第205話 最愛が俺を呼んでいる

―ティロリロリンッ


 次の日、学校の授業が始まった頃に俺の携帯電話がなった。


「お、七海かどうした?」


 授業が始まったにも関わらず、いきなり携帯電話に出た俺に授業の担当の先生が注意して来ようとするけど、俺が睨み返したら何も言わなくなった。


 俺と妹の話を邪魔してくるやつは、たとえ神でも許さん。


『うわぁあああああああああん!!お兄ちゃん助けて!!』


 聞こえてきたのは七海の泣き声だった。


 俺はまた怒りで視界が真っ白になりそうになったけど、シアが俺の制服の袖を引っ張ってくれたおかげで、キスされた場面がフラッシュバックして、少しだけ冷静になれた。


 前回とは違って七海から連絡が来ている。危機的な状況じゃないはずだ。


「どうしたんだ七海!?」


 俺は気を取り直して通話に返事をする。


『えぐっ……えっと……友達が消えちゃった……』


 本当に最低な奴だと思うけど、俺はここで七海自身のことじゃないと分かって安堵した。


「一体どうした!?何が在ったんだ?」

『ぐす……ダンジョンで……消えちゃったらしいの』


 なるほど。どうやら件のダンジョン失踪事件の関係か。

 ついにこの辺りでも犠牲者が出たのか。


「それで?俺に何をして欲しいんだ?」

『こっちに来て……お願いお兄ちゃん……』


 お願いお兄ちゃん……お願いお兄ちゃん……お願いお兄ちゃん……。


 俺の頭の中に七海の声がリフレインする。


 そんな頼まれ方をすれば、兄としていく以外の選択肢はない。


 俺はすぐに荷物をまとめ始める。


「お、おい、佐藤……」

「なんですか?」


 俺が荷物をカバンに仕舞っていると先生が俺に話しかけてきたので、俺は用件を尋ねる。


 俺は一刻も早く七海の行きたいので早くしろと先生を睨みつける。


「い、いや、早退か?」

「はい、緊急事態なので帰ります」

「あ、ああ、わかった。気を付けてな」

「はい、ありがとうございます。失礼します」


 何やら聞きたそうにしている先生だけど、俺の事情をくみ取ってくれたらしく、何も聞かずに見送ってくれる。


「ふーくん」

「シアか、どうした?」

「私は?手伝う?」


 俺と先生のやり取りを見ていたシアが俺に尋ねる。


 シアも七海の事は妹のように可愛がっているので、自分も何かしたいんだと思う。


 ただ、現状七海が取り乱していて、詳しい状況が聞けていないので、話はそれからだ。


「ありがとう。でも、とりあえず詳しい状況が分かっていないから、分かったら連絡する」

「ん」 


 シアは俺の返答に素直に引き下がる。


「それでは失礼します」

「え!?」


 後ろから何か聞こえた気がしたけど、俺は窓から身を乗り出して飛び降り、校庭に着地すると、七海の所に走り出した。


 俺は五感と直感を研ぎ澄まし、ラックの影魔の気配から七海の居る場所を割り出して、器用に建物に被害を出さないように気功を工夫して、最短距離でその場所に向かって進む。


「七海~、来たぞぉ」


 わずかで一分程度で七海の居場所についた俺。やはり裏試験をこなしていくと身体能力もいつの間にか上がるんだなぁ。


 能動系の熟練度上げるのマジで大事。


「はぁ!?」

「一体どこから!?」


 そこは学校の教室で七海の同級生が俺を見て驚いていた。俺は今窓の外の壁にぶら下がっている。


「あ、お兄ちゃん!!」


 七海が目を腫らして窓の方にやってきて窓のカギを開けてくれた。


「よっと。七海大丈夫か?」

「うわぁあああああああん……」


 教室内に入ると、七海が俺に抱き着いて泣き始める。


「ヨシヨシ……」


 俺は暫く七海の頭を撫でて落ち着かせた。


「お兄ちゃん、来るの早かったね?連絡してから一分くらいしか経ってないよ?」


 七海が上半身を少しを俺から離して真っ赤な目で俺を見上げて尋ねる。


「ははははっ。大事で可愛い妹に呼ばれたら、一分で来るのが兄ってもんだろ?」

「うん、ありがとね、お兄ちゃん……大好き」


 俺が当然のように答えると、七海は俺に再び抱き着いて、俺の胸に顔を埋めた。


 やっぱり七海は可愛いなぁ。


 そんな七海が愛おしくて俺もギュッと抱きしめ返した。


「う、羨ましい……」

「佐藤さんがあんなにデレデレしてるなんて……」

「男に興味無さそうな佐藤さんがあんなに……」


 そんな俺達を見て男たちが七海を見つめている。


『……』


 男達の眼に桃色の香りを感じたので、睨みつけると全員黙った。


「こんなところで恥ずかしいだろ?ほらほら、詳しい事情を教えてくれ」

「え、あ、うん、そうだね」


 七海はすっかりここが教室だと言うことを忘れて俺に甘えていたけど、俺が七海の背中をポンポンと叩くと、七海は我に返って恥ずかしそうにしながら俺から離れた。


「そういえば、授業は?」

「えっと、一時間目は自習になったの」

「そういうことか」


 俺は先生がいないので七海に尋ねると、どうやら自習だったらしい。


「それで、一体どうしたんだ?」

「うん、私が転校してすぐに仲良くしてくれた愛莉珠ちゃんて女の子がいるんだけど、その子が昨日パーティを組んでいる人とダンジョンに潜ったらしくて……」


 納得した俺はその後、七海から失踪してしまった友達の説明を受けた。

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