第221話 犬の便利さが天元突破する
「いやぁ、今日も快眠だったな」
「お、おはよう。さ、佐藤君は本当にぐっすり寝ていたな」
「あ、真さんおはようございます。そうですね、ラックならあのアンノウン以外に負けることはなさそうだったので、すっかり寝てしまいました」
俺が伸びをして寝袋から上体を外に出すと、臨戦態勢で座っていたであろう真さんが俺の顔を見て困惑しながら話しかけてきた。
探索者としては基本的に交代で番をするのに慣れているからラックに任せるのが難しかったんだろうな。
俺としてはアンノウン以上に強いモンスターの気配は感じなかったし、ラックはダンジョンのモンスターを倒してどんどんレベルを上げているみたいだったから、何の問題ないと判断。
何も心配もすることなく熟睡した。
「そ、そうか、従魔を信頼しているんだな」
俺のラックを信頼しすぎているのが危ういと思っているのか真さんは苦笑いを浮かべる。
確かに従魔を信頼しすぎるのは良くないかもしれないな。自分の警戒心もきちんと持たないと。
「はい。ラックはとっても優秀な奴ですからね。いつも助けられています」
「確かにな。俺は浅い睡眠をとりながら外の様子を窺っていたが、一度も敵が近寄ってきた様子はなかった。モンスターもラック君を恐れているんだろう」
なるほど。今までのダンジョンでモンスターが近寄ってこなかったのはラックのおかげだったのか。やはりとっても優秀なやつだ。
あの時勝手に主人にされたけど、今となっては感謝しかない。
それにラックも強くなったもんだな。Cランクのモンスターさえ倒せるようになるとは。俺が追い抜かれる日も近いかもしれないな。
「ええ、ラックならこの階程度のモンスターであれば問題ないでしょう」
「そ、そうだな……ここでもSSランクのモンスターが出てきたりするんだがな……」
俺がラックを鼻高々に自慢すると、真さんは困惑気味で頷いて何事かをぼそりと呟いていた。
ちょっと自慢が過ぎたかなぁ。
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
一応念のため尋ねてみたけど、案の定気を悪くしてしまったのか真さんは神妙な顔で首を振った。
「なんか、すみません」
俺は自慢しすぎて申し訳なくなったので謝罪する。
「ん?なんのことだ?」
「いや、ラックを自慢してしまって……」
「いや、気にするな。あれ程の従魔は見たことがない。自慢するのも無理はないさ」
「は、はい。気を付けます」
俺の謝罪の意味が分からないといった表情の真さんに、俺がはしゃいでラックを自慢したことを告げると、真さんは微笑ましそうに笑って許してくれた。
自慢が嫌だった風じゃなかったけど、今後気を付けることにしよう。
「あなた~、佐藤君、起きてるかしら?」
俺達の会話がちょうど途切れたその時、外からアンナさんの声が聞こえた。
「起きてるぞ」
「あ、はい」
起きてるので返事をする俺達。
「昨日の残りで悪いんだけど朝ご飯にしましょ」
どうやら朝ご飯の誘いだったらしい。
「分かった」
「分かりました」
俺達は返事をしてすぐにテントから出て、昨日のセットに座り、皆で朝ご飯を食べた。食事の後少しお腹を休めた俺達は、再びダンジョンの外に出るために出口を目指して進んでいく。
「おお、外だ!!」
「ええ、外よ!!」
「帰ってこれたんだ……」
それからは何事もなく、俺達は外に出た。外はもうすぐ夕暮れという時間帯で、色々あった三人は外の景色に各々感動していた。
俺は暫くの間、そっとしておくことにした。
「まさか生きてこのダンジョンから脱出することができるとは思わなかった。本当に感謝している」
「ホントね。佐藤君が来た時、私は殆ど諦めていた。でもあなたが来てくれたおかげで主人も私も五体満足でダンジョンから出ることが出来たわ。本当にありがとう」
「いえいえ、大したことはしてませんから」
暫くして現実に帰還を果たした葛城夫妻に礼を言われて、俺は愛莉珠ちゃんのついでに助けただけなので恥ずかしくて体の前で両手を振る。
「はっはっは。エリクサーの提供に、アンノウンの討伐、富士樹海ダンジョンからの脱出、それが大したことないとは本当に恐れ入るな」
「本当ね。私達がどれほど感謝しているか分かっているのかしら」
「ははははっ。それよりもこれからどうしますか?シアの所に行くならご一緒しますが」
二人がお互いに顔を見合わせて笑いながら、続けて俺を褒めるので、流石に恥ずかしさが勝ってきた。だから強引にこれからの予定に話題を変える。
「そうだな。できればそれまでは力を貸してもらおう」
「そうね、お願いするわ」
「分かりました。しかし、ここからだと帰るまで時間がかかりますね……」
二人は強引な話題転換に少し笑いながらも、シアと会うまでは一緒に行くこととなった。
そうなってくると問題なのは現在の時間と、ここから豊島区まで帰るのにかかる時間。県をまたいでいるのでどうしても時間がかかってしまう。
現在もう夕方なので今から帰るとなると、結構夜遅くなってしまうだろう。
それならどこかの宿泊施設で一度休んでから帰った方がいいかもしれない。
「そうだな……とりあえず今日はこのダンジョンに一番近い探索者組合の施設で休むか?」
「それがいいかもしれないわね」
二人も俺と同じように考えているようだった。
「ウォンッ」
「なんだ?ラック。言いたいことがあるのか?」
しかし、そんな俺達の考えを遮るようにラックが鳴く。
「ウォンッ」
「なんだと!?」
尋ねる俺にラックが答えた内容は驚愕するものだった。
「どうかしたのか?」
「ラックの奴がたった今物凄いスキルを支えるようになったみたいです」
その内容とはラックが新しいスキルを使えるようになったというもの。
真さんにもそう伝えた。
たかがスキルを使えるようになっただけだろ、そう思われるかもしれないけど、そのスキルがとんでもない代物なのだ。
「それは?」
「簡単に言えば、特定の影から影に一瞬で移動できる瞬間移動のスキルです」
『はぁああああああ!?』
俺の答えに三人は驚愕の叫びをあげた。
それもそのはず。
ラックが覚えたのは影魔がいる場所に転移できるスキルだったのだから。
ラックよ、お前の便利さはどこまでいくんだ……。
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