第152話 呼び出しの理由
「こんなに朝早く呼び出して一体何の用なの?ま、まさか」
「本当に何なのかしら?」
まだ人が疎らで完全に明るくなっていないような時間帯に俺は天音と零を駅前に呼び出していた。
二人は俺の呼び出しに困惑しているようだ。天音に至っては何やらよからぬ想像をしている気がするけど、無視しておこう。
「ああ、これをお前たちにやるよ」
俺はESJの永世無料VIP会員カードを二枚取り出して二人の前に差し出した。
「これは?」
「何かのカードかしら?」
二人は俺のカードを見て首を傾げる。
まぁ見ただけじゃ分からないよな。
「これはESJの永世無料VIP会員カードだ」
『はぁ!?』
俺の説明に二人が表情を驚愕に染める。
俺達も報酬を提示された時は滅茶苦茶驚いていたもんな。そういう反応になるのも無理はないと思う。
「な、なによそれ。言葉の響きを聞く限りヤバそうな代物じゃない」
「絶対とんでもないものよね」
二人は怯えるような表情でカードを見つめる。
このカードの凄さが名前だけである程度伝わっているみたいだけど、確かに名前だけでは何が無料でVIPなのか分からないか。
「あ、ああ。これはこの前帰省した時にESJに行ったんだけど、スタンピードに巻き込まれてな。シアと一緒に雑魚退治をしたらなぜかもらえたんだよ。なんでもこれがあればESJ関連施設はどこでもなんでも生きている間は永久に無料らしいぞ?」
俺はある程度具体的に説明してやる。
「そ、そんなもの、き、気軽に、出すんじゃないわよ!!受け取れるわけないでしょ!!」
「そ、そうよ、そんな物出されても私にそれを受け取るいわれはないし、資格もないわ!!」
すると、二人は慌てたように受け取りを拒否した。
まぁその気持ちは俺も分からないでもない。でも二人は喜ぶよりは恐縮する方だったか。天音なんかは喜んで受け取りそうなのに。意外と常識人らしい。
「そうは言うけど、天音と零は俺のパーティメンバーだし、これからも世話になる相手だ。十分謂れも資格もあると思うけど?」
「そのくらいでもらえるようなもんじゃないわよ、それ」
「ホントに天音ちゃんの言う通りだと思うわ」
俺の言葉に、天音が反論し、零がそれに同意するように頷く。
受け取ってもらわないと始まらないんだよなぁ。
「それでも俺が受け取ってほしいんだけど、ダメかな?」
「そう言われても、そういうのはもっと大事な人が出来た時に取っておきなさいよ」
「そうよ、佐藤君は若いし、これから素敵な出会いがあるわ。その時のために使わないでおいた方がいいわ」
俺がお願いするように頼み込むが、二人に停められてしまう。
こういうことを言ってくれる二人なら渡してもいいかなと思うんだよね。正直そんな相手が現れるかもわからないんだし。
「いいよ、そんな先の事は。俺はそんないつ出会えるか分からない人よりも、今目の前にいる二人の方が大事だ」
『~~!?』
それが素直な気持ちを伝えると、二人はなぜか顔を真っ赤にして固まった。
俺なんか変なこと言ったか?
「ったく。こういうところなのよ」
「ホントそうよね……」
二人が顔を俯かせて小さくつぶやいているけど、意味が分からなかった。
一体どういうことなんだろう。
「どうかしたか?」
「ううん、どうもしないわ」
「そ、そうね。なんでもないわよ?」
俺が尋ねると、二人は慌てたように手をアタフタさせて問題ないと答える。
なんだか動きが怪しいけど、触れられたくなさそうだし、気にしない方がいいか。
「だから、受け取ってくれないか?」
「ま、まぁ、そこまで言うなら受け取ってやろうじゃない」
「わ、分かったわ。ありがたく頂戴するわね」
俺が再びカードを二人の前に差し出すと、二人は二人はそっぽを向きながら仕方なく受け取ってくれた。
そんな受け取りたくないのだろうか。
俺そんなにマズい事を言ったのか?
「お兄ちゃーん」
「ふーくん」
二人がカードを受け取った後、ちょうど七海とシアがやってきた。
「準備はどう?」
「ああ、今二人にカードを渡し終えたところだ」
「そっか、それじゃあ早くいこうよ」
「そうだな」
七海が二人にカードを渡せたかどうかの確認をしてきたので頷くと、俺の手を引いて駅に向かおうとする七海。
「どこに行くの?」
天音の言葉に俺は立ち止まって振り返る。
「そりゃあ、こっちにあるESJ関連のスパリゾートだ。最近ダンジョンに潜ってばかりで根を詰め過ぎだったからな。たまには息抜きしないとな」
「ああ、なるほど!!七海が言ってたのはスパのことだったのね!!」
天音の質問に答えてやると、疑問が解けたという顔をする彼女。
「そういうこと」
俺はそんな彼女に同意するように頷く。
「そうだったのね。確かに最近ずっとダンジョンに潜っていたものね。確かに政府からの命令だけど、週に二日は休みを推奨されている。ここ二週間くらいは潜りっぱなしだし、確かに休息を入れてもよさそうね」
「そうそう。昨日七海とシアと話してちょっと息抜きに行こうってなったんだ。どこに行くは聞いてなかったんだな?」
俺達の提案に、零が今までの状況を鑑みて言ってもよさそうだと判断を下したのを見て、七海から事前に聞いてなかったのかを尋ねた。
一応連絡しておくように頼んだはずなんだけど。
「七海ちゃんが明日のお楽しみって言ってたの。なるほど、それがESJ関連のスパリゾートなのね」
「そうなんだよ。そこなら無料でなんでもし放題だからな」
零が腑に落ちた表情で答えるので、俺はニヤリと笑う。
全く……七海の奴、そういうところで変にサプライズにするんだからな。
「でも……それは確かに良いわね。日頃の疲れも溜まっているし、マッサージでもしてもらいたいわ」
「私も」
「ああ、そういう疲れを今日一日堪能して取ってほしい」
二人が肩を押さえたり、首を傾けたりしながらスパリゾートでやりたいことを想像していた。
俺は二人の願いに肯定し、笑顔で頷いた。
「そういうことならさっさと行きましょ!!時間がもったいないわ!!」
「分かった」
天音が急に元気になってソワソワしだすので、俺達はすぐにスパリゾートへと向かった。
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