第214話 ワン・ターネット(犬の便利さは大陸を越える)
「なるほど、ここはアメリカのアリゾナ州、グランドキャニオンの近くか。なるほどな」
「は、はい!!そうなんですよ、へへへ」
俺は今ダンジョン内で絡んできたアメリカ人のパーティに質問していた。
どうやらここは日本から遠く離れたアメリカの大地。それもとても有名なルート六六から少し外れた所の、さらに有名なグランドキャニオンの近くにあるダンジョンらしい。
「場所がはっきりしたからこれでいいか。ラック、日本の影魔と連絡が取れるか?」
場所が分かった俺はラックに指示を出し、七海につけている影魔との連絡が可能か尋ねる。
「ウォンッ」
「そうか、それじゃあ、まず愛莉珠ちゃんを見つけて保護したこと。次に俺が暫く帰れないかもしれないけど、無事だから安心して待っているように言ってくれ」
「ウォンッ」
ダンジョンの外にいる影魔となら世界中どこでも行けそうだというラック。
お前はスマホか何かか?
お前の便利は一体どこまで行ってしまうんだ。
俺はラックの便利さに感動しつつ、七海に伝えてほしいことを述べた。
なぜアメリカにいることや、ダンジョンの失踪事件が転移であることを言わないのかと言えば、それを聞いたら七海が不安になるからだ。
七海には俺が無事で愛莉珠ちゃんも無事ということが伝わればそれでいい。余計なことを伝えて不安にさせる必要はない。
「それと、ラック。お前の影魔は本当に何匹でも出せるのか?」
「ウォンッ」
「そうか、分かった。この大地のことを調べるため、数十万匹くらい自立型で放っておいてくれ。それと、南アメリカ大陸にいけるようなそっちも頼む」
「ウォンッ」
俺はラックが何匹でも任せろと言うので、影魔をアメリカ大陸全体の調査や、万が一アメリカ大陸で何かあった際に動けるように、放てるだけ放っておくことにした。
適当に数十万匹と言ってみたけど、ラックは涼しい顔で他人にバレないように順次自分の影から黒い影を生み出しまくっていた。
地上であればどこでも連絡可能だと言っていたし、スマホを思い出して、ラックの影魔ネットワークを作る事を思いついたんだよね。
これから転移何回するか分からないし、丁度いいと思う。
「さて、準備は整ったし、ダンジョンに戻ろうか」
「は、はい……」
俺がダンジョンに戻るというと、浮かなそうな顔になる愛莉珠ちゃん。
怖いのかと思ったらお腹を押さえている。
ああ、そうか。また配慮に欠けていた。愛莉珠ちゃんは一晩以上ずっと一人で何も食べずに隠れていたんだからそりゃあお腹も減るか。
「っと、その前に腹ごしらえしようか。おい、この辺りにレストランとかはないのか?」
「え、あ、はい。ルート六六のみちぞいにありますけど……」
「よし、そこに案内して俺達におごってくれ」
「え!?」
「嫌とは言わないよな?」
「は、はいぃいいいいいいいい!!」
俺は絡んできたパーティのリーダーに丁重におごってくれるように頼むと、彼は鳴いて喜んで奢る事を了承してくれた。
俺達はいかにもアメリカンな超盛りのファストフードを堪能した後、ダンジョンに戻ってきた。
「お前たちにはこいつの影をつけてある。余計なことをしようとしたら分かってるよな?」
―ブンブンブンブンッ
「ならよし。じゃあ、またな」
アメリカ人のパーティにはラックの影魔を付けて丁寧にお話しておいたので、俺達のことが漏れることはないだろうし、今後は非常に礼節を重んじるパーティになってくれるはずだ。
「愛莉珠ちゃん、多分あまり寝れてないよね?落ちないからラックの上で寝てていいよ」
ラックの背に乗った愛莉珠ちゃんが、お腹が一杯になったせいか、さっきから舟を漕いでいるので、寝るように促す。
「あ、ありがとうございます……」
愛莉珠ちゃんはその言葉を聞くと同時にラックの背にコテンと倒れて静かに寝息を立て始めた。
「よし、転移するか!!ラックは俺の影に入ってついてこい!!」
「ウォンッ」
俺はすぐにダンジョン内を探知し、転移罠を補足する。そして最速で罠に向かって走り出し、見つけた瞬間、そのまま飛び込んだ。
「ピラミッド!!」
「ウォンッ!!」
次の転移先はエジプトにあるダンジョンだった。
ここでもアメリカ同様に絡んできたので丁寧にお話して分かってもらった後に、ラックの影魔をまた沢山放った後、次の転移罠に飛び込んだ。
「大英図書館!!」
「ウォンッ!!」
次に飛んだのは英国、ここでも同じようにお話して、ラックの影魔を放ってまた次へ。
「ヴェルサイユ宮殿!!」
「ウォンッ!!」
次は仏国。ここでも同じようにお話して、ラックの影魔を放ってまた次へ。
…
…
…
「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会!!」
…
…
…
「タージマハル!!」
…
…
…
「万里の長城!!」
他の国にも行ったんだけど、大まかに伊国、印国、中国という流れで移動し、全てでラックの影魔を放った。
「ふぅ……少し疲れたな……」
転移し続け、絡まれ、場所を聞き出すこと数十回。流石に少し精神的に疲れてきた。
「次行ったら、少し休むか」
「ウォンッ」
ラックの上で眠る愛莉珠ちゃんはそれなりに時間が経ったけど、未だに起きる気配はない。よっぽど疲れていたのと、ラックのモフモフの魔力に囚われてしまったのかもしれない。
俺は愛莉珠ちゃんの穏やかな寝顔をみてそんなことを考えながら、次の罠に跳び込んだ。
「え!?」
転移したその先にはボロボロになった同業者が待っていた。
「だ、誰なの!?」
「えっと、佐藤普人です」
俺は相手から放たれた言葉が日本語だと気づかないまま、自己紹介していたのだった。
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