第194話 季節外れの留学生

 中津川首相の会見から一週間、スタンピードが起こることもなく、平和な日常が続いた。スタンピードどころか一度ダンジョンリバースが起こったはずのダンジョンも起こる前の難易度やモンスターレベルに戻ったダンジョンも多く、世界中が落ち着きを取り戻しつつあった。


 そしてついに、政府によって緊急厳戒体制の解除が発表された。


 これにより俺達は晴れてお役御免となるので、明日一度今後の予定に関して学校から説明を受ける。


 七月も二週目に差し掛かり、もうすぐテストと夏休みも迫っているんだけど、俺達は他の生徒よりも遅れているのでどうするのか気になるところだ。しばらくは探索者組と一般人組で分かれて勉強するのかな。


 そして、気づけばあっという間に夜になっていた。


「七海は明日こっちの中学校に初登校か。神ノ宮学園も明日。ここ一か月は朝から晩までほとんど皆とレベル上げしていたから、これからその機会が減るとなると少し寂しいな」

「ウォン?」


 ベッドに横になって感慨深げに独りごちると、ラックがひょっこりと顔をベッドに乗せて俺を心配そうに頭を押し付ける。


「ははははっ。慰めてくれるのか?」

「ウォンッ」

「相変わらず、可愛いやつめ!!」


 俺が寂しさを感じているのを自分をモフって忘れるがいいと言わんばかりのラックに、俺は嬉しくなって撫でくり撫でくりモフモフしまくって可愛がってやる。


 最近、裏方ばかりで寮にいる以外は中々構ってやれなかったので、そろそろ仲間の皆には打ち明けてもいいかもしれないな。


 流石にいつも探索をさせてやれないのは可哀想だ。


 今度一緒に探索に行く時には紹介しよう。なんせ俺の最初の相棒だからな。


 そういえば、学校のダンジョンがスタンピードした時に出てきたCランクの超ボーナスモンスターの魔石は、怖すぎてラックの影倉庫にお蔵入りとなった。というか普通の魔石以外は全部ここに仕舞っている。


 もはやこの一カ月で数えるのも億劫になるくらいにボーナスモンスターの魔石をゲットしたので、倉庫の片隅が魔石置き場と化していた。多分そろそろ兆という桁が見える気がするけど、俺は気にしないことにした。


「それじゃあ、明日に備えてそろそろ寝るか」

「ウォンッ」


 ラックのモフモフを心ゆくまで堪能した俺は、眠ることにした。〇.九二秒で眠りに着いた。大人気漫画の主人公を超えた。


 次の日。俺は学校に行く前に久しぶりにステータス画面を開いた。


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 ■名前

  佐藤普人

 ■熟練度

 ・神・鼓動(99999/99999)

 ・神・代謝(99999/99999)

 ・神・思考(99999/99999)

 ・神・呼吸(99999/99999)

 ・神・五感(99999/99999)

 ・神・直感(99999/99999)

 ・真・殴打(1895/9999)

 ・新・蹴撃(66/9999)

 ・神・防御(9999/9999)

 ・真・愛撫(4258/9999)

 ・新・隠形(3992/9999)

 ・真・会話(142/9999)

 ・新・気功(6142/9999)

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 ここ一カ月は完全に殴打メインで戦っていたので、殴打の伸びが半端ない。それに比べて蹴撃は微増だ。愛撫は、生徒会長のストレスがなかったのと、ラックの存在を隠していたためそこまで増えてはいない。それでも結構増えてるけど。


 隠形も同じで生徒会長から隠れる必要がなかったのと、ダンジョン内でも隠れることはあまりなかったので増えていない。


 会話はよく分からないけど、なぜか増えていた。可能性として高いのはあの知能を持ったモンスター話したせいじゃないかと思っている。次会えば会話できるかもしれない。


 そして、気功はちょっと練習したおかげで、最小限の被害で遠距離攻撃できるようになったので結構使っているせいかかなり増えるのが早い。


 他の皆は"気"じゃなくて魔力を纏わせて攻撃しているみたいだ。俺に魔力があるのかは知らないけど、気と魔力を合せればもっと強くなれる気がする。


「さて、そろそろ行きますか」


 ステータスを確認した後、時計を見ると、良い時間だった。


 俺は制服に着替え、アキと朝食を食べた後、シアも合流して学校に向かった。今日は生徒会長の待ち伏せは何もなかった。逆に不気味だった。

 

「おはよう。久しぶり……皆揃っているようだな。この厳戒態勢下で誰一人命を落とさずにここに戻ってきてくれたことを担任として、そして一人の人間として嬉しく思う」


 教室について先生がやってくると、式山先生は教室全体を見ながら話し始める。


「まず今後の予定だが……」


 先生の話した内容は……、


・探索者は授業内容に追いつくまで別のカリキュラムを組んで授業を行う事。

・テストに関しては免除。次の中間テストから受ける事になる。

・探索者としての実習はダンジョン施設が復旧するまで延期する事。

 

 大まかに以上の三点。ただ、それとは違う、毛色の違ったニュースがあった。


「お前たちと同じように、三日後から留学生が来る予定だ。日本は初めてらしいから仲良くしてやって欲しい。以上」


 そう、留学生が来ると言うことだ。


「先生!!その子は女の子ですか!?男ですか!?」

「女子だ」


 アキがすぐにバッと手を挙げて質問すると、式山先生はニヤリと笑って答えた。


『うぉおおおおおおおおおお!!』


 男子たちは一斉に声を上げて歓喜した。


 それにしてもこんな時期に留学ってちょっと不思議だな。

 世界的にもスタンピードが頻発して大変だったはず。

 留学とかしてる場合じゃない気がするんだけど……。 

 まぁいいか……。どうせ俺には関係のない話だもんな。


 俺は留学生と言う言葉に色めき立つ皆を尻目に、外をぼーっと眺めるのであった。


「おい!!聞いたかよ!!普人!!」

「ん?ああ、なんだって?」


 先生の話が終わり、今日はこれで解散という段になってアキが俺に興奮気味に話しかけてくる。俺はボーっとしていたので何を言っているのか分からずに聞き返した。


「留学生だってよ、留学生!!しかも女の子!!」

「ああ、そうだな」


 アキは女子留学生が来るということが滅茶苦茶嬉しいらしい。高校デビューに失敗し、モブに成り下がった俺には縁のない人物故に、俺はあまり関心がない。


「なんだよ、連れないなぁ……。あぁ、そうだよな……お前にはアレクシアちゃんがいるもんな」

「そんなんじゃないっての」

「ん」


 俺が興味なさげにしていると、何か分かった風にシアの事を持ち出すアキ。シアは隣で無料で頷く。


 何を頷いているんだ?


 シアとは只のパーティメンバーだ。キスはしたけど、あれはお互いに同意してやったというわけじゃないからノーカンだと思う。


「はぁ……お前はいいよなぁ……」

「それで?その留学生の何がいいんだよ?」


 俺とシアの顔を交互に見ながらため息を漏らすアキ。俺はそれを無視して尋ねた。


「そりゃあ、お前、外国人で女の子って言ったら滅茶苦茶可愛いに決まってるじゃないか」

「もうすでにここにいるみたいなもんだしなぁ」

「ん」


 アキが外国人の女子留学生の良さを語るが、俺は隣にシアに視線をやる。自分が可愛いかどうかは別にして、シアは日本人離れした容姿であることは理解しているので手を挙げた。


「今度の子はまた違った感じかもしれないだるぉおおおおおお!?」

「そんなに可愛い子なら尚更だ。少なくとも空気になった俺には関係ないし、関わることもないだろ」


 アキが俺の言葉を否定するように俺を睨みつけてきたけど、俺は肩を竦めて答えた。


「現にアレクシアちゃんと関わってるじゃないか」

「それにはやむに已まれぬ事情があるからだ。これから来る留学生にはない」


 ブーたれながら俺に反論するアキ。そもそもアレクシアも空気メンバーの一人だし、今でこそ日常になったけど、当時の俺はシアに弱みを握られて関わらざるを得なかった、と言う部分が大きい。


 しかし、今度来る留学生とは接点なんてないんだから関わりようがない。


「はぁ……まぁいいさ。早く来ないかなぁ」

「いつ来るんだっけ?」


 俺にいくら言っても無駄だと思ったのか、これから来る留学生に想い馳せるアキ。俺は話をちゃんと聞いていなかったので気になって聞いてみた。


「一応俺達に合せてって言ってたから来週の月曜日からだな」

「なるほどな。それまでは大人しく待つんだな」

「ああ!!待ち遠しい!!」


 俺の質問に答えたアキに肩を竦めたら、アキは天井に向かって叫んだ。


 アキがある程度満足するまで留学生に関しての話に付き合った後、俺達は寮に帰った。

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