第204話 拡大する事件

 学校が再開され、十日程経った。


 俺はと言えば、基本的に厳戒態勢前と同じ生活を送っていた。


 違うのは、まずダンジョンに行く時のパーティ。これに七海と天音、そして零が加わった。


 七海はこっちの学校に転入した時にはすでに厳戒態勢に入っていたため、厳戒態勢解除後に初登校し、性格と容姿があいまってすぐに友達が出来、クラスカースト最上位になったらしい。


 七海だったらすぐに友達が出来ると思ったけど、クラスで空気になっている自分としては複雑な気持ちだ。


 それから、こちらの学校でもすぐに男子たちからの人気を集め、告られることもしばしば。しかし、「まず最低条件がお兄ちゃんより、強くてかっこいいことかな」と断っているようだ。


 うんうん、七海は分かっているな、偉い。

 妹と付き合いたくば、まずは俺を倒していけ。


 天音に関しては、ダンジョン攻略中は特に特筆すべきことは無いんだけど、買い物に付き合った後で、女子たちの話し合いで何か決定されたらしく、俺との接触をしばらくの間禁止されたようだ。


 ようだ、というのは、直接聞いたわけではなく、天音の言動と行動や、他の女子連中の言葉から察しただけだけど。


 零に関しては探索者の仕事がちょこちょこあるので、不定期に休みの時に混ざる感じになっている。


 俺達もそうだけど、零はすでにお金のが働く必要がない。しかし、Sランク探索者ともなると、組合から仕事が斡旋されることがあるので、高ランク探索者の義務としてある程度受ける必要があるため、仕方がないらしい。


 それから二つ目は、ダンジョンの帰りに家によってご飯を食べたり、泊まっていったりするようになったこと。


 今日もダンジョンの帰りに家によってご飯を食べ、食後にのんびりしているところだ。今日は零も仕事がなかったため、一緒にダンジョンに潜り、のんびりとレベル上げをしていた。


「いつもすみません」

「いいのよ。七海と普人がお世話になっているんだから気にしないで」


 零は家に来ると母に少し申し訳なさそうに頭を下げるけど、母はにこりと笑って俺達の方に視線を向ける。


「そうだな。零には世話になりっぱなしだ。遠慮しないで欲しい」

「そうそう、零ちゃんにはとってもお世話になってるもんね」


 母の視線に俺と七海が頷きながら答えた。


『続報です。最近日本各地のダンジョンで行方不明者多数出ているダンジョン失踪事件ですが、本日も新たな犠牲者が出た模様です……』


 そんな時、ダンジョン失踪事件のニュースがテレビから流れ始める。学校が始まった際にはすでに顕在化していたこの事件だけど、最近益々失踪している探索者が増えているらしく、度々ニュースで取り上げられるようになっていた。


「最近、この事件のニュースばかりね」


 ニュースを聞いた母さんが呟く。


「そうですね。組合でもかなり問題視されていて、高ランク探索者による調査が始まっています。私も組合から調査を依頼されて、この辺りのいくつかのダンジョンに潜ってはいますが、そのダンジョンでは今のところそれらしい原因は見つかっていませんね。ただ、現時点でこの辺りのダンジョンで誰かが失踪したという話は聞いていません」

「そうなのね。あなたたちに限って何かが起こることはないと思うけど、無理はしないようにね」


 零が度々仕事に駆り出されているのはこのダンジョン失踪事件も関係しているらしく、豊島区のダンジョンの調査結果を教えてくれる零。


「分かってるって。なんとかなるよ」

「うんうん、何か起こってもお兄ちゃんがいれば大丈夫だよ!!」

「確かに普人君ならなんとかしちゃいそうだよね」

「ホントにね」


 俺達を心配する母さんに俺と七海が安心させるように答えると、天音が苦笑しながら呟き、零も同じような笑みを浮かべて頷いた。


 Sランク探索者でも分からないことをこのEランク探索者の俺がどうにか出来るわけないでしょうに。七海は俺が好きすぎるから分からなくはないけど、この二人の俺への信頼感は一体何なんだろう。


 確かにEランク探索者としては、裏試験の進捗状況もあってCランクのモンスターも倒せるレベルにはなれたけど、BランクはともかくSランクの零には一切及ばないんだからな。


「一切何もわかっていないのか?」

「えっとね、実際にそのばに居合わせた人は目の前で姿を消してしまったと言っていたらしいわ。ただ、転移罠ならダンジョン内にいるはずだからね。パーティでダンジョン内にいればお互いにどこにいるか分かるから、ダンジョン内で失踪した人の気配がないってことは、他の何かに巻き込まれたんだと思うけど、それ以上は何もわかっていないわ」


 俺は何か分かれば対策も出来るんじゃないとかと思い、零に尋ねたけど、転移罠のように消えていなくなり、ダンジョン内からも姿を消す、と言うこと以外に分かっていることはないということらしい。


「とにかく今は気を付けて探索するしかないか」

「そうね」


 出来ることは多くない。とにかく気を付けるしかないと思う。


「それであの……きょ、今日もいいかしら?」

「何がだ?」


 突然モジモジし始める零に俺は意味が分からなくて首を傾げた。


「もう、分かってるでしょ、ゲームよ、ゲーム!!」

「あ、ああ、そういうことか。全く本当にハマってるな。分かったよ。皆はどうする?」


 顔を赤らめて答える零に、俺は困惑しながら他の三人にも尋ねる。


「いいよ~!!」

「私もいいよ」

「ん」


 三人の同意も得られたことでゲームをすることになった。


 それにしてもここまで零がゲームにハマると思わなかった。自分でゲームを買えばいいのに買わないのはなんでなんだろうな?


 俺の疑問は尽きない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る