第217話 思いがけない邂逅
「自分は佐藤普人と言います。それとつかぬことをお聞きしますが……」
「ここは……天国か?」
丁度自己紹介が終わり、気になる名字の事を聞き終わったところで、膝枕をされていた葛城真と呼ばれた男性が目を覚ました。
「あなた、無事で何より。残念ながらここは天国じゃないわ」
「そうか、目の前に天使の顔があったから」
「全くあなたったら……」
俺は何を見せられているのだろうか。
目の前で突然夫婦のイチャイチャが始まってしまった。完全に俺がいるのを忘れている。
「コホンッ」
『~~!?』
俺が咳払いすると、二人はビックリしてこちらを見た。
「あ、あら、ごめんなさいね……あはははっ」
「誰かは知らないが、す、すまんな……」
二人はバツの悪そうな顔を浮かべながら俺に軽く謝罪した。
「えっと、佐藤君?で良かったかしら?」
「ええ」
「佐藤君が私たちを助けてくれたの」
「そうだったのか、ありがとう感謝する」
真さんが目を覚ましたのと同時だったせいで俺の名前にあまり自信がないのか、アンナさんが俺に一度尋ねてから真さんに事情を説明する。
あんなさんの話を真さんは、体をきちんと起こし、正座をして改まった形で俺に頭を下げた。
「いえ、たまたまお力になれそうだったので」
「私からも改めてお礼を言うわ。ありがとう。そういえばあなた、佐藤君は私達にエリクサーを使ってくれたのよ」
俺はカバンの中で肥やしになっていたアイテムを使っただけだったので、気にしなくていいと暗に言ったつもりだったんだけど、アンナさんがエリクサーの事を説召して、話が大きくなる。
「バ、バカな。エリクサーだと!?そんなレアで高価なものを……重ね重ね礼を言う」
エリクサーと聞いた真さんはほとんど土下座のような形で俺の頭を下げた。
「い、いやいや、沢山持ってたので大丈夫ですよ」
「沢山……だと?」
「ホントよ。見せてもらったもの」
俺が慌てて体の前で手を振ると、真さんはアンナさんに視線をおくり、アンナさんは俺の言っていることが間違いないことを証明してくれた。
「全く、娘と同じくらいの年なのに、エリクサーをそれほど所持しているとは……とても優秀なんだな」
「いえいえ、自分なんてとてもとても。それより、自分と同じくらいの娘さん、ということは、やはりお二人には娘さんがいるんですね?」
二人から娘の話題が出てきたので、これ幸いとばかりに一番最初の疑問を解消するために質問する。
「ああ、それがどうかしたのか?まさか……」
「ああいやいや、勘違いしないでください!!お礼として娘さんを紹介しろとか言いませんし、お礼なんて特にいらないですから!!」
「そうか。ならいいが。それでなんだ?」
俺が娘の話題を出すと、真から剣呑な雰囲気が漏れ出したので、誤解を解くと、彼の不穏な気配が収まった。
ふぅ。やはり女の子の男親はこういう者なのか。俺も七海が嫁に行くと言い出したらとんでもなく不機嫌になるはずだ。だからとても気持ちがわかる。
「シア、という名前に心当たりは?」
『~~!?』
俺がシアの名前を出すと二人の反応は劇的だった。二人して目を見開いてお互いに顔を見合わせて、再び俺を見る。
「やっぱり知ってるんですね?」
「シアの正式な名前はアレクシア、であってるかしら?」
「ええ、とてもよくアンナさんに似ていますね」
「なるほど。それならそのシアはおそらく俺達の娘だろう。……それにしてもあのシアが良く愛称を呼ばせているな?」
二人の様子を見て確信した俺が尋ねたら、二人が確認を取った後、シアが二人の娘だということが確定した。
まぁアンナさんと似ているし、名字も一緒だから十中八九間違いとは思っていたけど、まさか両親も探索者だったとはな……。
両親の話をした時にシアは黙ってしまい、表情に暗い影を落とした。その時から俺はそういう話題は避けてきたんだけど、まさかこんな所で会えるとは、二人はこのダンジョンで何をしていたんだろうな。
それはさておき、真さんは感心するように尋ねてきた。
「えっと、実は同じ学校のクラスメイトでして、一緒に探索者のパーティを組んでいるんです。その時に理由は分かりませんが、愛称で呼ぶように言われまして。それと、何か理由があるのかは分かりませんが、パーティを組んでからとにかくずっとレベル上げにこだわっていましたね」
自分にとって愛称を呼ばれている理由は分からなかったので、事実をそのまま述べた。それと、パーティを組んでいた時のシアの様子が気になっていたので報告する。
「そうか、あの子は俺達を……」
「そうね、私達を助けに来ようとしていたのね……」
二人は俺の言葉を聞いて何処か遠くを見ながら答えた。
内容によると、どうやら二人はこのダンジョンで遭難か何かしたようだ。
シアが必死にレベル上げしていたことを考えれば両親はそれなりの高ランク探索者。先ほど顔色を悪くして倒れていた真さんを見る限り、道具を全て失った所で、毒を受けてしまい、動くに動けなかった、と言うところなのかな。
「そうだったんですか……だからシアは……。分かりました。ここが日本なら自分もダンジョンの外に出る必要があるので、一緒に行きませんか?体は万全かと思いますが、精神的に疲れているでしょうし、人数も多い方が良いと思います」
「ここのモンスターは強いが、大丈夫なのか?」
「あなた、大丈夫よ。佐藤君は私達よりも強いわ」
俺の提案に真さんが疑問を呈するが、その疑問をアンナさんが切り捨てる。
「なんとそれは……俺をもってしても分からないとは……とんでもない強さと言うことか」
「いえいえ、このダンジョンのモンスターくらいなら倒せる程度ですよ」
「はぁ……それは頼もしいな」
アンナさんの言葉に驚く真さんだけど、俺の強さはCランクモンスターを一撃で倒せる程度なので謙遜しておく。
俺の様子を見た真さんにはなぜか呆れた表情をされてしまったけど。
「それじゃあ、早速ダンジョンの外に出ましょう」
とりあえず方針が固まったし、二人も体力はエリクサーのおかげで回復しているので、早く帰って妹に会いたい俺はすぐに出発することを提案する。
「やっと出られるのね……」
「そうだな。まさか……このダンジョンから出られる日がこようとは……」
二人は想定できない事態にあってダンジョンから出ることを絶望視していたらしく、出られるという事実に万巻の思いが溢れていた。
よっぽど醜悪な罠が沢山あったんだろうな。
俺は少しだけ二人の気持ちが落ち着くのを待った。
「僕が敵を殲滅しながら上の階段に向かって先行するので後をついてきてください」
二人は疲れていると思うので、俺が出口までの道のりを探知で把握し、先行してモンスターを倒していくことにする。
「出口が分かるの?」
「もちろんですよ!!」
「そ、そう。分かったわ」
「凄いな。了解」
アンナの疑問に自信満々に頷くと、二人は俺の提案に頷いた。
二人を連れて俺はダンジョンから脱出するために歩き出した。
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