第164話 生まれ変わる

 スパ・エモーショナルで癒しつくされた次の日。


「き、昨日は凄かったな?」


 俺は部屋の共有スペースでソファーに向かって、ちょっと上擦りながら声を掛ける。


 そこには昨日までとはまるで別人のような人物たちが、背もたれに体を預けて昨日の余韻に浸っていた。


「うん、なんだか生まれ変わった気分!!」

「七海の言う通りね!!昨日までとはまるで別人みたい!!」

「私もまだまだ若いつもりだったけど、十歳くらい若返った気分だわ」

「体軽い」


 俺の言葉に四人が各々の返事をする。


 分かっているつもりだったけど、俺のパーティメンバーは妹の七海を筆頭に美少女と美人ばかりだ。縁があって一緒のパーティを組むことになり、今に至る。


 しかし、そんな彼女達が昨日の海からのモンスター侵攻を食い止めた後、スパ・エモーショナルのプロフェッショナル達に、癒しだけでなく、美容に関しても全力で施術された結果、一段どころか二段くらい全員の可愛らしさや迸るフレッシュな魅力みたいなものが上がっていた。


 そのおかげで、もはや昨日までの彼女たちとは別人言えるほどにレベルアップした彼女たちを、施術直後部屋で会った際に直視できなかったくらいだ。


 シアはただでさえ現実離れしていた美貌がさらに磨き上げられて、もはや神秘さまで兼ね備え、天音は天真爛漫な性格に、元々パーティ内一のスタイルの良い体つきがさらにメリハリボディになり、肌にぷるっぷるに潤いと張りが出たせいか、妖艶さまで手に入れ、零は美人で近寄りにくい感じだったのに、若々しくなってフレッシュさと可愛らしさが含まれたことで親しみやすさが上がっていた。


 シアのおかげで得た耐性もほとんど意味をなくし、自分みたいな平凡以下の人間が四人の中にいるとドギマギしてしまう。


「そ、それにしても皆随分変わったな」


 昨日全ての工程が終わり、寝る前に部屋で対面してたけど、すぐ個室に入って眠ってしまったので、じっくり見るのは今日が初めてになる。


 昨日の段階で分かっていたことだけど、改めて外の明るい光の中で見る彼女たちは、可愛らしさが天元突破していた。


 なんで俺はこの人たちとパーティを組んでいるのか不思議なくらいだ。


「そうかな?」

「そうかしら?」

「自分では分からないけど……」

「ん?」


 四人は自分のことなのであまり分かってないみたいだけどね。


「それをいうならお兄ちゃんもだいぶ変わったよ?」


 四人にドギマギしていると、七海がそんなことを言って首を傾げる。


「え、そんなに変わったか?」

「うん、すんごくカッコよくなってる」


 七海の言葉に俺は思わず他の三人に視線を向ける。


 七海は俺のことが好きすぎるのであてにならないからな。


「そ、そうね。大分マシになったんじゃない?」

「た、確かにかっこよくなった、というか男らしさがグッと上がったという感じかしら」

「ん」


 二人は俺の顔を直視せず、シアだけは無表情のサムズアップで答えた。


 これはカッコよくなった、ということで良いんだろうか?

 シアとはもうそこそこ長いし、アホ毛もサムズアップしているのを見るとまちがいないんだろうけど、他の二人の様子が芳しくない。


「お兄ちゃん、二人は照れてるだけだから、気にしなくていいよ!!」

「あ、なんで言うのよ!!」

「七海ちゃん、ひどいわよ!!」


 七海の暴露に天音と零が慌てて突っかかる。


 その様子を見るに、さっきの言葉はある程度本心だと思っていいと言うことかな。俺だけ余りにも他の面々と釣り合わないのに、危うくさらに釣り合わなくなるところだった。


 そうなると、さらに周りの視線が痛くなるからね。あれはなかなか辛いものがあるからなぁ。少しでも軽減したら嬉しい。


「そ、そうか。俺も少しくらいマシになったほならよかったよ」

「うんうん、今までよりさらに皆に自慢したくなるお兄ちゃんになったよ!!」

「それならいいんだけどな」


 俺は少し照れつつ頭を掻くと、七海がギュッと抱き着いてくる。俺はそれを撫でながら苦笑いを浮かべた。


「そろそろ帰るか」

「疲れはすっかり取れたからご飯食べてゆっくり帰ろうよ」

「それもそうだな」


 七海の言葉に応じ、俺たちは美容と健康に良さそうな食事を摂ってから帰りの電車に向かった。


「なんだか視線が多くないか?」

「そりゃあこれだけ可愛い女の子が揃ってれば皆の視線も集まるよ、お兄ちゃん」


 俺が辺りを見回しながら呟くと、七海が答えてくれる。

「いや、そうは言ってもこれは中々凄いな」


 今までは俺に集まっていた敵意を含む視線が減った代わりに、視線の量と、羨望と嫉妬の視線が大量に増加していた。


 ここで俺は自分もそれなりに変わったことを自覚すると同時に、やはり皆はとんでもない美少女達なんだと言うことを理解した。


「まぁ何かアクションがあるわけじゃないし、放っておいてもいいか。それじゃあ帰りますか」

「うん」

「りょーかい」

「そうね」

「ん」


 俺の音頭に皆が返事をして俺たちは電車に乗りこんだ。

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