第192話 悔い改めよ〜(第三者視点)
「もう、選べないですよ~!!」
白衣を羽織った一人の少女が日本の二次元作品のグッズで溢れている部屋の一角で何やら悩んでいた。
ウェーブのかかった金髪のロングヘアーと大きな深紅の瞳を持ち、二次元の住人かのように顔が整っていて、かつ可愛らしい女の子。
「『モブリンスレイヤー』の女神官ちゃんのコス捨てがたいですし、『魔法少女はモブに恋をする』のアケノたんの変身衣装も可愛いですし、『どうしようもなくモブ』のメイたんが通う学校の制服も可愛いんですよねぇ!!」
彼女は全身が映し出されている鏡の前で、自分の体の前に服を持ってきて合わせ、出かけるために着ていく服を選んでいた。
しかし、その服装は明らかに一般的な服装ではなかった。
チャイナドレスのように大きくスリットの入った、白を基調とした神官服。レオタードのようなインナーに、フリルが沢山ついたスカート、そして、アームガードのように長い手袋や丈の長いブーツの魔法少女の変身セットのような服。可愛らしくアレンジされたブレザー等々。
ブレザーは百歩譲ってきていてもおかしくはないが、神官服や魔法少女セットは普通に着て歩いていたらとんでもなく浮いてしまう。
それもそのはず、彼女が話しているのは日本のアニメや漫画、そしてラノベなどの作品名であり、その作中に出てくるヒロインたちの名称。彼女たちが作中で来ている服であり、所謂コスプレと呼ばれる類の服であった。
彼女の私服は、イコールコスプレ。それだけで、この少女じゃ普通でないことはすぐわかるであろう。
武装も似たようなものではあるが、やはりデザイン性よりも機能面が求められるので、コスプレ程に華美ではないためし、ダンジョンに行く時しか着ないので、彼女が持っている服装に比べると、それほど目立たない。
「やっぱり清楚な私には神官ちゃんの服が良いでしょうかね~」
「ノエル~」
部屋の外から少女の名前らしき名称を呼ぶ声が聞こえるが、服と睨めっているしている少女が気づく様子はない。
「でもでも、私みたいにキュートな女の子なら魔法少女のこのフリフリも似合いマスからねぇ~。うーん、難しいです」
―ガチャリッ
姿見の前で腕を組んで唸りだした彼女の背後の扉が開く。
「ノエルったらいつまでやってるの!!」
入ってきたのはノエルと呼ばれた少女によく似た女性。彼女を何十歳か年を取らせればこの女性になるだろうという容姿をしている。
「マミー!!服が決まらないんですよ!!」
怒鳴られて初めて自分の母が部屋にやってきていることに気付いたのノエルは、両手に服をもって真剣な表情で叫ぶ。
「そんな下らない事悩んでないでさっさと決めなさい!!飛行機の出発まで後一時間よ!!もうそろそろ出ないと間に合わないんだから早くしなさい!!」
「オー!!せっかくの憧れの国に行くのに服は妥協できないでしょう!?」
呆れるように再び怒鳴られてるノエルだが、全く譲る気配はない。
それもそのはず。彼女は小さい頃に日本の誇るジャパニメーションを見て以来、すっかりはまってしまい、そこから派生して漫画やラノベと言った作品も読むようになって、今では日本語も分かるほどにのめり込んでいた。
今回の自分にとっての聖地である日本に行く機会を得たので、出来るだけ最高の状態で入国したいと考えていたため、服選びにも余念がないのである。
「だったら今すぐ決めなさい!!」
「分かったですよ~、こっちの神官ちゃんの服にします」
しかし、時間は待ってはくれない。すでに家から出発しないとそろそろ飛行機の搭乗に間に合わなくなってしまう頃合いだ。服選びに悩んで飛行機に乗れませんでした、などという言い訳は通用しない。
流石のノエルもこれ以上悩むのを諦めて、白を基調とした神官服を選択する。
「はいはい、さっさと着替えて下に降りてきなさいよ?」
「わかったですよ~」
もう付き合いきれないとばかりに念を押すように言うノエルの母に、彼女は手を挙げて返事をすると、ノエルの母は部屋から出ていった。
「残念ですが、これ以上は仕方ありませんね、すぐに着替えましょう」
ノエルは独りごちていそいそと着替え始めた。
「これでばっちりですよ~。我ながらヒロインにそっくりすぎて怖いですねぇ、ふふふ」
着替え終えたノエルは、自分のコスプレ姿を自画自賛しながら姿見の前で色んなポーズを決め初め、うっとりとした表情で自分の姿を見る。
彼女は初めて『モブリンスレイヤー』を読んだ時、その拍子に描かれたヒロインが自分をモデルに書いてるんじゃないかと思えるほどに似ていたため、それ以来自分がコスプレすることで、そのヒロインが動いているように見えて、心の中でニヤニヤしているのである。
「悔い改めよ~!!」
作中でヒロインの一人である女神官の口癖を独り言ちながらポーズを決めたノエル。
「あなたが悔い改めなさい!!」
―ゴンッ
悦に浸っていたノエルだったが、突然ノエルの母の声が聞こえたと思ったら、頭に衝撃が襲い掛かり、ジワジワと痛みを伝えてきた。
「ごめんなさぁあああああああい!!」
彼女はあまりの痛みと母の剣幕に大声で謝罪を叫ぶのであった。
■■■■■
いつもお読みいただきありがとうございます。
カクコン用の新作を公開しております。
https://kakuyomu.jp/works/16817139557489215035
どうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます