第145話 佐藤家の食卓

「ただいまぁ!!」

「ただいまぁ」

「ん」


 俺と七海が真新しい家の玄関を開けて、家の中に入っていく。その後ろをそのままついてくるのはシアだ。


「ここって凄い高級住宅街よね?」

「なんでこんな所にって思うけど、今日のあれを見ちゃったらね」

「納得するしかないよね……」


 一向に中に入ってくる気配がない天音と零が、外で何やらこそこそと話している。


「おーい、早く家に入ってくれ」

「うひゃぁあ!!い、いきなり声かけないでよ」

「ひっ!!ホ、ホントよ、もう」


 俺が後ろから二人に声を掛けると二人は肩をビクッと震わせた後、こちらを向いて視線をキョロキョロさせ、しどろもどろになって応えた。


 天音はともかく零は隠密探索系探索者。このくらいで驚いてちゃ駄目だと思う。


 それにしても、二人はコソコソしてるけど、まさか何か企んでるのか?


 いや……それはまだ分からないけど、現状二人は警戒しておいたほうが良さそうだ。


「普人、おかえり。今日も無事みたいね」

「ああ母さん、ただいま。改めて紹介するけど、俺達のパーティの引率を買って出てくれたSランク探索者の零。それと、俺が学校で探索者のパーティを組んでいるもう一人のメンバーの天音だ」


 俺が二人を連れて玄関に帰ってくると、母さんが出迎えてくれたので、職員としてではなく、探索者としての零と、まだ会ったことがなかった天音を紹介する。


「佐藤さん、改めましてよろしくお願いします。今後は探索者としてお二人をサポートさせていただきますね」

「私は霜月天音って言います!!普人君にはお世話になってます!!」


 俺の言葉に続いて二人が自己紹介をする。


 天音、その色々の所をなんか強調するのは止めろ。俺はパーティを組んでいる以外特別お前の世話してない。


「あらあら、こちらこそこのバカ息子をよろしくお願いしますね。それにしても……見事に普人のパーティは女の子ばかりね」

「別に俺は何もしてないぞ?」


 母さんは俺のパーティメンバーを見てそんなことを呟いたけど、俺は何もしてないし、七海以外は全員向こうから勝手にやってきた。


「全く誰に似たのかしら」

「知らないよ」


 母さんは父さんでも思い出しているのか、そんなことを言うので俺は肩を竦めた。


「まぁ良いわ。一人選ぶか全員選ぶか、きちんと決めなさいよ」

「なんでそういうことになるんだよ」

「探索者のパーティなんてそうなることが多いからよ」


 なんだかそういう人たちを見てきたのか言葉に重みがある。父さんは探索者だったけど、母さんは違うよな。その辺りで色々あったのかもしれない。


「考えておくよ。それよりもご飯は?」

「準備できてるわよ。さっさと手を洗ってリビングに来なさい」

「分かった」


 話題を変えて夕食に関して尋ねると、すぐにリビングに来るように促され、母さんはリビングに去っていった。


「零と天音も母さんの変な話に付き合わせて悪かったな。とりあえず上がってくれ。そこを曲がった先に洗面所があるからそこで手を洗てくれ」

「い、いいえ、気にしてないわ。お邪魔します」

「うん、わ、私も気にしてないよ。お、お邪魔しまーす」


 俺が向き直り、苦笑を浮かべて二人を促すと、二人は少し顔を赤らめ、挙動不審なまま靴を揃えて家に上がっていく。俺もその後ついて家に上がり、手を洗ってリビングへの仕切りを跨いだ。


 リビングに準備されていたのは、手巻きスタイルのちらし寿司。色鮮やかな食材が並べられていて、華やかでこういう人数が集まる時には喜ばれそうなチョイスだ。


 流石母さん。


「お兄ちゃん!!今日はちらし寿司だよ!!やったね!!」

「お祝い事なんてあったっけな?」


 七海は嬉しそうに声に俺は考える。


 ちらし寿司はウチではお祝い事があった時によく食べていた料理だ。


「ふふふっ。家族が皆一緒にいられるんだし、初めての七海の探索も無事終わったんだもの。少しくらいお祝いしてもいいでしょ?」


 考えこむ俺の後ろから母さんが俺に声を掛けた。


 言われてみれば、確かにその通りにかもしれない。


「確かに母さんの言う通りだな。それより皆、立ちっぱなしだな。シアはそこ、天音はあそこ、零はこっちに座ってくれ」 


 俺は母さんの言葉に同意してまだ席に座らずに立ったままの三人に席を指定してやる。


 自由に座ってくれとかいうと決まらなさそうだからな。


「ん」

「りょうかーい」

「分かったわ」


 三人は各々返事をして指定された先に腰を下ろした。


「普人が音頭をとりなさい」

「俺!?」


 全員が椅子に座ると、母さんに突然そんなことを言われて困惑する。


「あんたがリーダーなんでしょ?」

「いやシ「ふーくん」」

「ほら見なさい」


 リーダーはシアのはずなんだけど、シアが俺の言葉にかぶせるようにして俺をリーダーに担ぎ上げてしまった。


 なんという華麗な技だろうか。


 俺はそのあまりに美しすぎるなすり付けに脱帽した。


「はぁ……わかったよ。それじゃあ、零の奮闘のおかげで俺たちは一家共々こうして近くにいることが出来てる。本当にありがとう。それに、今日は七海の初めての探索に付き合ってもらってありがとな!!そしてこれからもパーティとしてよろしく!!それじゃあ、カンパーイ」

『かんぱーい!!』


 俺達はジュースの入ったグラスを掲げて軽くぶつけ合った。それから俺たちは母さんが作った美味しいちらし寿司を食べながら、暫しの間、楽しい時間を過ごした。

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