第218話 Unknown
―パァンッ
いつものように俺の拳でモンスターがはじけ飛ぶ。
「ふぅ。このダンジョンは中々モンスターが多いなぁ」
葛城夫婦を見つけ、ダンジョンの入り口に向かって進み始めたんだけど、予想以上に敵が多い。戦闘は一瞬だし、負けることはないとは言え、面倒なことには違いない。
「ラック、影魔で掃除してくれるか?」
「ウォンッ」
面倒になった俺はラックに指示を出して影魔にモンスターを倒させることにした。
「すぴー……zzz」
ラックの上に横たわる愛莉珠ちゃんは未だによく眠っている。彼女はラックによって固定されているので落ちることはない。
まぁ七海と同い年って考えれば、一人で残される精神的な疲労はとんでもなく重かっただろうな。
「……」
「……」
それに、先程からなんだか背中に二つの視線を感じている。
「えっと……どうかしましたか?」
俺は流石に居心地が悪くなって振り返る。
「いえ……な、なんでもないわ」
「あ、ああ、なんでもないぞ」
二人とも明らかに動揺しながら俺から目を逸らして明後日の方向を見ながら答えた。
どこか別の方向を見ながらもチラッチラッと俺の方を見てくるので、何もないと言うことはないはずなんだけどな……。
まぁ二人がなんでもないというならそういうことにしておこう。
とっても気になるけど。
「そうですか、何かあったら言ってくださいね」
「あ、ああ。ありがとう。ちなみにこれが君に日常なのか?」
俺は何も気づかなかったことにしようとすると、真さんがなんだか焦った顔をしながらよく分からない質問をしてくる。
真さんの言う日常とはなんのことだろう。
日常と言えばいつもやってることだとして、今はダンジョンから脱出するための探索の真っただ中。
俺が今やっているダンジョン探索がいつもと変わりないか。
ということでいいのかな。
「え?何のことかは分かりませんが、いつもこんな感じにダンジョンを探索していますね」
「そ、そうか。それだけ聞ければいい」
分からなかった俺はひとまず考えたことを述べると、二人は焦った表情のまま何か納得した雰囲気を出していた。
「それじゃあ、先に進みましょう」
「え、ええ」
「あ、ああ」
真さんが納得したみたいなので俺が促すと、二人は神妙に頷いた。
それからはラックの影魔がお掃除しているおかげで敵に遭遇することもない俺達は数時間程歩き続け、階層を数階登った。
「お腹すいた……」
そうぼそりと呟いて一人の人物が体を起こす。
全員の視線を集めるのは愛莉珠ちゃん。
彼女はラックの体の上に跨り、眠そうな目のままボーっと周りを見ている。
「愛莉珠ちゃん、腹減ったの?何か食べるか?」
「え?」
愛莉珠ちゃんに声を掛けると、彼女は誰かに声を掛けられるとは思っていなかったという表情をとって俺の方を見た。
「どうかしたか?」
「あ、いえいえいえいえ!!今のは忘れてください!!全然お腹なんて空いてませんから!!」
呆然としている愛莉珠ちゃんに問いかけると、彼女は先ほどまでの寝ぼけ眼をカッと見開いて慌てて体の前で両手を振って自分の呟きを否定する。
「本当に?」
「は、はい、本当です!!」
寝言みたいなものかと思い、念のためもう一度確認すると、彼女は物凄い勢いで何度も首を縦に振った。
―くぅ~
しかし、その時、どこからともなく、可愛らしい鳴き声が聞こえる。
「~~!?」
その音が聞こえるや否や、愛莉珠ちゃんは顔を真っ赤にさせ俯いてしまった。
全く……嘘なんてつかなくていいのに。
「俺がお腹空いたからそろそろご飯にしよう。真さん、アンナさんいいですか?」
「ああそうだな。俺達も生きるのに必死で忘れていたが、確かに腹が減ったな」
「ええそうね。安心したらお腹が空いたわ」
俺は見かねて二人に提案すると、二人も追い込まれていた状況から脱したからか腹が減ったと俺に同意してくれる。
俺は少し開けた場所に出ると、早速準備を始めた。
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ佐藤君。それはなんだ!?」
しかし、準備を始めた途端、真さんに驚愕の表情で尋ねられる。
ああ、なんだか懐かしいな。天音と初めて泊りがけでダンジョンに行った時もこんな感じの反応だった。
「え、ダンジョン飯を食べるための機材ですけど?」
「ダ、ダンジョン探索にこんなものを持ってきているの?」
真さんの代わりにアンナさんが俺に尋ねる。
「ええ、そうですね。シアともよく食べますけど?」
「そ、そう。そうなのね……。まぁ……あれだけの力があるなら問題ないのかしら」
俺の答えになんだかぼそぼそと呟きながら納得した様子のアンナさん。
全く……探索者歴が長いだろうにダンジョン飯を知らないのだろうか?
必修項目だというのに。
「それじゃあ、すぐに準備しますね」
「わ、私も手伝うわ」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺が一人で料理を始めると、そこは女性と言うこともあってかアンナさんが手伝いを買って出てくれた。
シアがとんでもない物体を作った過去があるので少し心配していたけど、普通に手伝ってくれた。
俺達は簡単な男料理とアンナさんの料理を食べてお腹を満たした。アンナさんの料理は美味しかった。
シアはどうしてあんなことになってしまったんだろうか?
七海の悪ノリに釣られたのかな。
俺はそんな疑問を抱いた。
「それじゃあ、出発しましょうか」
「はい」
「ええ」
「ああ」
暫くご飯休憩した後、ダンジョン脱出を再開した。
「十階ね」
それから再び数時間程歩き、何度か階層を登ると、アンナさんが呟いた。
「そうなんですね。後十階くらいなら、明日には脱出できそうですね」
「そ、そうね」
俺の推測にアンナさんも少ししどろもどろになりながら同意する。
なんかおかしなこと言ったかな?
「ウォンッ!?」
しかし、ラックの咆哮が安堵の雰囲気をかき消した。
「何!?影魔が倒されただと!?」
どうやら今まで大抵のモンスターに負けることがなかった影魔が倒されてしまったようだ。
確かに他と比べて多少大きな気配が物凄い勢いでこちらに近づいてきていた、それもラックの影魔を蹴散らしながら。
流石にラックにCランクモンスターは荷が重かったということか。
どうやら戦闘を避けることは出来なさそうなので、俺はこちらからその対象に向かって歩き出した。
「ギギギギギギギギギガッ!!」
洞窟の壁の奥から姿を見せたのはロボットのようなモンスター。楕円形のボディに四本の手足と目のようなレーダーのついていて、大きさは十メートル以上ありそうだ。
「アンノウンだと!?」
「わ、忘れていたわ!!この階層にはあいつがいた!!」
後ろで二人が驚愕で叫んでいる。
どうやらアンノウンというモンスターらしい。
「あれはなんなんですか?」
「この階層の巣くう、イレギュラーモンスターで、他とは一線を画す強さを持つモンスターよ。このダンジョンに来れる探索者でも倒した者はいないわ……もう終わりだわ」
「く、来る時はちゃんと警戒しながら進んだというのに、帰りで出会ってしまうとはついてない……」
俺があのモンスターのことを尋ねると、二人はすでに諦観を浮かべた表情で述べる。
ここはCランクダンジョン。そこで一線を画す強さを持つと言うことはBランクくらいの力を持つということだろうか。
俺はこれでもCランクモンスターを一撃で倒せる探索者だ。Bランクモンスターでもダメージくらいは与えられるはずだ。
戦闘が避けられないと言うのなら戦うしかない。
それに俺は七海に会うためなら魔王だって倒してみせる!!
「俺に任せてください!!」
「お、おい。止めておけ。流石の君でもあのモンスターには勝てない!!」
「そ、そうよ。なんとか逃げる作戦を考えましょう!!」
「ははははっ。大丈夫です!!七海と会うためなら魔王だって倒せますから!!それでは!!」
俺がアンノウンとの戦闘を買って出ると二人が慌てて俺を止めてきたんだけど、七海と会うのを邪魔するアイツを許すことはできないので、適当に返事をして走り始めた。
「や、止めるんだ!!」
「早まっちゃダメ!!」
二人から聞こえる叫びを無視して俺は迫りくるアンノウンに、こちらから迫っていく。
そして俺はアンノウンに躍りかかった。
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