第169話 締まらない男の締まらない終わり(第三者視点)

「きゃー!!」


 女性の悲鳴が聞こえる。


「はぁっ!!」


 新藤は急いで声の下に向かい、モンスターを一撃で粉砕する。敵はマッチョマーマン。Bランクモンスターだ。Aランク探索者である新藤の敵ではない。


「ちっ。このままじゃ……」


 しかし、それでも街に侵入した数が多いため、次から次へと一般人とモンスターの不幸な遭遇が起こり、このままでは救助が間に合わず、沢山の人が殺されてしまうことが予想された。新藤はその未来に歯噛みしながらも、探知系スキルでモンスターを索敵しながら駆逐していく。


「だ、誰かぁ!!」

「助けてくれぇ!!」


 しかし、その時は思ったよりも早くやってきた。


 自分しか救助している探索者がいないエリアで別々の場所から助けるを求める声が上がったのである。


「くそっ!!」


 一人目は幼そうな女性の声、二人目は中年程の男の声。


 究極の二者択一が新藤を襲った。


 しかし、迷っている時間は無い。


 新藤はすぐさま一人目を選択し、救助に向かう。間一髪でその声の主である少女の救助に成功する。選んだ理由は成人もしていないであろう少女が死んでしまうのを見過ごせなかったからだ。もちろん成人している男性が無くなっていいと思っている訳ではないが、新藤はその点を優先した。


 少女を安全な場所まで案内した後、再び男の悲鳴が聞こえた場所に戻る。


 そこには男の死体が転がっているはずだった。しかし、そこには何もなかった。フ付近を探してみるが、死体はおろか血痕さえも見つからない。そして勿論、モンスターさえも。


「いったいどこに行ったんだ?まさか……全て喰われてしまったとか……?」


 モンスターが人間を食べるという話を聞いたことはないが、モンスターに関しても現在に何もわかっていない。そういうことがあっても不思議じゃないと新藤は考えた。


「だ、誰か助けてぇ!!」


 疑問について考えるのは時間切れ。すぐに悲鳴の下に向かい、救助をする……はずだった。


 しかし、自身がたどり着く前にモンスターは消え去り、無事な女性だけがその場に残されていた。


「大丈夫ですか!?」

「え、ええ、はい。あなたが助けてくれたんですか?」


 新藤がその女性に話しかけると、女性は呆然としながら、彼に問いかけた。


「いえ、私も此方に向かったのですが、着いた時には、すでにモンスターの姿はなく、あなただけが此方にいました」

「そ、そうですか……」


 助けたのは自分ではないと正直に答えて首を振る新藤に、なんだか釈然としない表情で俯く女性。


 新藤は締まらない男ではあるが、こういうことでは嘘をつかない男である。


 それでは一体誰が助けてくれたのだろう?


 そんな気持ちがお互いの中に湧き上がる。


「それで、つかぬ事をお聞きしますが、なぜ助かったのか心当りはありませんか?」

「そうですね、特には何も………ただ」


 その疑問を解消するために尋ねる新藤に、女性は首を振った後、一度言葉を止めた。


「ただ?」

「私が襲われる寸前、目を瞑る前に何か黒い影が過ったような気がします」


 新藤が聞き返すと、女性はその時の情景を思い出しながら答える。


「黒い影……ですか」

「はい。ほんの一瞬だったので定かではないですが。あやふやでごめんなさい」


 彼はその答えに顎を手で擦りながら考え込み、真剣に悩む様子を見た女性が見間違いの可能性もあることを示唆する。


 それだけでは正体に関しては何も分からないが、見間違いにしても何にしても、何者かが女性を助けてくれたのは間違いなさそうだ。


 新藤はそう思った。


「いえ、とんでもありません。ご協力ありがとうございました。あちら側はモンスターが駆逐されておりますので、そちらの方にお逃げください」

「分かりました」


 新藤が礼儀正しく挨拶し誘導する。女性は立ち上がると、新藤が指し示したモンスターのいない方角へと走っていった。


 女性を見送った新藤は再び救助を再開する。


「こ、こ来ないで!!」

「い、いやぁ!?」

「や、やめてぇ!!」


 その後も、悲鳴を聞きつけ、救助に向かう度に先んじて何者かに助けられた後だった。


 念のため、目撃した事柄を尋ねると、どの人間も「黒い影」を見たと口を揃えて言う。自分が間に合わない可能性があったので、確かに助かりはしたが、被害に遭いそうな人間を助ける正体不明の黒い影という謎が残った。


 それ以上の手がかりも無いので、そのままスパ・エモーショナルの方角に向かって被害者を救助し続け、ようやく気配を探知できる範囲に逃げ遅れた人間とモンスターが居ないことを確認すると、そのまま店へと向かった。


「緊急対策室の方とお見受けいたしますが、本日は特別に大切なお客様の貸し切りとなっております。誠に申し訳ございませんが、お引き取りください」

「そんなぁ!?」


 しかし、せっかくスパ・エモーショナルについた新藤であったが、店の中にすら入ることが出来ずに門前払いを喰らった。


 相変わらず締まらない男新藤であった。

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