第203話 痛いの痛いのとんでけ~(第三者視点)

『本日もトリメアル航空をご利用いただきありがとうございました。またお会いできることをクルー一同心よりお待ち申し上げております。それではいってらっしゃいませ』


 アナウンスが流れ、飛行機から利用客がおり始める。


「OH~、やってしまったですよ~。とりあえず降りるですよ~」


 白を基調としたスリットの大きく入ったシスターのような服装をしている少女、ノエルもしょんぼりとしてCAの案内の元、飛行機から降りた。


「結構被害が出てるですね~」


 全世界的なスタンピードによって各国には少なくない被害が出た。ノエルが到着したシカゴも例外ではなく、空港も建物に被害が出ており、所々閉鎖状態になっている。


 そのせいか電子的なゲートやチェックが機能しておらず、人による確認が主流となっていた。


「荷物もお金も何にもないですよ~!!」


 人の流れに乗って空港前にやってきた彼女は天に向かって泣き叫ぶ。荷物が何も届いていないのは当然の事だ。荷物だけは日本に向かう飛行機に乗っているのだから。


 しかし、この少女は財布や携帯などの持ち歩くのが必須の物まで一緒に荷物として間違えて預けてしまっていた。


 彼女は二重の意味でやってしまっていたのだ。


「こうなったら、探索者の力を使って働いて稼ぐですよ~」


 日本に探索者組合があるように各国に、それに相当する機関が存在している。


「確か、アメリカにはハンターズギルドという機関だったですね~。行ってみるです。とりあえず、ハンターズギルドの場所を聞くですよ~」


 ノエルは額の辺りに手で庇を作ってきょろきょろと辺りを見回す。ただ、その目は淡い青色の光を帯びていた。


「OH!!あの人が良さそうです!!」


 一人の人物に目星をつけたノエルは、一直線でその相手に駆け寄った。


「すみませんです!!ハンターズギルドはどこにあるですか?」

「あら、可愛らしいお嬢さんね。ハンターズギルドに行きたいの?」


 ノエルが話しかけたのはスタイル抜群の金髪のロングヘア―をたなびかせる大人の女性。ノースリーブのトップスにパンツスタイルで、出来る女の雰囲気を漂わせている。


 ただし、露出している肌には消えなくなってしまった傷痕が沢山残っていた。


「はいです。仕事したいのです」

「なるほどね。分かったわ。私が案内してあげるわ」


 唯一身に着けていた探索者カードを見せ、女性は頷き、案内を買って出てくれた。


「ありがとです。助かりますです!!」

「いいっていいって。私もちょうどハンターズギルドに向かうところだったから」


 ノエルがパァっと花開いたような笑顔を見せると、その女性は照れくさそうに笑いながらノエルをハンターズギルドへと案内してくれた。


「着いたわよ」


 女性に案内されてついたハンターズギルドは、被害が出ていた町の中にある建物としては綺麗な状態のまま残っていて、探索者達がきちんと守ったことが窺える。


「ありがとですよ」

「海外の人の受付はあそこだから、間違わないようにね」

「わかったですよ、ちょっとお礼するです」


 金髪女性の注意を聞いたノエルはにこりと笑って胸の前で手を組んだ。


「え?」

「~~~~。パーフェクトヒール!!痛いの痛いのとんでけ~ですよ!!」


 女性の困惑も無視し、暫しの間目を瞑って呪文を唱えていたノエルが、カッと目を見開いて魔法名を詠唱した。


 その瞬間、女性の肌に残っていた古傷の類がきれいさっぱり消えてしまったのである。


「こ、これって……」

「ふふふ、お礼ですよ?」


 呆然としてノエルの方を見る女性に、ノエルはにこりと笑って答えた。


「全く……ははははっ。どこの医者にも、ヒーラーにも治せなかったこの古傷を直すなんて、あなた、とんでも無いヒーラーだったのね」

「えっへん、これでもですからね~。このくらい楽勝なのですよ!!」


 乾いた笑みを浮かべながら、女性は信じられない物を見るような目でノエルを見る。その視線を受け、ノエルはどや顔で胸を張った。ただし、揺れるような母性をノエルは持ち合わせてはいなかった。


「せ、聖女!?な、なんで、あなたみたいな大物がこんな所にいるのよ!?」

「ジャパンに行くつもりが、間違って違う飛行機に乗っちゃったですよ~」


 聖女と言う言葉を聞いて突然狼狽えだす女性。


 聖女と言えば、世界でも屈指の回復能力者。どこの国でも有名な事実である。しかし、その人物の情報に関しては規制され、全く出回っていなかった。


 とは言え、本人がこんな性格なのであまり信じてもらえないことの方が多いのだが、今回は実力から見せたため、女性は目の前の人物が聖女だと確信していた。


「今時そんな間違いをするなんて……イメージと違っておっちょこちょいなのね……」

「よく言われるですよ~……


 しかし、見れ見るほど、ちんちくりんという言葉がしっくりくる風貌をしているノエル。女性はノエルをじっくり見つめながら、自身の持っていたイメージと、目の前のノエルのイメージの違いを素直を吐露する。


 ノエルは女性の歯に衣着せぬ言動に、苦笑しながら頭を掻いた。


「よく言われてるね!?はぁ……まぁいいわ。あなただけじゃ心配だし、お礼にしては貰いすぎだから、あなたの力を一番発揮できる仕事が出来るようにギルドにかけあってあげるわ!!」

「ホントですか!!やったですよ~」


 目の前で頭を掻くノエルがとても心配になった女性は、叶わぬ願いであった傷を治してくれたノエルを放っておくことが出来ず、日本に行くための旅費や生活の面倒を見てやることにした。


 ノエルは手を叩いて太陽のような笑顔を浮かべる。


「まぁ、確かにその笑顔は聖女級かしら」


 その笑顔を見て、つられて笑う女性。


 その女性は言葉の通り、ギルドに掛け合って、ノエルが得意とするヒーラーとしての仕事をきちんとした報酬で受けられるに交渉した。スタンピードによって手に負えない程の怪我人が出ているので喜んで受け入れられることとなった。

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