第143話 ダンジョンもレベルアップ

「いつもここから潜ってるの?」

「そうだよ」

「へぇ~」


 公園で狭い遊具の中に五人で入り込む。流石にもう子供とは言えない高校生と大人が、五人も中にいるとかなり狭い。


 天音は遊具の中を物珍しそうに眺めている。


 可愛い女の子達に挟まれるのは悪くないけど、すぐに行動を移す。


「全員揃ったから影に潜るぞ」

「ん」

「はーい」

「りょうかーい」

「わかったわ」


 俺が全員に確認をとると、各々が返事をしたので僕はラックに指示を出して全員を影に沈めた。


「へぇ~!!滅茶苦茶不思議ね!!」


 先ほどまで遊具を珍しく見ていた天音が今度は影の中を見回している。


「確かにこれなら気づけないのも頷けるわね。私でも気づけないかもしれない」

「え!?ホントに?」


 Sランクの言葉に俺は滅茶苦茶驚いた。

 

 ラックの隠密能力がそんなに高かったなんて。俺と会った時は普通にボスだったし、隠れるなんてこと一切してこなかったのにな。なんで使わなかったんだろう。


 不思議だ。


「ええ。これはかなり隠密性が高いはずよ。視認さえされなければ誰もわからないんじゃないかしら。私も隠密系の探索者だから分かるわ」

「え!?零って隠密系なの?」


 俺は唐突なカミングアウトにビックリして零の方を見る。


 彼女は斥候らしい軽装をしているものの、その容姿のせいで圧倒的に目立つ。正直、誰でも彼女を見つけること出来てしまうと思うだけど。


「それはどういう意味かしら?」

「え、いや、零って綺麗で目立つから隠れるのには向かないんじゃないかと思って」

「~~!?」


 少し青筋建てる零に、俺が思ったことを伝えると彼女は顔を真っ赤にして黙った。


 あ、変なこと言っちゃったかもな。


「あ、ごめん。こんなこと言ったら失礼だよな」

「い、いえ、気にしてないわ」


 俺が頭を掻きながら謝罪すると、零は赤い顔のまま焦ったようにそっぽを向いた。


「あぁああああああ!!イチャイチャしてる!!禁止!!」


 そんな所に七海が乱入してくる。


 またこいつは変な勘違いを。


「いや、してないだろ」

「そ、そうよ。イチャイチャなんてしてないわよ」

「うっそだぁ!!今イチャイチャの波動を感じたもんね!!」


 俺と零が否定しても、七海がジトリと睨んでくる。


 ただ俺が変な事を言ってしまっただけだというのに、変な勘繰りもいいところだ。


「してないっての。それよりさっさとダンジョンにいくぞ。皆も俺に続いて歩いてくれ」

「ぶぅぶぅ。はーい」


 不承不承といった七海を尻目に、俺は更に影に沈んでいるラックに指示を出してダンジョンに進み始めた。


「着いたぞ」

「え?もう着いちゃったんだ」

「早いわね……」

「たった数百メートルだからな」


 俺はラックに指示を出して皆を影から外に出してやると、そこは見慣れたダンジョンだった……はずだった。


 しかし、何故か様子が違うような気配がする。


 ああ、そういうことか。


 ここは野良ダンジョンと同じように敵が一階から超ボーナスモンスターになっていることに気づいた。EランクのボーナスダンジョンがDランクのボーナスダンジョンにレベルアップしていたらしい。


「シア、ここは野良ダンジョンと同じレベルになってる。これは一杯経験値稼げるぞ」

「ん。楽しみ」


 シアに耳打ちで朱島ダンジョンの敵が野良ダンジョンと同じく、一階から超ボーナスモンスターに変化していることを伝えると、シアは少し微笑む。


 アホ毛は嬉しそうに飛び跳ねる。


「どうかしたの?」

「いや、何でもない。それじゃあ先に進もう」


 シアに耳打ちしていたのを目敏く見つけた天音に、俺は首を振って答えた。


 BランクとSランクの二人にとってEランクダンジョンがDランクダンジョンになったことくらい言っても意味がないしな。それに、七海は野良ダンジョンしかしらないからな。同じものだと思ってくれるだろうから説明は要らないはずだ。


「それじゃあ、早速レベルアップを始めよう。たいして強くないので大丈夫だ。七海以外の四人で敵と遭遇したら順次倒していこう」

「ん」

「はーい」


 俺の言葉にシアと七海が返事をするが、もう二人の声が聞こえない。


 あ、低ランクの俺が仕切ってちゃまずいか。


「あ、天音と零ごめん。俺が勝手に仕切ってしまって」

「全然いいよ。私は隊列とか決めなくていいか気になっただけ」

「あ、私も構わないわよ?私が斥候に出なくても大丈夫かなとは思ったけど」


 俺が頭を下げると、二人が気になった部分を教えてくれる。


 なんだ、そんなことか。


「ああ、全然大丈夫だ。ここは弱いから」


 敵が弱すぎて隊列を組む意味がない。どうせ一発で倒せるからな。


「そ、そう。私はそれなら問題ないわ」

「へ、へぇ。私はしばらく見学してもいい?」


 二人はなぜか引きつった顔をしながら答える。


「分かった。ひとまず俺とシア、そして零の三人で敵を殲滅していく。七海と天音は最初は見学で。それじゃあパーティ申請するから承認してくれ」

「ん」

「はーい」

「りょうかーい」

「わかったわ」


 俺達はパーティを組んで、生まれ変わった朱島ダンジョンでのレベル上げに乗り出した。

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