第195話 やってしまったぁです!!(第三者視点)
「マミー、急ぐですよぉ!!」
「全く誰のせいだと思ってるの!!」
着替えを終えたノエルは、急いで車に荷物を積み込んで母を急かす。母はノエルに急かされながらも見事なドライビングテクニックで道路を突き進む。
本当にギリギリなので母も必死で運転していた。その集中力は超一流のスポーツ選手並かもしれない。
「後三十分。間に合うですかぁ?」
「なんとかしてみせるから黙ってちゃんと掴まってなさい!!」
「わぉ!?」
ノエルも流石に心配になって母に尋ねるが、母は運転に集中していてそれどころではない。
母はさらにアクセルを踏み込み、車が急加速する。ノエルは急にかかった力に後ろに倒れるが、シートベルトをしているので驚くだけで済んだ。
それから空港まで、お互い無言で母は運転し、ノエルは間に合うことを祈った。
「気を付けて行ってくるのよ!!」
「はぁいですよぉ!!」
白い神官服を身に纏い、母に元気に手を振るノエル。
ノエル達はなんとか出発時間前に空港につき、カウンターでチェックインし、荷物を預け、見送りが出来るギリギリの場所まで母に連れられてきた。係員の案内に従い、保安検査を終えて搭乗ロビーに着いた。
「あっちですねぇ!!」
ノエルは搭乗券を取り出し、自身が乗る飛行機の番号をチラリと見て二十三番である事を確認し、三番ゲートを目指して歩く。
「お客様いらっしゃいませ。搭乗券とパスポートをどうぞ」
「お願いしますでーす」
三番ゲートに着いたノエルは、受付に搭乗券とパスポートを渡した。
「はい、問題ございません。どうぞお通り下さい」
搭乗券を受け取った受付はカタカタとパソコンで照合し、何も問題ないことを確かめ、搭乗券とパスポートを返却した。
「ありがとですよ~!!」
ノエルは何も疑うことなく、搭乗券とパスポートを受け取り、ゲートを何事もなく通り抜け、その先の飛行機に乗り込んでいく。
「すみません、この搭乗券の席はどこですかぁ?」
ノエルは自分の席の位置が分からずにCAに搭乗券を見せて尋ねた。
「拝見します。この席はこちらですよ」
「はぁい。ありがとうございます」
搭乗券を見せられたCAは、何も問題ないようにノエルを席へと案内していく。
「こちらの席になります。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとですよー」
案内されたのファーストクラスの席の一つ。ノエルのような少女では中々入る事の出来ない場所のはずだが、CAは一切の疑問を持つことなく、その席へと案内した。
「いい席ですねぇ」
ノエルは広々とした席に満足げに頷いて座ってシートベルトを締めた。
「はぁ……楽しみですねぇ、ジャパン。実際はどんなところなんでしょうか……」
日本に恋する乙女は、これから行くはずの日本に思いを馳せる。
「早く秋葉原にいきたいでーす」
―ポーンッ
日本に思いを馳せて彼女の元にアナウンスが始まる合図が届く。しかし、彼女は物思いに耽ることに集中していて何も聞こえていない。
『皆様、おはようございます。トリメアル航空十三便、シカゴ行きをご利用くださいましてありがとうございます。……』
CAのアナウンスが始まり、滑走路に飛行機が移動していく。
何も聞こえていないがゆえに自分が大きな失敗をしていることに気が付かないノエル。飛行機はアメリカに向かって飛ぶための滑走路に到着する。
『皆様、ただいまシートベルト着用のサインが点灯いたしました。
シートベルトをしっかりとお締めください……』
暫くすると、再びCAのアナウンスが流れた。
「シートベルトするの忘れてました!!」
この時はシートベルトという単語が聞こえたので、彼女は無意識的な反応でシートベルトを締めた後、また日本でのこれからのことを考える。
―ポーンッ
『皆様、まもなく当機は離陸いたします。シートベルトを再度確認し……』
それからまた少し経つと再度アナウンスが流れる。すでに飛行機は滑走路を走り始めており、後数秒もすれば離陸するというところだ。
ノエルは日本での生活に思いを馳せたまま戻ってくる気配はない。飛行機はそのまま離陸し、空へと舞い上がった。
「あっ。離陸したです。もうすぐです。待ってるですよ、ジャパン!!」
未だに気付かないノエル。ウキウキした様子を隠し切れずにソワソワし始めた。ノエルは携帯を取り出して、ダウンロードしている日本のアニメ動画を見て心を落ち着かせる。
気づけば飛行機はすっかり軌道に乗り、雲の上を航行し始めていた。
「ふぅ」
ノエルは少し落ち着いたので、窓から外を見る。外は青空が広がり、下に雲が見える。
『皆様、こんにちは。当便の機長を務めますポール・ホーガスと申します……』
そこでちょうど機長のアナウンスが始まった。
『……当機は現在二千二百フィートを順調に航行中です。行き先であるアメリカのシカゴには時間通りに到着予定です』
「え?」
何とはなしに聞いていたノエルは、今機長が言ったセリフの意味が分からなくて呆然とする。
「すみませーん!!」
「はい、なんでしょうか?」
「この飛行機ってアメリカ行きなんですか?ジャパンではなく?」
「はい、そうですね、アメリカのシカゴ行きです」
気が気でなくなったノエルは、すぐに手を挙げてCAを呼び、確認を取ると、彼女の元に無情にも真実を述べた。
「うっそぉおおおおおおおおおお!!」
その衝撃の事実にノエルは大声で叫んだ。
「ど、どうされました!?」
「こ、この搭乗券、ジャパン行きになってますよね?」
ノエルは心配そうに尋ねるCAに慌てて聞き返した。
「い、いえ、アメリカ行きになっていますが……」
「あ……そうだったでーす」
ノエルはそこでようやく思い至った。
それは彼女の搭乗券には特別な細工が施されており、見る人が都合の良い事実を見えるように魔法が付与されていた。それはノエルが特殊な研究所の所属であるため、身元を隠すための魔法だ。
そのことを浮かれてすっかり忘れていたノエルは、何の疑問も持たずに三番ゲートで搭乗券とパスポートを渡していた。その上彼女は思い込みが強く、超が付くほどの方向音痴だったため、二十三番でもなく、三番ゲートにやってきてしまった。
しかし、本来のゲートは百二十三。チラリと垣間見た時に二十三だけを見て二十三番だと判断し、そちらに向かうつもりだったが、さらに方向音痴が発生して三番ゲートに向かってしまったのである。
「やってしまったぁああああです!!」
ノエルは天井に向かって叫んだ。
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