第146話 ゲームで人が変わることってあるよね?
「皆ウチに泊まっていったらいいんじゃないかしら?」
母さんがそんなことを言い始める。
「お世話になる」
シアはもう自分の家みたいに即座に泊まる気満々で答えた。
まぁ母さんも七海もシアのことを気に入っているしな。シアもそうなんだろう。家族みたいに思ってもらえるのは嬉しいことだ。いや……嬉しい事なのか?
俺にはよく分からなかった。
「それじゃあ、私もお世話になっちゃおかなぁ」
天音は母さんの言葉に甘えてそのまま泊まる気満々だ。
もう良い時間だ。時計を見ると、十時を回っている。この時間に一人で帰るよりも確かに泊っていった方が良いと思う。
「私は友人の家に泊まりますので……」
「何言ってるの?零さん。もうこんな時間よ?一人歩きは危ないわ」
「これでも私はSランク探索者なんですけど……」
「世の中何が起こるか分からないのよ?いいから泊まっていきなさい」
「わ、分かりました」
零は流石にこれ以上お世話になるのはマズいと思っているのか、友人を理由にして断ろうとするも、母さんに切り捨てられて泊まることになった。
「ははははっ。母さんは一度言ったら聞かないからな。あきらめてくれ」
「五月蠅いわね!!」
「あいたっ!!」
俺が零に苦笑しながら謝罪したら、母さんに後頭部をはたかれてしまった。
母さんの手が何もなかったところをみると、天音の手がおかしなことになったのはやはりジャージのせいとみるべきかなぁ。
それとも家族だからか?
「それじゃあ、順番にお風呂入っちゃいなさいね」
「分かった」
母さんはちらし寿司の洗い物を始めたので、俺達はお風呂の順番を決める。
こういうのはどうするのがいいんだろうか。
やはり男が入った後の風呂に女の子を入れるのは無しだと思う。
「それじゃあ、俺は最後に入るから、みんなはじゃんけんで順番を決めてくれ」
「ん」
「はーい」
「りょうかーい」
「分かったわ」
俺は自分を除外して残りの女の子達で順番を決めてもらう。
「さいしょは、ぐー、じゃんけんぽん!!」
彼女たちはじゃんけんをしだす。
最終的に順番は、天音、零、七海、シアという順番に決まった。
「それじゃあ、私から入ってくるね?」
「了解」
「普人君は覗いちゃダメだからね?」
胸を強調するようなポーズを取って俺の顔を覗き込んでウインクを決める天音。
なかなかウインクが様になっている。
「覗かねぇよ」
「ふふふっ。それじゃあねぇ」
思わせぶりな仕草と言葉を残し、天音は七海に案内されてお風呂へと向かった。
「天音が風呂に入っている間俺達暇になるな。どうするか」
「お兄ちゃん、ゲームしようと。人数いっぱいいた方がいいし」
「それはいいな。シアも零もそれでいいか?」
七海の提案が悪くなさそうなので、二人に尋ねる。
「ん」
「私はそういうゲームやったことないんだけど……」
シアは問題なかったけど、零が困惑気味の表情で言葉を濁す。
「七海以外はそんなにやったことないから大丈夫だ。それにすぐに慣れる」
「そう?それじゃあやってみるわ」
俺の言葉に零もやる気になったようなので、俺達は各自がお風呂に入っている間ゲームをして過ごすことにした。
「ただいまぁ!!いいお風呂だったよぉ!!ねぇどうどうこの「やったぁあああああああ!!わったしがいっちばーん!!」」
天音が帰ってきた時、零が飛び跳ねて喜んだシーンに出くわした。
そのあまりに普段の性格から離れた様子に天音は思わず硬直して零を凝視した。
天音は空間拡張バッグに入れていたであろうパジャマを着て、おそらく俺に見せてこようとしたんだろうけど、そのポーズのまま固まっている。
「あ、いや、これは……あははは……」
零は天音に見られて我に返る。
顔を真っ赤にしてゆっくりとソファーに腰を下ろし、肩を丸めて小さくなった。
これは俺達も誤算だったんだけど、何を隠そうゲームに一番ハマったのは真面目そうな零だった。
最初こそ不慣れな感じで四苦八苦していた零だったんだけど、徐々に慣れてくると、
「あぁ~!!それは止めて!!」
「ふふふっ。ここからは私のターンね!!」
「あっ!!今やったの誰!!絶対許さないわ!!」
などと叫びながら三天堂のパーティ用ゲームを楽しみつくしていた。
俺達もその様子に初めは滅茶苦茶面食らったんだけど、徐々に慣れてきて今では普通になっていた所だった。
天音がちょうどいいタイミングで帰ってきて今に至るという訳だ。
「あ、お風呂、わ、私の番よね?し、失礼しまーす」
「あ!案内するから待って!!」
急に恥ずかしくなったのか、零は顔を真っ赤にしたままお風呂場へと消えていった。その後を急いで七海が追っていく。
「人ってゲームであんなに変わるのね……」
天音のその言葉がやたらと皆の心に残ったのは仕方がないと思う。
俺達はその後、代わる代わる交代でゲームをして楽しんだ。
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