第184話 才能の差は歴然

「シア!!」

「ん」


 目に付いたモンスターを倒しながら、モンスターに襲われそうな人間を助け、シアの元に向かうと彼女も今また一人の生徒を助けているところだった。


 辺りにもう逃げ遅れた学校関係者の気配はなく、モンスターばかりがダンジョンからあふれ出している状態になっているので、もう終わったらしい。


「もう大丈夫みたいだな」

「ん。ラックが守ってる範囲は助けた」


 俺が苦笑いを浮かべると、シアは無表情のまま頷いた。


 どうやらラックが範囲外に敵を逃がさないようにしているおかげで、シアが余計なモンスターに関わることなく、逃げ遅れた人間だけを助けることができるようになったので、問題なく救助出来るようになったらしい。


 ラックには極力バレないようにとは言ったが、シアはラックを知っているので一瞬だけ姿を見せて自分がいることを知らせたのだろう。


 いつもながら優秀な従魔だ。


「そうか。それじゃあ、元凶を叩いて、モンスターを殲滅しにしくか」

「ん!!」


 シアを助ける必要もなくなったし、モンスターが溢れている範囲はラック結界によって守られているので、後はダンジョンから出てきてるモンスターを倒し、範囲内のモンスターを殲滅すればスタンピードは終了だ。


 俺がシアに同意を得るように尋ねると、彼女のアホ毛がやる気満々と言った感じで力強く答えた。


―スパパパパパパァンッ

―パパパパパパパァンッ


「こりゃあ、森林ダンジョンの時より酷いな」


 俺はDランクダンジョンに向かうにつれて溢れ出してくるモンスターを殲滅しながら、そのあまりの数に思わず呟いた。


「経験値一杯」

「はははっ。そうだな」


 すると、シアがぼそりと呟く。


 彼女のかかってはどんなモンスターも只の経験値とお金に成り下がるようだ。


 俺は思わず声を上げて笑った。


 海では気功が使えたので一発で殲滅できたが、ここではそうはいかない。しかし、狭い場所でも少しずつ気功を使えるようなりたいので、周りに誰もいない今が練習に最適だ。


「よし、さっさと殲滅して七海たちと合流だ。どうやら学校に着いたらしいからな」

「ん」


 俺は七海たちの気配が校内に入ってきていたのに気づき、目の前から迫りくるモンスター達を消し飛ばしながらシアと顔を見合わせた後、最新の注意を払いながら、ほんの少しずつ体に気功を纏わせていく。


 すると、格段に殲滅量が格段に上がり、攻撃の射程距離が伸びていく。


 お、ということは気を使用した念願の攻撃も出来るようになるかもしれない。


 俺は思い描いた技を実行するために、拳に気を集める。


 みるみる気が集まり、濃縮されていくことで徐々に目で見えるほどに濃い気が拳の周りに集まってくる。俺の期は青白く、蒼炎のように神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「はっ!!」


 ある程度貯まった気を俺は打ち出すように放つ。


―パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァンッ


「は?」


 その結果、とんでもないことが起こった。


 青い気の塊の弾が真っすぐ飛んでいき、直線状にいるモンスターを飲み込んで消し飛ばしていく。その勢いはとどまる事を知らず、どこまでも進んで行ってしまいそうな気配すらある。


 しかし、それは杞憂だったようで、Dランクダンジョンの入り口が見えるまでモンスターを消し飛ばしすと、俺の気は霧散してくれた。もしかしたら俺の気だけあって俺の意志を汲んでくれたのかもしれない。


「何いまの?」


 目の前から敵が消え去ってしまったので、隣からシアが俺に首を傾げながら尋ねる。


「拳に気を纏わせるイメージでやったら出来た。気功とか言われる類の技かな」

「ん。やってみる」


 俺が簡単に説明すると、シアは自分もやってみるという。


「それじゃあ、シアの経験値を沢山俺が倒しちゃったから、俺はしばらくフォローに回るよ」

「ん」


 今の技を"気功波"と呼ぶことにして、気功波によって俺の直線状にいるモンスターを全部倒してしまったので、しばらくシアに任せることにした。


 俺がやるのはシアが気功を使う際に邪魔をするモンスターの排除くらいで良いと思う。


「ん」


 シアが俺の横から少し前に出て再びやってきたモンスター達を切り刻む。そして気づけば刀に眩い白い光が帯びてきているように見えた。


 む。あれは気功?やっぱり俺みたいな裏試験に必死なだけの探索者より、すでに裏試験を極めているであろうシアの方が圧倒的に簡単に使えるようになるんだなぁ。


「やぁ!!」


 そしてしばらく刀を振りまくった後に、刀が一瞬大きな光に包まれたと思いきや、大きく振ったら眩い光を放つ斬撃が前方に向かって射出された。

 

―スパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァンッ


 それにより俺には及ばないものの百匹から二百匹くらいにモンスターは上半身と下半身に別れることになった。そのモンスター達は暫くすると消えていった。


「はぁ……これが才能の差か」

「ん?」


 俺の横に戻ってきたシアが俺の呟きに首を傾げるが、俺は何でもないと首を振った。


 それから三十分後、Dランクダンジョンから出てくるモンスターが止まり、それからさらに三十分で範囲内のモンスターの反応を全て消した。


「これで一応終息かな?」

「多分」


 モンスターを倒し終えたところで呟くと、シアが頷く。


―ドゴォオオオオオオオオオオオンッ


 しかし、俺達の気持ちとは裏腹にFランクダンジョンの方で大きな爆発が起こった。

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