第187話 孝明の危機(第三者視点)

「ふぅ、どうやらこのまま終わりそうだな」

「ああ、そうだな」

「一時はどうなると思ったけど、問題なく終わりそうでよかったよ」

「ホントそれ、Dランクって聞いてハラハラしたぜ」

「アニメの事考えてる暇なかったし」

「それもFPSの事を忘れていたな」


 アキとそのパーティメンバーはどんどん溢れ出すモンスターが減っていき、対応が必要な場面が減ってきたことで、大分休憩時間が増え、雑談できる程に余裕がある。


 ただし、散発的にモンスターを倒し漏らすということはあるので、気を抜かないように気をつけていた。


 このままいけば、もうすぐFランクダンジョンのスタンピードは終わりそうだ。


 この場にいる誰もがそう思い、多少気を抜いている部分があるのは否めない事実であった。


「おーい!!そっちに行ったぞぉ!!」

「了解でーす!!」


 また一匹のモンスターがアキたちの方に流れてきたので今までと同じようにパーティで連携して攻撃を加える。そして問題なく勝利し、再び雑談に戻れるはずだった。


―ドォオオオオオオンッ


『ぐわぁああああああああ!!』


 しかし、その予想は裏切られてしまう。轟音と共に探索者達の苦痛の叫びが辺りに響き渡たった。


「え?」

「おい、よそ見するな!!」


 野太い悲鳴を聞いて思わずその声の方を向いてしまったアキ。猛スピードでモンスターが迫っていたが、盾役が間に張り込んで事なきを得る。


「あ、わりぃ!!せいや!!」

「はぁ!!」

「とりゃあ!!」


 気を抜いたことを謝った後、すぐに盾役の横から回り込んでモンスターを切りつける。それに他の仲間たちも続き、止めを刺した。


 ころりと魔石が地面に転がるが、それよりも気になるのはさっきの探索者達の悲鳴。


『~~!?』


 アキ達が振り返ると、そこには地獄が広がっていた。


 横たわる先輩探索者と応援にきた探索者。血を流し、ピクリとも動いていない。自分達以外誰一人として探索者達が立っていないという事実は全員の気持ちを震え上がらせるには十分だった。


 そしてその状況を作り上げたであろう敵がダンジョンの入り口からわらわらと溢れ出してきた。それは今までの獣型のモンスターと違い、人型で人間にかなり近く、しかし、体の一部が異形になっている者達の大群であった。


―ゴクリッ


 アキ達はその大群に思わず喉を鳴らす。


『%「”$”!?*@%*!¥〇』

『#$(’&~#|&=#(%’%』

『>+‘*W{='%_}*?_”&』


 敵のモンスター達は首をひねりながら何やら話しているが、孝明達には誰ひとりその言葉を理解できない。出てくるモンスター達は幸い孝明たちに興味を示すよりも話し合うことを優先しているようだった。


「お、おい、アイツら何を話してるんだ?」

「分からない。でも今まで一度でも話するモンスターを見たり、聞いたりしたことあるか?」

「いや、ないな。あいつら絶対ヤバい奴らだぞ」


 アキ達は話をするモンスターを見るなり、全員で小声で話し始める。そしてその見解は全員一致していた。


 あのモンスター達は自分たちの手におえるようなモンスターではなく、絶対に勝てない凶悪なモンスターであると言うことを。


「そうだな。俺達から気を逸らしている内に助けを呼びに行こう」

「それがいいな。俺たちじゃ先輩たちを助けられそうにない」

「応援にきた探索者達もな」

「その通りだな」

「よし、いくぞ」

『おお!!』


 孝明たちは話し合った結果、ここから離れて応援を呼びに行くことにする。そんじょそこらの探索者では先輩探索者と救援にきた探索者の二の舞になるに違いない。だから、こういう時は緊急対策室のメンバーに来てもらうのが一番だった。


―バキッ


 ひっそりと移動を始める孝明たちであったが、メンバーの一人が瓦礫を踏んで大きな音をその空間に響かせてしまった。


「バカッ。何やってんだ!!」

「わ、わりぃ」

「静かにしないと目を付けられるだろ?」

「もう遅いかも」


 付与魔法を使うメンバーが青い顔をしてモンスターがいる方向を見ていた。恐る恐る他のメンバーもそちらを見ると、モンスター達全員が孝明たちのパーティを凝視していた。


 終わった。


 それが孝明たちの心の声であった。


 そしてそれは現実となる。


―ドォオオオオオオンッ


『ぐわぁあああああああああっ!?』

「え?」


 孝明以外のメンバーが吹き飛び、孝明だけがその場に取り残された。そして気づけば、目の前にモンスター達の前で話をしていた内の一人が孝明の前に立ち、彼を見下ろしている。


 そのモンスターは殆ど人と変わりなく、違うのは真っ赤な瞳と青白い肌、それに指先の長い爪、そして所々ひび割れたようになっている肌、それとやたらと赤黒く肥大したグロテスクな右手を持っていた。


『☆}‘{~|=(’)&#?‘‘P@』

「え?」


 孝明に何か話しているが孝明は何を言っているか分からずに困惑し、その男から発せられるオーラに恐怖で背筋が凍り、動くことが出来ない。


「ぐっ!?」


 その孝明の態度が気に入らなかったのか、気づけば孝明はその異形の手で首を掴まれて持ち上げられていた。それは奇しくも普人が森林ダンジョンで助けた一人の女性と同じ状況であった。

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