第144話 自称低ランク探索者と常識人

「あ、お兄ちゃんミノちゃん沢山出て来たよ」

「ああ。沢山居る方に来たからな」


 七海がブラックミノタウロスがゾロゾロと出てくるのを見て、まるで動物園の動物が出てきたみたいに呑気に指差して笑う。


 こいつらを沢山倒せばブラックミノタウロス肉が手に入る可能性がある。一階にうようよいるのでどんどん倒していきたい。


「え!?ブラックミノタウロスの群れ!?」

「に、逃げましょうよ」


 しかし、何故かブラックミノタウロス如きに逃げ出そうとする二人。


「何言ってるんだ?あんな見掛け倒しのモンスターなんて倒せばいいだろ」

「ん」

「二人がやらないなら俺たちが貰う」


 固まる二人を尻目に、俺とシアは駆け出してブラックミノタウロスの群れへと迫る。


「せい」

「ふっ」


 俺とシアが攻撃は放つ。


―パパパパパァンッ

―スパパパパパァンッ


 あっという間に魔石の山が出来る。


「おっ。幸先がいいな。ブラックミノタウロス肉が二つも出た。一個ずつにするか?」

「ふーくん持つ」

「そっか。それじゃあ俺が貰うな」

「ん」

「代わりに一個多く魔石貰ってくれ」

「ん」


 俺たちは短くやり取りをして戦利品の分配を済ませ、三人の元に戻る。


「どうしたんだ、二人とも?」

「夢でも見てるのかしら……」

「そうかも……」

「なんだか二人ともおかしくなっちゃった」

「マジか」


 戻ってきたら天音と零が遠くを見て呆けてしまっていて、七海が困惑していた。


 とりあえずボーっとしている二人を引き連れ、俺とシアが交互に一階のブラックミノタウロスを含む見掛け倒し大型モンスターを倒しまくった。


「いやぁ、あはははは……まさかこんなにレベルが上がるとは思わなかった」

「私でも上がってるもの……あはははは」


 二人は未だに乾いた笑みを浮かべながらどこかを見ていた。


「二人とも、いつまで呆けてるんだ?二階に行くぞ」

「そうだよ!!引っ張って歩くのも大変なんだからね!!」


 俺と七海が二人を促す。


「え、ああ、うん。わかった」

「わ、わかったわ」


 二人は少し気を取り戻したのか、俺達の後をノロノロとついてきた。


「ねぇ、お兄ちゃん。私も戦ってみたい」


 二階にやって来ると七海がそんなことを言い出す。


「ん?そうか。まだ一回もちゃんと戦っていないもんな」

「うん」

「そうか。シアどう思う?」


 そういえば野良ダンジョンでもここでも七海は一切何もしていない。今後もそれだと確かに問題がある。


 そのため、シアに七海が戦っても問題ないか確認する。


「ななみん、魔法打つ。私達守る」

「ああ~、なるほど。それなら何も問題ないな」


 そうだな。七海はひとまず魔法で攻撃するようにして、シアのお墨付きが出るくらいまでレベルが上がったら、近接戦闘をやってみてもいいかもしれない。


「よーし、二階からは七海が最初に魔法攻撃していいぞ」

「やった!!」


 俺から許可を得た七海は飛び跳ねて喜んだ。


「よし、七海、任せたぞ!!」

「うん、任せて!!『アブソリュート・ゼロ』!!」


 七海は杖を構え、魔法名を唱えた。


 すると、数十メートル先にいる超ボーナスモンスターの群れの辺りに、吐いた息が白くなるように薄っすらと白い空気が漂い始め、次の瞬間その空間に存在していたモンスター全てが凍り付いた。


「おお~!!」

「ななみん凄い」


 俺とシアはパチパチと拍手する。


「えへへ、上手く行って良かった」


 七海は頭を掻いて照れ笑いを浮かべる。


 今まで試し打ちで何度か魔法を打ったことはあるけど、実際に敵に向けて放つのはこれが初めて。Eランクの超ボーナスモンスターとはいえ、全部一度に氷漬けにしてしまうとは、ウチのシスターはやはりチートみたいだ。


―パリーンッ


 話している内に氷が砕け散り、そこには魔石が残されていた。それは、七海でもきちんと敵を倒せている証拠だった。


「それにしても七海の魔法の威力凄いな」

「ん。普通は無理。スキルのおかげ」

「そうだよなぁ。我が妹ながらとんでもない力を得たもんだ」

「えへへ、これからは魔法でいっぱい頑張るね!!」

「おう。頼んだぞ!!」


 俺とシアで七海のスキルを褒めちぎる。


 七海は杖を胸元に持ち上げてにこやかに笑った。


「なにあれ……」

「分からないわよ」

「兄貴が化け物なら妹も妹ね……」

「ホントにね……」


 未だに現実に戻ってきていない二人が、俺達の後ろの方で呆然とした顔で何やら呟いていたけど、それは無視した。


「そろそろいい頃合いだな」

「ん」

「うん!!」


 二階層のモンスター退治を終えた俺たち。時間を見ると午後七時。そろそろ帰った方がいい時間だ。


「おおい、二人とも帰るぞ」

「ええ、ああ、うん」

「え、あ、そう、分かったわ」


 最初から最後まで心ここにあらずだった二人。俺達はそんな二人を引き連れてダンジョンを脱出した。


「そういえば、今日は皆予定はあるか?」

「ない」

「わたしも~」

「私も無いわよ」


 ダンジョン近くの公園で七海以外の三人に予定を確認する。


「もしよければ母さんが料理を作って待ってるだろうから。ウチに寄ってかないか?」

「そうだよ!!寄ってってね!!」


 予定がないようなので俺と七海が提案した。


 これから世話になるだろうからな。

 母さんにも改めて紹介しておいた方が良いと思う。


「ふーくんままの料理美味しい」

「それは聞き捨てならないわね!!いいわ、行ってあげる!!」

「ふぅ……ここで私だけ行かないのも野暮ね。行かせてもらうわ」

「それは良かった。それじゃあ、こっちだ」


 全員来ることになって安堵した俺は、皆を先導して歩き出した。

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