第196話 幽霊の正体見たり枯れ尾犬
明くる日、土曜日。
俺とシアはいつも通りレベルあげにやってきた。しかし、今日のメインはレベル上げじゃない。今日は七海と天音と零にも来てもらった。
その理由とは先日考えた通り、全員にラックを紹介しようと思ったから。
「七海、あの二人にラックのことを話そうと思うんだけど、どう思う?」
「いいんじゃない?あの二人なら信用できそうだし」
事前に七海にも相談したけど、七海もゴーサインを出したので、俺は心置きなく話すことにした。
「皆、今日は休みなのに呼び出して悪かったな」
「ん」
「お兄ちゃんと一緒ならいつでも大歓迎だよ!!」
シアと七海は今回の事情はすでに把握済みなので、二人はニコニコしている。シアはアホ毛がだけど。
「いや、別にいいけど、またレベル上げするの?流石に暫くはいいかなって思うんだけど」
「そうね。厳戒態勢が解けたから、そう根を詰めてレベル上げしなくてもいいと思うわよ?」
二人は今日もレベル上げするために呼ばれたと思って少しうんざりしていた。
「いや、今日は皆に黙っていたことを話そうと思ってな」
「え、な、なによ……」
「そ、それは何なのかしら?」
二人は俺が今回二人を呼び出した理由を話すと、なぜかそわそわしてほんのり顔を赤らめている。
一体何の事を想像しているの分からないけど、違うことのような気がする。
「それは、俺達にはもう一人、というか一匹の仲間がいる、ということだ」
「はっ!?」
「えっ!?」
俺が満を持して本題を告げると、二人は思っていた内容と違ったからか、それとも全く気付かなかったからか、はたまた両方かは分からないけど、信じられない、と言う表情をとった。
「一体そんな仲間どこにいたのよ……」
「私が気づかないなんて相当やるわね……」
その後二人は呆然として呟く。
まぁなんにせよ、今まで姿を現さなかった仲間がいると言われれば、そりゃあ驚くよな。
「まぁそれは見た方は早いな、ラック」
「ウォンッ」
『キャッ』
俺がラックを呼ぶと、俺の影から二人の前に大きな漆黒の体毛とラインレッド瞳を持つ狼が姿を現す。
二人は自分の感知外からモンスターが現れたことに驚き、可愛らしい悲鳴を上げる。ただ、敵意は感じなかったせいか、二人が武器を抜くことはなかった。
「うわぁ……。モフモフ」
「可愛いわね。この子が?」
二人は一瞬驚いたものの、出てきたラックをマジマジと観察し、そのつぶらな瞳と犬のような人懐っこい表情等、その可愛らしさに目を奪われている。
「ああ。俺の従魔で狼型モンスターのラックと言う」
零が俺の方が見て尋ねるので頷いた。
「佐藤君の影の中に居たのなら私が気づかないのも無理はないわねぇ」
「ホントホント」
二人はしみじみと言っているけど、それは間違いだ。
「いや、実はあの影の力は俺のスキルじゃない。あれはラックの力なんだ」
「えぇええええ!?」
「そんな能力をもつモンスターなんて今まで聞いたことないわ……」
その間違いを正すように能力のことを二人に話すと、天音は驚愕して叫び、零は呆然としながら呟いた。
「ね、ねぇ、触ってみてもいい?」
「わ、私もいいかしら?」
「それは本人に聞かないとな」
二人はモジモジしながら俺に尋ねてきたけど、俺よりも本人に聞くべきだと言ってラックに視線を向ける。二人も期待を込めてラックの方を見た。
「ウォンッ」
ラックは嬉しそうに鳴いた。
オッケーらしい。
「良いってさ」
「やった!!」
「うふふ!!」
俺がラックの代弁をすると、二人は嬉しそうにラックに近づいてモフモフと撫でたり、抱きしめたりし始めた。
「これは極上の手触り……」
「うちにも欲しいわぁ」
二人はすっかりラックの虜になってしまった。
ラックは七海程熱烈なモフりじゃなくて安堵しているな。
「それで、このラックは影の能力で色んなことが出来る。俺はそれを自分がつかっているように見せていたってわけだ」
「そうだったんだね」
「ホントに凄いわね。他にも何か出来るのかしら?」
二人にラックの説明をすると、二人は興味深そうに聞いてくる。
「ああ、ラックは強さはそうでもないんだけど、物凄く便利で優秀でな。色んな事が出来る。まず、無限?収納。これは影の中に荷物を仕舞っておくことが出来る。容量は今の所、制限はない。しかも中の時間が経過しない。次に影移動。影の中に俺達人間を入れて移動が出来、隠密性が物凄く高い。これは皆が体験したな?次に、影倉庫。これは影が常にある場所に影空間を繋げ、倉庫のように使うことが出来る。しかもラックか、その主人である俺、そして許可された対象しか入ることが出来ない。そして、最後に影魔。これはラックの分身のような影を生み出し、指示の通りに動かしたり、自立させて命令を実行させることが出来る。影の能力の他に言えば、体の大きさを自在に変える事が出来る。今の姿は物凄く小さくなった姿だ。本来のラックはもっと大きい」
「ラックって凄いんだね……」
「とんでもない能力の数々ね……こんなモンスターがいたのなら話題になってないとおかしいわ……」
ラックの余りの優秀さに二人はラックを眺めながらしみじみと呟いた。
「どうだろうな?確かに他に見たことはないな。元々朱島ダンジョンの落とし穴の先のボス部屋にいたんだけど、降参してきたから仲間にしたんだ」
「え!?」
「ま、まさか……」
俺がラックを仲間にした状況を言葉にすると、二人はお互いの顔を見合わせて驚愕の表情を浮かべる。
「二人ともどうかしたのか?」
「な、なんでもないよ」
「い、いえ、なんでもないわ。ちなみに元の大きさに戻ってもらうことはできるかしら?」
二人の様子が気になって尋ねるが、はぐらかされ、話をそらされてしまった。
まぁ悪い事じゃないなら隠し事なんてされてもいいんだけどな。
俺だって話せない事ある訳だし。
「ラック?」
「ウォンッ」
零の頼みをラックに尋ねると、ラックは俺達から少し離れ、本来の大きさに戻った。
「やっぱり……」
「これは確定ね……」
『ラックがここの未知のモンスターだったのね……』
二人はラックを見上げ、俺達に聞こえない程の音量で小さく呟いていた。
「二人とも本当にどうかしたのか?」
俺は二人がおかしくなってしまったんじゃないかと心配になって尋ねる。
「いえ、幽霊の正体見たり枯れ尾花。そう思っただけよ」
零が代表して首を振り、遠い目をしながら答えた。
薄気味悪く思っていたものも、その正体を実際に確かめてみると、実は全然怖いものではない、ということの例え。
「そ、そうか。それは良かった、でいいのか?」
俺には具体的な意味が分からなかったけど、ラックの存在によって、何か正体の分からなかったものが、全然大したことじゃないものだと分かってよかったってことかな。
「ええ。誰にとってもね」
俺の疑問に答えるように零は優しく笑った。
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