第153話 超VIP扱い

「やっと着いた!!すっごい綺麗な建物だね!!」

「ちょっと長かったな。そうだな綺麗だな」

「ん」


 七海がスパの建物を指さして同意を求めるので、俺は首を縦に振る。


 俺達は出来るだけ長い時間日々の疲れを癒せるように早めに出たんだが、それでもここまで来るのに二時間程度かかった。帰りが物凄く面倒そうだ。


 それにしてもかなりお洒落な外観だ。如何にもセレブな人たちがやってきていそうな雰囲気を漂わせている。セレブがこういうところにやってくるかは分からないので、そういう雰囲気を味わいたい人たちが来るのかもしれない。


「ここがあの有名なスパ・エモーショナルなのね」

「そうそう。滅茶苦茶人気で入場制限もかかるとか」

「そういえば、ここって朝に閉まるんじゃなかった?」

「え!?マジか!?」


 天音と零の会話で聞き逃せない言葉があり、驚いてしまった。結構有名な所だからそれなりにやっているのかと思っていた。七海が行きたいと言っていたからてっきり日中もやっているものかと。


「うん、確かお昼前くらいに開店して、朝くらいに閉まるんだったような……」

「ちょっと待て。急いで行ってみよう!!」


 天音の言葉に俺は皆を促す。


「わ、分かったわ」

「急ぎましょう」

「急げ~!!」

「ん!!」


 俺達は焦るように店内に入っていった。


「いらっしゃいませ~。ご利用ですか?」

「はい、そうなんですが、こちら営業は何時まででしょうか?」

「八時までとなっております」

「うわっ。もうあと少ししかない。もっとちゃんと調べてくるんだったなぁ」


 声を掛けてきた店員さんに閉店時間を尋ねると、予想以上に時間がなかった。


 ちゃんと調べなかった自分の浅はかさを呪うしかない。


「どうされます?」

「ちょっと相談しますね」


 店員に尋ねられた俺は、一旦皆と相談するために、受付から離れる。


「どうする?後一時間もないけど」

「まぁいいんじゃない?それなりにお風呂とか楽しめるでしょ。無料だし」

「私も温泉浸かりたい!!」

「そうね、温泉に浸かるだけでも全然違うと思うわ」

「ん」


 天音を筆頭に、他の面々が同意するように声を上げる。


 どうやら皆入りたいみたいだ。それなら入らない理由はないか。


「すみません、利用させてもらいます」

「分かりました。当館チケットを購入していただく必要がございます。あちらの自販機でご購入いただけますでしょうか?」


 俺は受付に戻り、店員さんに利用する旨を伝えると、利用方法を教えてくれる。


「あのここってESJの関連施設ですよね?」

「はいそうですが……?」

「これ使えますか?」


 俺は一応ここがESJ関連施設かどうかを確かめた上でESJで受け取ったカードを提示した。俺と合せて全員がカードを差し出す。


「え!?」


 そのカードを見た瞬間、店員さんの顔色が変わり、目を見開いて驚きの声を上げた。


「ちょちょちょちょちょっとお待ちください!!」


 そしてすぐに、受付してくれた店員さんが慌ててどこかに走り去っていった。


「お待たせしてしまい、大変申し訳ございません。あのもしかして佐藤様と葛城様でいらっしゃいますでしょうか?」


 店員さんと主に俺たちの前にやってきたのは、タイトなスーツに身を包む三十台半ば程度の女性だった。


「はい、そうです」

「ん」


 その女性に身元を確認された俺とシアは首を縦に振る。


「やはりそうでしたか!!いやぁ、その節は私どもの施設を守っていただき誠にありがとうございました。私当館の館長を務める榊原と申します。本日ご利用されるのは、こちらにいらっしゃる五名様でよろしいでしょうか?」

「はい。そうです」


 俺達が本人だと分かると、榊原さんは本当に心から嬉しそうな笑顔で頭を下げ、俺達に確認を取る。俺はその言葉に頷いた。


「分かりました。もうすぐ閉店予定でしたが、佐藤様方は閉店時間など気にせず、どうか心のゆくままに寛いでいってください」

「え!?いやいやいいですよ、そんな」

「いえいえ、私どもが受けた恩はこの程度では返しきれません。是非とも私達が少しでも恩を返す機会をいただけないでしょうか?」


 いきなり閉店時間を取っ払うという提案をしてくる榊原さんに、俺は慌てて体の前で手を振って恐縮して断ろうとするが、彼女はとても悲しそうな表情でそんなことを言う。


 この人滅茶苦茶断りづらい言い方をしてくるな。そんなことを言われたらこっちも断れないじゃないか。おそらく分かってて言ってるんだろうし、こっちに気を遣わせないように言ってるのかもしれないけど。


 逆に恐縮するわ!!


「わ、分かりました。精一杯楽しませていただきます」


 俺は少し狼狽えながらも精一杯の笑顔で頷いた。


「そういえば、ご宿泊はいかがされますか?」

「皆どうする?」


 宿泊について聞かれた俺は、日帰りか泊まりか決めてなかったので、皆に聞いてみる。


「さんせーい!!」

「私もゆっくりしたいわ!!」

「休みとってもいいんだからいいんじゃないかしら?」

「ん」


 皆もここでゆっくりして宿泊もしたいらしい。


「それでしたら当館に併設されたホテルがございますので、そちらのお部屋をお取りしておきますね。フロントにそちらのカードを見せれば分かるようにしておきますので」

「分かりました。よろしくお願いします」


 俺達のやり取りを見ていた榊原さんが手配してくれるというのでお任せすることにした。


「それでは、当館の利用は初めてだと思いますので、一通り使い方を説明させていただきます。説明はこちらの白石が行いますので、何かございましたらなんなりとお申し付けください」

「分かりました。何から何までありがとうございます」


 まさか使い方の説明までしてくれるらしい。絶対普通の客にはここまでのことはしていないよな。俺たちはまだ未成年で、七海に至っては中学生だ。ちゃんと一から説明してくれるのはありがたい。


 そう思った俺は榊原さんに頭を下げた。


「いえいえ、この程度の事は佐藤様とアレクシア様から受けた恩には到底及びません。それでは思いのままスパ・エモーショナルをお楽しみください」

「はい、宜しくお願いします」


 俺達はその後、白石さんに連れられて施設内の使い方や、性別が制限される場所などの説明を受けた。


「あ、あ、あ、あちらが、だ、だ、男子更衣……室です」


 白石さんは、終始ガタガタと震えて滅茶苦茶緊張しながらもちゃんと最後まで案内してくれた。


 確かに僕たちはVIP会員カードを持ってはいるけど、一階の中高生。そこまで緊張しなくてもよさそうだけど、このカードの力は予想以上に絶大ということなのかもしれない。


 俺達はいよいよスパ・エモーショナルを堪能することとなった。

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