第186話 ぼっちに対するクリティカルヒット
「ん!?」
「何の音だ?」
その轟音に辺りを確認する俺達。俺は感覚をすぐに研ぎ澄ますと、それがFランクダンジョンの入り口で引き起こされたことを理解した。
「シア、ついてきてくれ!!」
「ん!!」
俺はすぐにシアに後についてくるように指示を出して、彼女は俺の後をついてくる。
「どうやらFランクダンジョンでヤバい事態が起こっているらしい。強い気配のモンスター達が多数現れている。Eランクダンジョンから七海たちもFランクダンジョンの方に向かっているみたいだから合流してFランクダンジョンに向かおう」
「ん」
すぐ後についてくるシアに、事情とこの後の動きを話し、俺達はDランクダンジョンとEランクダンジョンの道の合流地点を目指して走った。
「七海!!」
前方に七海を見つけた俺は叫んで呼び止める。
「あ、お兄ちゃんとシアお姉ちゃん!!無事だったんね!!」
「ああ、それよりも今は急ごう。分かってるんだろ?」
俺の声に気付いた七海と天音と零は立ち止まって俺達と合流を果たし、無事に再会できたことを喜び合おうとしたけど、今はそんな場合じゃないので、緩んだ表情を引き締めて尋ねる。
「うん!!」
「そうだね!!」
「ええ、急ぎましょ」
「よし、行こう!!」
『了解』
俺の言葉に三人とも頷いて同意を示したので
、俺が号令をかけ、全員が声を揃ろえて返事をした。
パーティ全員が揃った俺たちはFランクダンジョンに向かって走り出す。
「零、Eランクダンジョンの他の探索者達は?」
俺は走りながら現在の状況を把握するために零に情報を確認する。
「私達以外は疲れてへたり込んでるわ。EランクダンジョンなのにCランクモンスターがスタンピードしてきたからね」
「え!?マジかよ!?大丈夫だったのか?」
零の報告に俺は驚愕を浮かべ、念のため尋ねる。
ここにいると言うことは無事だというのは分かっているし、怪我もしてなさそうだから問題ないとは思うんだけど、どうしても心配になるのはどうしようもない。
「ええ、何も問題なかったわよ。皆頑張ってくれたからね」
「そうか、Dランクダンジョンは特に強いモンスターは出てこなかったから、なんだか悪かったな」
「いいえ、疲れてないから大丈夫よ。……佐藤君がモンスターごときに苦戦するわけないでしょ……」
何もなかったという報告を改めてきいて安堵すると共に、そんな大変そうな場所に救援に行けなかった事を謝罪したんだけど、零はさも疲れない風に答えて首を振った。
その後、何かをぼそりと呟いた気がしたけど、聴覚の感度を上げていなかった俺は聞き取れなかった。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も言ってないわよ?」
尋ねてみたんだけど、気のせいだったみたいだ。
俺に気を遣ってくれてるんだろうな。疲れているだろうに。本当に零は頼りになるな。いつも助けてもらってばかりだ。
「零いつもありがとな。それと、Fランクダンジョンで何が起こってるか分かるか?」
「え、な、なによいきなり。ちょっと気持ち悪いわよ?それより、Fランクダンジョンのことだけど、私たちが来た時には問題なくスタンピードは終息しそうだったから。何らかの異常事態が起こっているとみていいわ。強い力を持つ何者かがダンジョンから出てきているのを感じるしね」
俺が感謝の気持ちを伝えたら何故か困惑顔で気持ち悪がられてしまった。ガックシ。
それよりも問題のFランクダンジョンだ。零に確認すると、俺と同じように強い気配を感じているらしい。
「ま、まぁ気にしないでくれ。確かに強い気配のモンスター達が次から次へと出てきているみたいだ」
「佐藤君にも分かるのね」
俺が苦笑した後、零に俺が感じている事を話すと、想定内という表情で俺に問いかける彼女。
「ああ、探索者達の気配がほとんど感じられない。ただし、何人かの気配は感じる。恐らく全滅寸前だ。その中にアキの気配を感じる。急いだほうがいいかもしれない」
俺がさらに気配を探るとアキの気配を感じた。その気配も徐々に弱まっているように感じる。
「アキっていうと孝明君だったかしら?」
「そうだ。俺のたった一人の友人だからな。助けにいかないと」
アキと呼んで伝わらなかったらしく零が俺に確認をされたので、俺は友人であるアキを死なせたくないと思って答えた。
しかし、その言葉この場に波紋を呼んだ。
「お兄ちゃんってぼっちだったんだね!!」
「ぐはっ!!」
まずは七海からジャブ。
「普人君ってぼっちだったんだ?」
「ぐほっ!!」
次に天音からもジャブ。
「佐藤君って見た目に寄らず人見知りなのね」
「ぐへぇっ!!」
そして最後に零からストレートを貰い、俺はガックリと項垂れた。
皆に俺にはアキしか友達がいないことがばれてしまった……辛い……。
「ん!!」
「ああ、ありがとう、シアだけだよ、俺の気持ちを分かってくれるのは……」
シアだけは自分も友達だと言うことを主張して俺を慰めてくれる。良い上司だ。
ティロリロリンッ。
俺のシアへの好感度が上がった。
「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃん、私たちがいるから!!」
「そ、そうよ、私達も友達だよ!!」
「そうね、私も年は離れているかもしれないけど、友人だと思っているわよ?」
「ぐはぁっ!!」
言ってはいけない事を言ったと思ったのか、他の三人は俺を慰める。その優しさが逆に俺に止めを刺した。
俺は小さくなって走るしかなかった。
「って、こんなことしてる場合じゃない。見えてきたぞ!!気を引き締めろ!!」
しかし、今はそんな風に落ち込んでいる場合ではないと思いなおし、俺はグッと姿勢をピンと張って気持ちも整えた後、皆に警告を発した。
「ん!!」
「うん!!」
「りょーかい!!」
「分かったわ!!」
前方に煙が上がっているのを見た四人は俺の言葉に顔を引き締めて返事をした。
「アキ!!」
そして辿り着いた先ではアキが森林ダンジョンであったボーナスモンスターに酷似したモンスターに首を掴まれ、空中に持ち上げられていて、苦しそうにもがいている光景があった。
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