第215話 待ってるですよ、ジャパン!!(第三者視点)

「それじゃあ、気を付けていくのよ?」

「はーい、色々助かったのですよぉ!!」


 深いスリットの入った白い神官服を身に包んだ少女ノエルと、パンツスタイルの金髪美女ジェシカが別れの挨拶を交わしていた。


 数日ノエルが奮闘した結果、何万人という人数の怪我を治した彼女は、探索者協会から多くの報酬を貰っていた。その内の一つが日本行きの飛行機のチケット。それともう一つは勿論お金。


 お金は銀行に振り込むとカードがないノエルは引き落とすことができないので、一定額は現金で受け取り、服や必需品の購入を行い、事なきを得た。


 宿泊に関してはノエルを心配したジェシカが自分の家に泊めることで、数日のノエルの衣食住は確保された。


「アメリカに来たらまた連絡するのよ?」

「分かったですよぉ」

「ホントに分かってるのかしら」


 ノエルに連絡先を渡したジェシカは、相変わらずなノエルの反応を見て呆れるように肩を竦める。


「あ、忘れてたですよ!!これあげるです!!」


 ノエルは大きなスーツケースをひっくり返して、中から一つの包みを取り出し、ジェシカに手渡した。


「な、なにこれ?」


 突然渡された包みに困惑するジェシカ。


「ジェシカに似合う服作ってみたですよ。色々してくれたお礼です。ジェシカにとても似合うと思うですよぉ!!」

「あ、ありがと。あなたって意外と律儀なのね……」


 ノエルの普段の様子とは裏腹の答えに、ジェシカは不思議なものを見るような目でノエルを見つめた。


「ジャパンには、一期一会、一宿一飯の恩返しという言葉があるです。一期一会とは、誰かとの出会いは一生に一度会えるかどうかわからないくらいの縁で、とても大切だと言うこと。そして一宿一飯の恩返しとは、一晩泊めてもらったり一度食事をごちそうになったり、お世話になった恩を返すこと。私はジェシカとの出会いを大切にしたいし、恩返しもしたいのですよ!!」


 ノエルは少し悲し気な別れを惜しむような表情をして語る。


 ノエルは日本が好きでアニメに出てくる諺や熟語に関してそれなりに知識があるし、教訓じみていたり、とても大切な事として描写されることが多いので、ノエルもそれに準じたいと考えていた。


「あなたって子は……それじゃあ、ありがたく頂くわ」


 その言葉が響いたのかニッコリと笑うジェシカの目許には光り輝く粒が浮かんでいた。


「はいですよぉ」


 ノエルはジェシカの表情を見て満足そうに笑って頷いた。


「それじゃあ、本当に行くですよ」

「うん、それじゃあまたね」

「はぁーい、元気でですよぉ!!」


 ノエルはひっくり返した荷物をスーツケースに入れ直してジェシカに手を振って荷物の預け口に行く。


「ちょっとお願いがあるです」

「これはこれはノエル様。どうされましたか?」

「日本行きの搭乗口まで案内して欲しいです」

「分かりました。担当の者をお呼びしますので少々お待ちください」


 ノエルは荷物を預けると、迷わないように飛行機に乗るまでの案内を依頼する。次こそは日本に行きたいので、また間違ってしまわないように対策を投じた。


 国としても多大な恩があるノエルのことはすでに知られており、彼女に対して最大限の配慮をするのは当然だった。


「お待たせしました。ご案内します」

「よろしくですよぉ!!」


 数分待つと案内が来たのでその案内に従って保安検査を受け、ロビーに向かって一息つく。


 そして今度は間違いなく日本行きの飛行機に乗ることが出来た。


「ふぅ……これで今度こそ日本にいけるです!!待ってるですよ、ジャパン!!」


 今回も席はファーストクラス。これはノエルの功績に対する国からの、快適な旅をして欲しいという感謝の気持ちの一つである。


 ノエルは安堵して席に座り、シートベルトを締めて、手荷物から取り出した日本に関する雑誌を読み始める。


―ポーンッ


 前回同様連絡を伝える音が飛行機内に響き、アナウンスが流れ、飛行機は一路日本へと向かって飛び立った。


「到着したですよぉ!!ジャパン!!」


 そしてノエルは確かに日本に到着した。


 ただし、目の前の光景は神ノ宮学園のある新東都とは似ても似つかない。南国の雰囲気漂う海の見える風景であった。


「でも……ここはどこデスよぉ!?」

「はいさ~?沖縄さ~?」


 それもノエルが到着したのは沖縄県。


 絶叫するノエルに、近くを通りかかった名も知らぬ老婆が立ち止まって答え、再び歩き出してノエルの前を通り過ぎていく。


「沖縄?確か日本の南端の州みたいなものでしたかぁ?いったいなんでこんな所に着いたですか!?」


 ノエルは再び絶叫する。


 なぜノエルが沖縄についてしまったかと言えば、それは飛行機が日本の近くに来た時にさかのぼる。


 突如として現れた台風が二つ。日本の本州から北海道までを丁度直撃していて、どこの空港も着陸できるような状態ではなかったのだ。


 長時間のフライトにより、あまり長い間、様子見することが出来なかったノエルの乗った飛行機は唯一被害を受けていなかった沖縄にある空港に着陸することになったのである。


 沢山持ってきていた日本の雑誌やタブレットに入っているアニメなどを見て過ごし、アナウンスなどを全く聞いていなかったノエルは、空港から出て初めてその事実に気付くこととなった。


「またかぁですよぉおおおおおおおおお!?」


 また秋葉原に行くことができないノエルの悲しさとは裏腹に、辺りには暖かな風が吹き、太陽がまばゆく照らしていた。


 確かにそこはジャパンであった。



◼️◼️◼️◼️◼️



「これは外には着ていけないわね……」


 一方その頃、ジェシカはノエルから貰った服を着ていた。鏡の前でその服を着た自分の姿を見ている。


 それはピッチピチの体のラインが浮き彫りになる全身スーツであった。


 ジェシカの抜群のスタイルが露わになり、裸よりも余程性的興奮を刺激するそのスーツは、外に着ていくには勇気もいるし、変な輩に絡まれるリスクが大きかった。


 ジェシカは独りごちた後、無言でクローゼットの奥へと仕舞い込んだ。

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