第177話 シアの戦い(第三者視点)

「ん」


―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 アレクシアは以前感じた地鳴りにスタンピードが起こったことを理解した。すぐさまモンスターを自分の経験値に変えるため、外に出ようとする。


 しかし、自分がいま素っ裸だったことをも思い出した。


 アレクシアも普人と同じように寮のお風呂を堪能している最中であった。彼女は自分の体にタオルなどで隠すことも無く、堂々とした態度で浴場内を闊歩し、頭の上にタオルを載せて、無表情のまま鼻歌交じりに露天風呂に浸かっていた。


 彼女はいそいそと露天風呂から上がり、体の水気をふき取り、脱衣所に戻って荷物をまとめ、「換装」と小さく呟いて換装リングで武装する。


―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 そうしている間に、先程とは別の地鳴りが響き渡り、さらに重なるようにスタンピードが起こった。


「どっち?」


 アレクシアはどちらの気配がより強いのか、その鋭敏に強化された探知能力によって後者であると看破する。


 そしてそれはEランクダンジョンの方角を刺していた。


「Eランクダンジョン」


 アレクシアは呟いた後、すぐにEランクダンジョンに向かって走り出した。


―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 しかし、再び揺れを感じた時、急ブレーキをかけて立ち止まる。


「Dランクダンジョン」


 さらに強い気配を感じたアレクシアは導かれるようにDランクダンジョンの方へと方向転換して走り出した。


 その間に、七海、天音、零にLINNEで連絡を入れておく。


 しばらく走ると見慣れた背中を見つけ、隣へと並び、


「ん」


 と、アレクシアが一言発する。


「シアか。誰かに指示されたのか?」

「んーん。強そう」

「そうか」


 シアの言葉に応答するように普人がアレクシアに尋ねると、彼女は首を振って否定した。


「他の皆には?」

「LINNEした」


 さらに重ねてされた質問に端的に答えるアレクシア。


 アレクシアは他の三人のメンバーに学校でスタンピードが起こったことと、普人の指示は後で送ると伝えていた。


「あ、俺は連絡するのをすっかり忘れていたから助かったよ。七海には学校前で天音達と合流してこっちに向かうように伝えてくれ。あ、それから、ラックの影魔にちゃんと母さんと家の周辺を守るように命令しておくように言っておいてくれ。他のダンジョンのモンスターが家まで行くかもしれない」

「ん。了解」


 七海達に連絡を入れていなかった普人はそのまま連絡をアレクシアに任せることにして、アレクシアに指示したい内容を伝える。アレクシアはすぐさま全員にメッセージを送りながら走り続けた。


「それじゃあ俺たちは急いでDランクダンジョンの制圧に移ろう」

「ん」


 アレクシアは夫人が動きを変えて建物の上を飛び移るように移動し始めたのを追ううように自身も飛び跳ねて移動を始める。


「きゃー!!」

「助けてぇ!!」

「来ないでぇ!!」


 Dランクダンジョンが近くなると、アレクシア達の下に一般人の悲鳴が聞こえた。


「ちっ。シア、皆を助けるぞ!!」

「ん!!」


 アレクシア達はひとまず手が届く範囲の人間を助けることにした。


「シア。手分けしよう俺は東側。シアは西側だ」

「ん」


 二人は避難できていない人が多い可能性を考えて二手に分かれる。


 アレクシアは普人の指示が会った通りにDランクダンジョンを起点として描かれた下半円の西側を担当する。


「だ、だれかぁ!!」


 アレクシアは超えの聞こえた方に最速で走った。


 そこにはかつて自分を死に追いやるところだった、にっくきブラックコボリンが一般人が逃げる姿を追いながら、あざ笑うかのように道を塞いで、徐々に逃げ場を狭めている光景が目に入る。


「させない」


 アレクシアは思い切り加速して逃げている一般人とブラックコボリンの間に割り込んだ。


「グゲッ」


 突然現れたアレクシアに驚いたブラックコボリンは思わずひるんで動きが止まる。


「ん」


―スパァンッ


 その隙を見逃すことなく、一瞬で細切れんしてしまった。


「た、助かったのか?」


 逃げていた男が後ろを振り返り、モンスターが居なくなった床に気付き、足を止める。


「あっちに逃げる」

「えっと、き、君が助けてくれたのか?あ、ありがとう」

「礼はいい。すぐ行く」

「あ、ああ。すまない」


 アレクシアが避難する方向を指し示すが、学園の関係者だけあって律儀に頭を下げる。しかし、あまり相手をしている時間もないので、移動を促し、男は頭を下げつつ、走り去った。


「次」


 アレクシアは避難したのを確認すると、悲鳴の声を頼りに別の現場に向かう。しかし、これ以上外に出したら被害が甚大になるという範囲を逸脱しそうなモンスターの処理もしていると、現場までに行くのが遅くなっていき、そろそろ手が回らなくなりそうになっていく。


 このままじゃ、次は間に合わない。


 アレクシアがそう思った時、複数の黒い影が近くを通り過ぎるのを目撃する。


「流石」


 あれはラックの影魔であると認識したアレクシアは、すぐに人命救助を優先した。


 その後はラックの影魔のおかげで範囲の外に出てしまうモンスターを気にする必要がなくなったアレクシアは全ての一般人の救助を終え、Dランクダンジョンの中心へ向かって走り始めた。

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