第170話 久しぶりの遭遇
―ザザザザーッ
俺達が歩くと道がかってに切り開かれていく。
スパ・エモーショナルのあった地区では、復旧作業をしていたり、ほとんどの一般人は避難場所に集まっているらしく、殆ど人を見かけなかった。
街としては被害が結構出たものの、線路付近までは及んでいなくて、一応電車は動いているらしい。
そのため、被害に遭っていない人達との遭遇は駅の構内が初めて。しかし、近くに居た人は軒並み遠くに離れてしまい、車両内でも俺たちの周りだけ誰もが近寄ってこなかった。
「なんだか皆おかしいんだけど」
「そりゃあ、七海達がさらに可愛くなったからでしょ」
『~~!?』
席に座った七海が、周りを困惑しながら見回して呟いたので答えたら、全員が俯いて黙ってしまった。
何かおかしなこと言ったかな?
七海がさらに可愛くなったのは当然だと思うんだけど。
暫く電車揺られ、いくつか電車を乗り換えてホームに降りると、俺達の前に道が切り開かれるようになって今に至る。
七海を含む四人の女の子達の可愛らしさに人々が魅了され、思わず道を上げてしまうんだと思う。俺はその中心でひっそりとしているけど、前のように敵意を含む視線が少ないのは俺が変わったからだろうか。
それなら助かる。全員別に恋人とかじゃないのに俺に向けられるあの視線。いつもそんな視線で見られ続けるのは本当に辛いからな。
「それじゃあ、私たちはこっちだから」
「ああ、気を付けてな」
学校への道の途中の分岐路で天音と零が俺達から少し離れるように立ち、天音が俺に行く先を手で指し示す。
俺はまだ明るいとは言え、ついつい普通の一般人の女の子と同様に心配してしまって声を掛けた。
「誰にモノを言ってるのかしら?」
少しムッとした表情で俺に問い質そうとやってきた天音。
「強くたって何が起こるか分からない世の中だ。大事な二人の事は心配くらいするさ」
「そ、そう。普人君ありがと」
「え、ええ。そうね。佐藤君ありがとう」
俺が肩を竦めて答えたら、二人はなんだかドギマギしながら俺に礼を言った。
「別に礼を言われるようなことじゃない」
俺が肩を竦めた後、なんだか挙動不審な天音と零と別れ、俺達は借りている家に向かった。
「それじゃあ、また明日ね、お兄ちゃん!!」
「ああ、またな」
「お姉ちゃんも!!」
「ん」
自宅に七海を送り届けた俺たちは学校へと歩き出した。
「ようやく戻ってきたな」
「ん」
たった数日だったけど、すでに懐かしさがある。こんな気持ちになるのは帰省以来だ。俺達は連れ立って寮へと歩いていく。
俺は途中でよく知る気配を感じ取った。
「あ、佐藤君?と葛城さん?でいいのかしら?」
俺達に話しかけてきたのは生徒会長。俺達はマジで変わりまくっているらしく、俺達が俺達自身であることを自信なさげに尋ねる。
今日は本当に偶然に生徒会長とばったりと遭遇した。
「生徒会長じゃないですか。そうです。佐藤普人です。お久しぶりですね」
「ええ、そうですね。それにしても二人は随分と見違えましたね」
俺が生徒会長に肯定するように答えると、彼女は力のない笑みを浮かべた。
かなり疲れているらしい。
生徒会長ともなると色々苦労もあるんだろうな。
「まぁ、色々ありまして。生徒会長は少しお疲れですか?」
「ええ、まぁ。私の方も色々ありますので」
「そうですか」
俺の言葉に少し乱れた髪型を整えるようにして佇まいを正す生徒会長。
「とりあえず、お二人は寮に帰るのですか?」
「そうですね。ご一緒しますか?」
「ええ。私もちょうど戻るところだったので一緒に行きましょう」
俺達と生徒会長はお互いの合意の元、寮へと歩き始める。
「お二人はレベル上げの帰りですか?」
歩きながら生徒会長が俺に問いかけた。
「いえ、二週間ずっとレベル上げしっぱなしだったので、少し息抜きをしてきました」
「息抜きですか。良いですねぇ……」
俺は詳しいことは言わずに息抜きをしてきたことを伝えると、生徒会長は心底羨ましそうにため息を吐いた。
「本当に大変そうですね」
「そうですね。生徒会長のお仕事に、家のお仕事。両方やっていますから。中々休む時間がとれなくて……」
生徒会長は生徒会での仕事だけでなく、家の仕事、おそらく北条家のお仕事。由緒ある家だって聞いたことがあるので、何やら面倒事があるらしい。
「そうなんですね。お忙しいとは思いますが、ぜひ一度休んでください。その方が色々捗るはずです」
「ありがとう。それがそうも言ってられなくてね……」
俺の提案に生徒会長は苦笑いを浮かべて首を振る。
何かできることはないか。
あ、そういえばあれを貰ったんだった。
「そうなんですか……。あ、そうだ。これよかったらどうぞ。時間がある時にでも行ってみてください」
俺はフリーパスチケットを差し出す。
「これは?」
「スパ・エモーショナルってご存じですか?」
「ええ、かなり有名なスパリゾートだったはず」
生徒会長も知ってるなら話が早い。
「そのチケットはそのスパリゾートの一泊二日のチケットです。施設内の全てのサービスを自由に受けることが出来ます。たまたま貰う機会があったので先輩に挙げますよ」
「い、いえ、そんな高価なものはいただけないわ」
俺が差し出したチケットの勝ちを知ると、生徒会長は途端に恐縮して受け取ろうとしない。
「大丈夫です。本当に唯で貰ったもので、僕達も使う予定がないので、もう捨てるつもりだったんです。だから、ぜひ使ってください。俺もそうしてもらえると嬉しいです」
「わ、分かりました。ありがたく頂戴しますわ」
生徒会長は捨てるの勿体ないわね、と俺からチケットを受け取り、嬉しそうに笑った。
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