第191話 締まらない男の締まらない終息(第三者視点)

「隊長、六時方向、距離二百メートルです」

「了解!!」


 探知系能力を持つ矢代の指示に従い、新藤は街を疾駆する。


 担当エリア内に到着した新藤率いるA班と、B班。各自の能力を鑑みてツーマンセルを組ませて担当エリアをさらに分割して、担当区域を決め、そこの守りと避難が遅れた住民の救助を行うことにした。


 新藤は探知系の能力を持っていないので、いつも組んでいるパーティのメンバーの一人である矢代を相棒にして、モンスターの駆除と避難民の誘導を行うことになり、今に至る。


「助けてくれぇええ!!」

「グルルッ!!ガウ!!」

「ぎゃああああああ!!」


 矢代の指示に従い、非難に遅れた人間がモンスターに襲われている現場に向かっていたが、一歩遅く、モンスターに襲い掛かられ、腕に噛み付かれていた。


「矢代いけるか!?」

「はい!!」


 矢代は飛び跳ねながら移動し、ある時大きく飛び跳ねると、どこからともなく出した弓に魔、力で形成された矢をつがえて、狙いを定めた後、解き放った。


―キィイイイイイイイイイインッ


「ギャッ!?」


 まるで耳鳴りのようなキィンという音が鳴り響き、モンスターを貫く。モンスターは体に大きな穴を空け、その場に倒れた。


「ぐ……がっ」


 その間に現場に近づいていた新藤が懐からポーションを取り出し、一般人の男がモンスターに噛まれてしまった部分を露出させて振り掛けた。


「ぐわああああああああ!!」 


 その瞬間、痛みで男は目を見開いて叫び声をあげる。暴れる男を押さえつけながら薬を最後まで掛ける新藤。


 モンスターの歯型がしっかりと残り、ジュクジュクと血が流れていた部分が、まるで録画の逆再生のように巻き戻り、すっかり元通りになった。しかし、血を結構流しているのせいか、男の動きが鈍い。


「あ、ありがとう」

「間に合ったみたいで何よりです」


 治療してもらった男が新藤に頭を下げると、新藤は爽やかに笑って答える。


「あのままだったら、妻を残して死んでいたかもしれない。本当にありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。あちらが安全ですので、あちらに向かってください」

「分かった」


 立ち上がって再度礼を言う男に、安全な方角を指で指し示して避難を促すと、彼は頷いて新藤が指示した報告へと重い体を引きずって歩いていった。


―ドォオオオオオオオオオンッ


 その時、学校の方で凄まじい音と土煙が上がる。


「おいおい、大丈夫なんだろうな?」

「今のところこれ以上、モンスターが学校から漏れている気配はありません。今は街の方を優先しましょう」

「はぁったく。そうだな」


 天音の通う学校の方を心配そうに見つめる新藤だったが、矢代に促され、断腸の思いで街を優先する。


「十二時の方向、三百メートルです」

「了解!!」


 矢代が次の場所を指定するので新藤は急いでその方向に向かって走りだした。


 佐藤普人、天音に傷一つでもつけてみろ、俺が許さないからな。


 新藤は普人に対して理不尽な想いを抱きながら。


 それからいくつかの場所を回り、一時間程経つと、もう逃げ遅れた人間も、街に潜り込んだモンスターの気配も見当たらなくなる。ただ、被害の爪痕だけが残った。


 街の至る所がモンスター達によって破壊され、煙を上げている。ただ、幸いなのは、死人が出たという報告がなかったことだ。


 今回はかなり早い段階で情報が回ってきて出動できたのと、ある程度探索者が留まっていた学校内でのスタンピードだったので、街に漏れてしまったモンスターがそれほど多くなかったというのが大きい。


 もちろんその中には普人達や影魔の活躍もあったのだが、新藤が今回それを知る由はなかった。


「どうやら、これで終わりみたいだな」

「そうですね」


 新藤は救助活動が終わったことで安堵の息を吐き、矢代もそれに同意する。


「学校のダンジョンのスタンピードはどうなったんだ?とんでもない音が何度もしていたが。今はもう静かみたいだが」

「ちょっと待ってくださいね」


 街の被害は最小限に食い止められたが、元凶であるダンジョンのスタンピードが収まっていないのなら、そちらの応援に行くべきだ。


 そのために新藤は矢代に確認をとると、矢代は連絡を取った。


「室長、どうやら学校のダンジョンのスタンピードも全て鎮圧できたようです」

「そうか、それは良かった。それじゃあ、俺達も他の区域の応援に行くか」

「了解しました」


 ダンジョンのスタンピードの制圧の確認が取れた新藤たちは一度ため息を吐くと、気を取り直して別の場所の手伝いに向かおうとした。


―グゥウウウウウ


 そんな時、新藤の腹の音が鳴った。


「新藤室長……」


 そんな新藤を残念な生き物でも見るような眼で見つめる矢代。


「仕方ねぇだろ!!今日は飯食ってねぇんだよ!!」


 恥ずかしそうに腹を押さえながら新藤は思いきり叫んだ。


 相変わらず締まらない男、探索者組合緊急対策室豊島支部室長新藤であった。


 それから三時間後、モンスターを入念に捜索したが、もうこれ以上のモンスターが外にはいないと判断され、学校で起こった三つのスタンピード事件は完全に終息することとなった。


 新藤は帰還後、たらふくご飯を食べたという。

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