第171話 どちら様でしょうか?
俺はシアと生徒会長と別れ、寮に戻ってきた。
「おかえりなさいませ、旦那様。はて、どちら様でしょうか?」
俺は中に入るなり、霞さんにそんなことを言われた。
「え!?俺は佐藤ですけど……」
「佐藤様?佐藤……佐藤……佐藤……思い当たる方がおりませんが……」
俺は驚いて名字を名乗ったんだけど、霞さんは名字を呟いて俺の顔を知っている人物を照合したのかもしれないけど、結果わからないという結論に至ったようだ。
「佐藤普人ですよ。一年の。ここの寮生です」
「佐藤普人様ですか。えっと、確かもう少し印象が違ったような気がするのですが……」
俺がフルネームを伝えると、頬に手を当てて困惑の表情を浮かべている霞さん。
俺どれだけ顔変わったの?
流石に怖くなってきたんだけど。
「自分ではよく分かりませんけど、友人によると、スパ・エモーショナルで施術を受けたら、なんだか男らしくなったみたいです」
「なるほど。確かにあそこの施術は別人になれるとかなり有名ですね」
俺が顔が変わった理由を説明すると、霞さんはありえるかもしれないという表情を浮かべる。
あそこってそこまで有名だったんだな。
「そうなんですね。スパ・エモーショナルの全力の施術を受けたらこうなったんです」
「それなら頷ける話です」
霞さんはそれで納得してくれたようだ。
それで納得してもらえるスパ・エモーショナルがヤバすぎるけど、これで一安心。
「このような事態にもきちんと対応すべきでしたが、対応できずに誠に申し訳ございませんでした。どのような処罰も受ける所存です」
と、思いきや次の瞬間霞さんが俺に向かって深々と頭を下げる。
「いやいやいや、霞さんが見て別人だと思えるくらいに変わってるなら仕方ないですから!!頭を上げてください!!」
「それでは周りに示しが付きません」
俺は慌てて頭を上げさせようとしたんだけど、相変わらず頑なな霞さんは頭をあげようとしない。
もうこの人はなんでこんなに頑固なんだ!!
整形でもしない限り、判別できないくらい顔が変わる事態なんて絶対誰も対処できないよ!!
「むしろそんな態度を取られると、俺が滅茶苦茶困ります。どうか今回は見逃すと言うことでお願いします」
こうなったら俺も頭を下げて請い願う作戦だ。
霞さんの視界に入るように体を思いきり折り曲げて頭を下げる。
「はぁ……畏まりました。佐藤様の寛大な処置に感謝申し上げます。つきましては今後は佐藤様付のメイドとして誠心誠意尽くさせていただきます」
「いやいやいや、今まで通り寮母さんとしてお願いします!!」
こっちからお願いしたのに、今度は俺の専用メイドになるとか言い出す彼女。俺は慌てて寮母の仕事をしてもらえるように深々と頭を下げてお願いした。
「佐藤様がそうおっしゃるのであれば、寮母の仕事と並行させていただきます」
「いやいや、僕の方は放っておいていいですからね!!それじゃあ!!」
顔を上げて真面目な表情で答える霞さんに、俺は逃げるように部屋の方へと向かった走り去った。
「あ、アキ。久しぶりだな」
「え?お前誰だ?」
俺は途中でお風呂に行くらしきアキを見かけた。そこで声を掛けたら、再び知らない人扱いされてしまった。
アキにもそういう対応をされると若干傷つくんだけど、なんとか堪える。
「はぁ……お前もか。俺だよ、俺。佐藤普人だ」
「はぁ!?お前が普人だと!?まぁ確かに声は普人の声だけど」
俺が自分の名前を言うと、アキは目ん玉が飛び出そうなくらい驚いた後、そういえばと納得の表情を浮かべる。
今の俺は声以外で判断できない状態なのか!?
「そりゃあそうだよ。本人だからな」
「ははぁ。確かに体格とか体つきは普人だけど、顔の印象が違いすぎる」
俺の体をあちこち検分しながら述べるアキ。
マジで俺の顔どうなってんだ。
「自分ではよく分からないんだけど、そんなにか?」
「ああ。村人と国王くらいに違うな」
俺の質問によく分からない例えでアキが答える。
「なんだ、その微妙にわかりづらい例えは……」
「まぁ、そのくらい差があるってことだ」
俺が困惑していると、アキが肩を竦め呆れ笑いを浮かべて俺の肩を叩いた。
「はぁ……そうなんだな」
「いいじゃないか。前よりずっと男前になってるぞ」
俺がため息を吐いて自分の状況を理解し始めると、アキがにこりと笑ってサムズアップで応えた。
「そうか?」
「ああ、大分な」
「それならいいってことにしておくか……」
アキに自信をもって断言するので、俺もどうしようもないし、受け入れることにした。
あの刺々しい視線が少なくなっただけでも大分助かってるしな。これも俺が運が良かったと思うことにしよう。
俺は気持ちを切り替えた。
「そういえば、アキは風呂に行くのか?」
「ああ、お前は?」
「そうだな。スパに行ってきたんだけど、寮の風呂はまた別だから入るか」
俺がアキの行先を尋ねると、聞き返されたので、少し悩んだ結果、俺も風呂に入ることにする。
なんだか家の風呂と温泉ってまた違う良さがあると思うんだよね。
だから何度入ってもいいんだ。
「そっか。それじゃあ風呂に行こうぜ」
「いいな」
俺達は連れ立って浴場に向かった。
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