第154話 混浴
「そ、それではごゆっくりお過ごしください」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました!!」
「ありがとう!!」
「ありがとうございました」
案内を終えてもまだ緊張している店員さんから、店内で使用できる服やアメニティグッズを受け取ってお礼を言った後、僕達はまずはお風呂に向かった。
結局店内の案内でそれなりに時間がかかったため、閉店まで残り三十分程の時間となってしまった。
勿論店長の榊原さんは閉店時間は気にしなくていい、という話だったので大丈夫だと思うけど、やはり徐々に店内のお客さんが帰っているのを見ると気持ちが落ち着かない。
「それじゃあお兄ちゃん、私たちはこっちだから!!」
「それじゃあね、佐藤君」
「またね、普人君」
「ん」
女子のお風呂の前で皆が俺に手を振る。
「ああ。また後でな」
『はーい』
俺の言葉に口を揃えて返事をして女子の浴場に入っていく彼女たちを見送ると、俺は男子の風呂に向かって歩く。
まだ残っている男性客が俺を視線で殺せそうなくらい鋭い眼光で睨んでくるけど、皆は妹とパーティメンバーの関係なので勘弁してほしい。
俺以外四人とも美少女だから分からなくはないけどね。妹は別だけど、他の三人は目の保養になるし。
男子更衣室に入ると、閉店間際と言うこともあって、ロッカーのほとんどに鍵が付いていて、利用客はもうほとんど残っていないようだ。ちらほら利用客がいるけど、皆もう上がって帰宅する人ばかりのようだ。
逆に近くを通っていく際に「こいつ今から入るのか?」みたいな顔でチラ見された。
「おお、寮のとはまた違った感じだな」
寮がスーパー銭湯だとすれば、こっちは水着で入るお洒落な暖かいプールと言うのが近いと思う。ここでは湯浴着という、男は海パンみたいなタイプ、女は巫女が禊で切る白装束に似た服を来て入るルールだ。
というのも露天風呂が混浴となっているから。
俺は行くつもりはないけど、湯あみ着を着用して老若男女問わず、露天風呂に入るることが出来るらしい。
俺はまず体の汚れを洗い流し、いつも通り普通のお風呂っぽい所に入った。今日は長風呂すると言うこともあって、ぬるめの温度の方を選んだ。
「あ~」
おっさんが出すような声が勝手に出てくる。
お風呂と言えばやっぱりこれだよな。
暫し、ずっと追加されるお湯によって出来た流れに揺られ、特に何を考えるでもなくボーっとする。
「あれ?」
ふとある時、俺は周りに誰もいなくなっている事実に気付く。浴場内にある時計を確認すると閉店時間をすでに回っていた。
「そっか、もう皆帰ったのか……」
すでに館内に居た利用客全てが帰宅し、自分以外いなくなったことを理解した俺は独り言ちる。
女性陣はゆっくりできているだろうか。これは差別的な考え方なのかもしれないけど、男が戦うのはまだしも、女性が戦い続けるのは物凄くストレスを感じる気がする。
彼女たちにも抱えるものはあるだろうけど、今日くらいは何も考えず、ゆっくり羽を伸ばしてもらいたい。
「次はサウナでも入るか……」
俺は風呂から上がってサウナへ向かおうとする。
―ガラガラガラッ
しかし、その時、露天風呂の方の扉が開いた。
「あ!!お兄ちゃん見ぃっけ!!」
中に入ってきたのはなんと湯あみ着を着た七海であった。
「いや、なんで男湯に来てんだよ!!ダメだろ!!」
「えぇ~!!もう時間終わったのでご一緒にどうぞって言われたもん!!」
俺が叫ぶと七海がほっぺを膨らませて言い返してくる。
おい、店員なんてことしてくれたんだ!!
「ん」
七海の後ろから何故かシアも一緒に入ってきて短く呟く。
いや、それだけ言われても流石の俺も読み取れないぞ。
「来ちゃった!!」
天音もなんか彼氏の所についつい来てしまった彼女みたいな台詞で入ってくる。
「こ、こんにちは~」
そして絶対来ないであろうクール系美人の零までやってくる始末。
一体どうなってんだよ!!
「ちょちょちょちょちょっと待て。七海はともかくなんでシアたちも来るんだよ?」
「一緒が良いと思った」
「普人君が一人じゃ寂しいかなと思って」
「一人だとなんだか落ち着かなくて……」
俺が慌てて後ろを向いて尋ねると各々理由を述べる。
シアはまぁありそうな感じだし、天音もありそうな理由だ。でも、零は流石に落ち着かないからって男湯にくるのはどうかと思う。
「お兄ちゃん、何後ろ向いてるの?」
七海は俺の顔を覗き込んでくる。
そりゃあ女風呂に入り込んだ男みたいな気持ちだからだ。見ちゃいけないという気分になる。
「別に水着みたいなもんだから平気だよ?ねぇ?」
「ん」
「まぁね」
「ちょっと恥ずかしいけど平気よ」
七海が後ろを振り返って確認すると、全員見てもいいらしい。
「そ、そうか?」
「うん」
俺は振り返る。
改めて見ると、全員湯浴着を着ているとはいえ、その湯浴着は肝心な部分は透けていないんだけど、ミニスカの浴衣みたいな造りになっていて、張り付いて透けている部分とか、下の裾から覗く生足が、とっても扇情的だ。
「ねぇねぇお兄ちゃん、どう?似合う?」
七海が皆の横に立ってポーズを決める。
「ああ、よく似合ってる」
「ふふふ、こういう時は私だけ褒めても駄目なんだよ?」
「あ、ああ。シアも天音も零も良く似合ってて可愛いよ」
七海を褒めると、他の皆もちゃんと褒めろと言われたので、褒めておく。
「ん」
「でしょぉお?」
「あ、ありがと。なんだか照れるわね」
シアは表情の変わらないドヤ顔で、天音は小悪魔みたいな笑みで、零は視線を逸らして顔を赤らめて返事をした。
「これからの時間は私たちの貸し切りみたいで、どこでも自由に使っていいって言ってたよ。最初はとりあえず皆でお風呂入ろ」
「そうだな。露天風呂入ってないから入るかな」
「私達も入ってないからちょうどいいね!!」
「そうね、景色がいいみたいよ」
七海の音頭に従い、俺達は露天風呂へと移動した。
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