第172話 納得のいかない決着
「そういえば、今日はアキも休みか?」
俺は浴場までの道のりでアキに尋ねる。
「ああ、結構根詰めてレベル上げしてたからな。今の所スタンピードも起こってないから、起こる前に休んでおこうってことになってな」
確かにいつスタンピードが起こるか分からないから休める時に休んでおくっていうのは、良いことだと思う。
俺達はレベル上げし過ぎてマンネリしたからリフレッシュしに行ったなんて言えない。
「そうか。あまり根を詰め過ぎるのもよくないからな」
「そうだな。お前たちは……ってその顔を見ればわかるか……リフレッシュしすぎな気もするけど」
俺の顔を改めて見返して呆れるような顔をするアキ。
浴場に着いた俺たちは着替え始める。
「いや、納得されても困るんだけど……」
「それほどまでお前が変わったと言うことだ」
いや分からなくはないんだけど、分かりたくない。
俺達はお互い下半身にタオル一枚を捲く。
「は!?……それほどまでの変化がスパだけで起こるはずがない。まさか……大人の階段を登ったのか!?」
「はぁ!?いったい何のことだ!?」
アキが突然ブツブツ言い始めたと思ったら唐突に変な事を言い始めて俺に詰め寄る。俺は意味が分からず、困惑の表情で叫んだ。
「つまりそういうことなんだろ!?この畜生め!!」
「だからなんのことなんだよ!!」
困惑している俺を無視して続けるアキに、俺は問い返す。
マジでこいつの言いたいことが分からない。
大人の階段?まさか……。
「アレクシアちゃんと一線超えたんだろ!?」
「バ、バカ!!そんなわけないだろ!!」
アキがようやく具体的な内容を叫び、俺の予想が当たっていたことで俺は慌てて反論する。
アレクシアと事故とは言え、キスをしたことはアキには言っていない。だから後ろめたさで返事がオドオドしてしまった。
「いいや、そうに違いない!!じゃなきゃ、そんなに男前が上がったりしない!!」
「そ、そんな訳あるか!!シアとはそういう関係じゃないって言ってんだろうが!!」
俺の反応を嘘をついていると取ったのかアキがさらに言い募る。俺はいつもと同じ反論をすることしかできない。
してないことを証明するのは難しい。
「そんなこと言っておいて実はってのはよくある話なんだよ!!」
「だぁかぁらぁ、ないったらないっての!!世間一般ではよくある話かもしれないけど、シアと俺に限ってはそんな事実は一切ない。これはスパで施術を受けたらこうなったんだよ!!」
こいつ今日は滅茶苦茶頑なじゃないか。しかし、こっちは事実無根。こんなふざけた言いがかりに折れるわけにはいかない!!
「スパの施術くらいでそんなになるか!!」
「なったんだから仕方ないだろ!!俺にそんなこと言われても知るか!!それこそ、一線超えたとしてもそんなに変わるわけないだろ!!」
アキには受け入れがたい事実なのかもしれないけど、本当に施術されただけで今の自分になったので、否定するしかできない。
なんならこいつも一緒にスパ・エモーショナルに連れて行ってもいい。
「あぁあああああ!!やっぱり越えたんだ!!」
「越えてないって言ってんだろぉおおおおおおお!?いい加減にしろ!!」
しかし、今度は俺の言葉を無理やりな解釈をしてアレクシアと一線を超えたと言い始める始末。手に負えない。
「おーい、お前らうるさいぞ」
そんな俺達の元にのんびりとした声が聞こえた。
その男は風呂場からやってきていて鍛え上げられた肉体に、まるで自分の体に隠すところなどないと言わんばかりに、堂々とした態度で俺達の元にやってきた。
「デカッ!?せ、先輩!!」
「先輩!!」
その男は一個上の先輩だった。アキは一部を見て驚きながら、俺は普通に叫ぶ。
「一体どうしたんだ?」
「普人のやつがアレクシアちゃんと一線を越えやがったんです!!」
「俺はそんなもん越えてないって言ってるんです!!」
尋ねる先輩に、俺達はお互いに指をさしていがみ合いながら述べた。
「はぁ……。孝明は越えたという主張。普人は越えていないという主張。そういうことだな?」
「はい」
「そうです」
改めて俺達の話をまとめてから聞き返す先輩。
俺達は二人で頷いた。
「ふむ。簡単な方法があるぞ?」
先輩は、俺達の顔を見ながら顎にてを当てて俺達に思わせぶりなことを言う。
「それは一体どういう方法ですか?」
「それはだな……こうだ!!」
―ブォォオオオオオンッ
アキが驚愕の表情を浮かべながら尋ねると、先輩は拳を振るった。
―パサッ
その風圧で俺とアキのタオルが床に落ちる。
お互い隠れていた部分に目がいく。
「ま、負けた……」
アキはなぜか敗北を認めてしまった。
「孝明。普人の主張が正しいということでいいか?」
「はい。それでいいです」
先輩がアキに尋ねると、あっさりと認めてしまった。
「普人。孝明は負けを認めた。それでいいな?」
「な、な、な……」
今度は俺に尋ねる先輩に壊れたレコードのように返事をする俺。
「な?普人どうしたんだ?」
「なんじゃそりゃぁああああああああああああ!!」
俺は余りにしょうもない勝負の結果に、先輩の言葉も無視して唯々叫ぶしかなかった。
まぁ確かに不毛な言い争いは終わったので良かったのかもしれないけど。
俺は今一つ納得がいかなかった。
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