第220話 ダンキャン△再び

「はぁ!!」


 目の前に居るアンノウンという敵。


 もはや流れるように気功を体中に巡らせられるようになってきた俺は、拳に気功を纏わせ、ダンジョンに被害は出さずに、奴の体のみを破壊するように攻撃を叩き込んだ。


―パァンッ!!


 結果はあっけなくモンスターは今まで戦ってきたモンスターと同様にはじけ飛んだ。違ったのは体の一部が残ったのと、その再生速度。


 はじけ飛んだ先から再生する。


 まさか気功を纏ったパンチでも全て弾け飛ばすことができないとは、俺も少し驚いた。


「なんだぁ!?我慢比べかぁ!?付き合おうじゃねぇか!!」


 俺は連続でパンチを放つ。相手は負けじと再生を繰り返す。


 しかし、アンノウンは俺の攻撃に再生することでしか対応できずに防戦一方だ。


 俺の体力が切れるのを待つつもりのようだ。


 ははははっ。やれるならやってみろ!!

 七海の所に帰る俺の邪魔をする奴は"死"あるのみだ!!


 俺はさらに拳速を上げていく。


「グギ、ガガガ、ギギッ……」


 するとアンノウンは何やら途切れ途切れの機械音出して、再生が追い付かなくなった。


 流石気功パンチ。


 裏試験の中でも特別な位置にあるであろう隠し熟練度だ。アンノウンの奴がどんどん削れて小さくなっていく。


 そしてその時は訪れた。


 元々は十メートル以上あった体積がもはや俺と変わらない程度まで削り切られた時、モンスターは魔石へと姿を変えた。


「ふぅ。中々強かった。流石Bランクモンスター。気功を使いこなせるようになっていなかったら危なかったな」


 魔石に姿が変わったことで俺は大きく息を吐く。


 しかし、今回Bランクモンスターと出会たことは良かった。なぜなら自分の熟練度がBランクに通用するレベルまで上がっていることが確認できたからだ。全てマックスにすればAランクにも通用するはずだ。


 そうなった時、俺は晴れて裏試験に関して合格を言い渡されるんだと思う。


「楽しみだな……」


 俺はステータスがない自分でも高ランク探索者と呼ばれるAランクに至ることが出来そうな未来にワクワクした。


「おーい、大丈夫か?」

「大丈夫?」

「お兄さん、大丈夫ですか!?」


 そんな俺達の元に真さん達が駆け寄って声を掛けてくる。


「ええ、問題ないですよ。バッチリ倒しましたから!」


 俺は魔石とその隣の虹色の宝箱を示しながら笑みを浮かべて答えた。


「全く、君ってやつは……まさかアンノウンを倒してしまうとはな……」

「本当ね。今まで誰も倒せなかったのよ?」


 真さんとアンナさんが俺がアンノウンを倒したことを褒めて労ってくれた。嬉しいけど、多分ここの適性ランクであるCランク探索者までの中では倒した人はいないってことだよな、多分。


 流石にBランク以上になっている人達ならアンノウンを倒せないわけないし。

 実際一緒にパーティを組んでいる天音なら倒せるはずだ。


 それならやっぱり俺の予想は間違いないと思う。


「はははっ。それは嬉しいですね」


 俺は素直に二人の称賛を受け取った。


「ふぅ、流石に今日は色々あって疲れた。そろそろ野営にしないか?」


 アンノウンを倒した後、真さんが少し疲れた表情で俺に提案する。


 そういえば、真さんは毒から回復したばかりだった。体は全快したかもしれないけど、精神面とかまだ回復しきれていない部分があるのをすっかり忘れてしまっていた。


「そうですね。分かりました」


 俺は少々申し訳なさを感じつつ、その提案に頷く。


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!!それはなんだ!?」

「いや、男子用と女子用の安心安眠の高機能テントと快眠できる寝袋ですけど?」


 俺が魔石と宝箱を回収して野営の準備をし始めると、真さんが再び俺の出しているテントにツッコミを入れてくる。


 全くダンジョン飯を知らないことと言い。ダンキャンまで知らないとは一体どういうことなんだ?

 真さんは意外と情報知らずなのか?


「そういうことを聞いてるんじゃない。夜は交代で見張りだろ?そんな如何にも全力で寝ます、みたいな道具をなんで出してるんだ?」


 なるほど。真さんは夜の見張りがあるのになんで全員寝るための道具を出しているのかと言うところが疑問だったのか、それなら早く言ってくれればいいのに。


「ラックが見張りをしてくれるから全力で寝るためですけど?」

「……はぁ……もういい……」


 俺が真さんの疑問を解消する答えを述べると、真さんはしばし口を噤んだ後、ため息を吐いて俺が取り出して設置した、キャンピングチェアーに腰を下ろし、背もたれに思いきり体を預けて目を瞑ってしまった。


 俺は真さんが気に障るようなことでも言ってしまったのかもしれない。


「えっと、なんかすみません」

「いえ、あなたのせいじゃないわ。気にしないで。それよりも夜も料理をするのかしら?」


 俺はなんだか申し訳なくなってアンナさんに謝罪すると、彼女は苦笑いを浮かべて肩を竦めた後、俺に尋ねる。


 美味しいダンジョン飯を食べたいので当然俺は料理するつもりだ。


「勿論ですよ」

「それじゃあ、料理は私と愛莉珠ちゃんでやるからあなたは休んでて良いわよ」


 その旨をアンナさんに伝えると、アンナさん達女性陣が料理をしてくれるという。


「い、いや、流石にそれは悪いですよ」

「あなたはずっと先導してきたわけだし、私達はなにもしてないから任せてちょうだい」

「お手伝い位ならできます!!」

「そ、そうですか?それじゃあ、お言葉に甘えて」


 俺は全員保護対象なので何かしてもらうのは悪いと思ったんだけど、二人がとてもやる気だったので、恐縮しながらもお願いすることにした。


「ええ、この食材はあるかしら?」

「はい、これで大丈夫ですか?」


 俺はアンナさんに指示された食材を取り出して調理セットのテーブルの上に並べる。


 食材は結構買い込んでいたから要望に応えられてよかった。


「ありがとう。本当になんでもあるわね」

「いえいえ、なんでもありませんよ、買ってきたものだけ、です」

「はいはい。それじゃあご飯が出来たら呼ぶから少しゆっくりしててね」


 自分が提示した食材が出てきたことに感心している様子のアンナさん。俺は流石になんでもはないと照れ笑いを浮かべると、アンナさんは微笑ましそうに笑いながら俺を追い払う。


「はい、ありがとうございます」

「ふふふ、それはこちらの台詞よ」


 俺はアンナさん達に頭を下げた後、二人の元から離れ、地面の寝そべるラックの腹に寝転がった。


「ふぅ、もうすぐ帰れそうだな」

「ウォンッ」

「そうだな。早く七海たちとダンジョン探索したいな」


 俺はラックの腹に寝そべり、再び七海たちとの日常に戻る事を想像しながら、夕食が出来るのを待った。

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