジョンはどこデスか?」

「その前にこの運び方止めてほしいんですけど……」


 女性を小脇に抱えたままのノエルが尋ねると、女性は不満を漏らした。


「ダメデスよ。事件に間に合わないデスよ」


 しかし、ノエルはとりつく暇もない。


「はぁ……分かりました。あっちです」

「分かったデスよ!!」


 何を言っても駄目そうだと悟った女性はダンジョンへと案内した。


「到着、デスよ!!」

「うっ。一回下して……」

「もう、仕方ないですねぇ」


 ノエルが本気で走ったため、女性はぐったりとしていた。この先常駐の監視員やダンジョンゲートもあるので、ノエルは女性を下ろすことにした。


「はぁ……はぁ……あなたは一体何者なんですか?」

「まずは自分から名乗るのがジャパン流じゃないデスか?」


 疑問を持つ女性にノエルは尋ね返す。


 日本では名前を尋ねられたらまず自分からという知識はもちろんアニメや漫画作品が源泉である。


「そ、そうですね。私は山崎陽葵。Dランク探索者。妹は陽菜。Eランク探索者です」

「ヒマリですか。いい名前デスよ。私はノエル。国際ランクはBデスよ」


 まず陽葵が自己紹介をし、ノエルが後に続く。


 ノエルは世界中で通用する通常のライセンスはBランク。ただ、国内であれば最高ランクと同様の待遇が約束されている。


「B!?やっぱり高ランク探索者なんですね!?」

「信じるデスか?」


 驚く陽葵を不思議そうに眺めるノエル。最近彼女は自分の言動を聞いても信じてくれる人が多いなぁと感じた。


「私を抱えてあれだけ動ければ相当高レベルだと分かりますから」

「なるほどデスよ。それじゃあ、自己紹介したところで早速行くデスよ」


 陽葵の答えに納得したノエルはすぐにダンジョンを目指してズンズンと歩き始める。


「ま、待ってください」


 陽葵は先に進んだノエルのその背を慌てて追った。

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