第182話 アキの戦い(第三者視点)

「おう、皆来ていたのか」


 普人の唯一の男子友達である佐倉孝明がFランクダンジョンに辿り着くと、孝明の他のパーティメンバーも全員揃っていた。他にも自分達と同様に一つパーティが待機している。勿論全員が武装しており、孝明も普人からもらった換装リングで武装済みだ。


「ああ、先輩に駆り出されてな」

「そうそう」

「僕は寝てたんだけどね」

「せっかくの休みが台無しだよな」

「レベル上げのし過ぎで疲れてるってのになぁ」


 全員が休日を謳歌していたため、不満たらたらといった雰囲気である。


「スタンピードの状況は?」

「今は今日休みだった先輩たちが入り口近くで押さえてる。俺たちはそこから漏れてしまったモンスターの対応だとよ」

「なるほどな」


 孝明が前方で誰が戦っているのを見ながら今の状況を確認すると、パーティメンバーの一人が答える。


 今日はたまたま戻ってきている生徒の探索者メンバーや元々ダンジョンの監視をしていた人間などのダンジョン関係者、それから探索者育成に関わっている探索者適性を持つ人間などが全部で数十人程度校内に留まっていた。


 そのほとんどがFランクとEランクダンジョンを押さえるのに駆り出されていているという状態であった。元々Fランクダンジョンに居たダンジョン関係者は、Eランクダンジョンの制圧に応援に行き、ここには未成年の先輩探索者しかいない。


「ただ、出てくるモンスターがDランクだから気を付けないとヤバいぞ」

「え!?マジかよ」


 それはこのFランクダンジョンからあふれ出しているモンスターがDランクのモンスターでEランクダンジョンからあふれ出しているモンスターがCランクのモンスターだったからだ。


 Dランクモンスターであれば二年生や三年生は十分対処できる。だから彼らでFランクダンジョンを制圧し、他の人間はDランクダンジョンの制圧に向かった。


 当然、緊急対策室や組合、この学校を卒業した探索者などにも連絡を入れてはいるが、来るまでにはまだ時間がかかる。それまではここにいる人間達で抑える必要があった。


 交代制で休みつつ殲滅するのかと思っていた孝明は、仲間から伝えられた事実に驚愕する。


「ああ、おそらくダンジョンリバースが起こってるらしい」

「それは気を引き締めないとな」


 Dランクモンスターと言えば、一人前になった探索者がようやく一人で倒せるようになるレベルのモンスター。この学校で最低限到達を目指す領域である。


 孝明たちはまだ入学して二カ月弱。正直一人ではEランクモンスターを相手にするのが関の山だったが、最近の度重なるレベル上げによってDランクモンスターもパーティ単位であれば相手に出来るようになっていた。


 ただ、Dランクモンスターともなると、全く気が抜けないので、孝明はグッと拳に力を込めて気を引き締める。


「あんまり今から気を張るなよ。今は先輩たちがきっちり抑えているから問題ないさ。漏れてきても数匹。それに俺達の他にもパーティが一つ居る。二つのパーティがいれば、数十分くらいは抑えきれるさ」

「あ、ああ。そうだな」


 状況を把握して緊張する孝明を見て、パーティメンバーの一人が孝明を落ち着かせ、孝明もちょっと気が急きすぎていたと、少し深く息を吐いて自分を落ち着かせた。


「そっちにいったぞぉ!!」

「お前ら気を付けろよ!!」


 孝明の気持ちが落ち着いた所でモンスターが孝明たちの元にやってくる。


「それじゃあ、いっちょやりますか!!」

「お前はそうじゃないとな!!」


 いつもの調子を取り戻した孝明に、ニッコリ笑うように答えるメンバー。


「ははははっ。どうかしてたよ。それじゃあ行くぞ」

『おお!!』


 孝明の号令で陣形を組み、漏れ出たモンスターも元に駆けつける。

 

「モォオオオオオオ!!」


 孝明たちの前にやってきたのはケモノ型モンスター。それもバッファローのような見た目をしていて、体高が孝明たちの身長ほどはある。


 そのモンスターは孝明たちを見つけるなり、彼らの方に向かって突進してくる。


「受け止めろ!!」

「任せろ!!」


 盾役のメンバーが前に出て、身の丈ほどもある大きな盾でモンスターの突進を受け止める。


―ガンッ


「くっ」


 あまりの力に盾役も苦悶の表情を漏らすが、なんとか弾き飛ばされることも無く、モンスターを押さえることに成功した。


 流石のモンスターの方も全力の突進を正面から受け止められて、軽く脳震盪を起こし、クラクラと後ずさる。


「攻撃力上昇!!防御力上昇!!」

「いくぞ!!」

『おう!!』


 その隙を見逃さずに、能力を向上させたり、下げたりする魔法を得意とする術師がパーティメンバー全員に補助魔法をかける。それを確認した孝明を含む物理職のメンバー達が盾役の隣から飛び出し、バッファローを囲んだ。


「はぁ!!」

「せい!!」

「とりゃあ!!」


 各々が切りかかり、孝明も自分の武器であるハルバードと呼ばれる戦斧と槍を合わせたような武器で切りかかった。


―ザシュッ

―ザシュッ

―ザシュッ


 攻撃力が上がった彼らの攻撃は容易くその硬い皮に覆われたバッファローの肉体を切り裂いた。


「モォオオオオオオ!!」


 この攻撃に溜まらず、モンスターが叫んで首を振る。


「皆離れて!!ファイヤーボール!!」


 さらに畳み掛けるように攻撃型の魔法使いの仲間が背丈よりも長い杖の先からバスケットボール大の炎の弾を打ち出した。それを見たメンバーたちはモンスターから離れるように後ろに飛ぶ。


―ドォオオオンッ


 その魔法は大きさに比べて威力が大きく、モンスターの頭に直撃した途端、爆弾が爆発しような轟音を辺りに響かせた。


 煙があがり、モンスターの様子が足元以外見えないが、動く気配はない。


「どうだ?」

「分からない。ちょっと攻撃してみるか」

「了解」


 メンバーが孝明に確認すると、孝明は首を振った後、攻撃を買って出る。


「~~!?」


 ゆっくり近づいて、攻撃をしかけようとした瞬間、煙の下からモンスターが姿を現す。そこには頭が爆散し、見るも無残な姿があり、徐々に傾いて地面に倒れると同時に姿を消し、魔石が地面にころりと転がった。


「ふぅ。大丈夫だったみたいだな」

「ああ」


 魔石を見て問題なく対処できたことを喜ぶメンバー達。しかし、全員が全力でなんとか相手が出来る相手。気は抜けない。


「おーい、大丈夫かぁ!!」


 それから暫くの間、漏れたモンスター達を片付けていると、後ろから声が聞こえた。モンスターの対処した後に後ろを振り向くと、やってきたのはどうやら連絡のついた探索者達らしかった。


「助かったな……」

「ああそうだな……」

「疲れた……」

「寝たい……」

「ゲームしたい……」

「アニメ消化したいよぉ……」


 その姿を見た途端、疲弊してきた彼らは全員で安堵の息を漏らすのだった。

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