第141話 着々と集まってきている

「これで佐藤七海様は探索者組合豊島支部の所属となりました。指導機関も神ノ宮学園で手続きさせていただきましたので、よろしくお願いします」

「分かりました」


 俺と七海は探索者組合に行き、黒崎さんから貰った異動許可証を提示すると、すんなりと手続きが終わった。


「ちゃんと異動で来たな」

「うん、よかったぁ。ちょっとドキドキしちゃった」


 黒崎さんからの異動許可証があったとはいえ、他の人間は異動なんてしていないので本当に出来るか少し不安だった。


 しかし、問題なく終わったので俺たちは安堵していた。


「よし、これからは一緒にパーティを組んでダンジョンに潜れるからもう誰かに襲われたりしないぞ?」

「うん、ホントに怖かった……」


 七海は当時の事を思い出して自分の体を抱きしめる。


 俺は怖いを思いをさせてしまって本当に申し訳ない気持ちになった。


「ごめんな」

「んーん。何かされる前に助かったから大丈夫」


 俺が頭を下げると、七海は気丈に振舞って笑顔を浮かべる。


「もうそんな怖い思いはさせないから安心しろよ?」

「うん、信じてるよ、お兄ちゃん」

「ああ、任せておけ」


 俺はにっこりと笑って七海に返事をした。


 次は絶対間違えない。


 俺は心の中で誓った。


「あ、佐藤さん、手続き終わったんですか?」

「え!?なんでここに?」


 俺達に話しかけてきたのは本来ここにいるはずのない人物。


「いえ、私もこっちに異動してきました」

「え!?もしかして七海のためですか?」


 余りにいいタイミングだったのでまさかとは思ったけど、念のため確認してみる。


「いえいえ、そうじゃないんですよ。私の本業のためです」

「そうなんですか?ちなみに本業って一体……?」

「あ、そういえばお話したことがなかったですね。私はこういう者です。声は静かにお願いしますね」


 黒崎さんは僕に一枚のカードを提示して、口元で人差し指を立てて微笑んだ。


 提示される前は言っている意味が分からなかったけど、カードの一部分を見た瞬間、その意味が分かった。


「え、Sランク?」

「えぇ~!?」


 カードを二人で覗き込んだ俺と七海は小声で滅茶苦茶驚く。


「えぇ、一応そういう肩書をもっています」

「七海、俺達は凄い人に対応してもらっていたんだな」

「そうだね、お兄ちゃん」


 俺と七海は黒崎さんが実は滅茶苦茶強くて凄い人だと知って思わずお互いに顔を見合わせて頷いた。


 しかし、そんなに凄い人と関わるのは滅茶苦茶恐縮してしまう。


「ああ、あまり畏まらないでくださいね?今の私は職員ではないので」

「そ、そうですか、善処します」

「私も頑張ります」


 黒崎さんからはそう言われてしまったけど、流石に探索者のトップを走る人だと知ってしまうとなかなかそうはいかず、緊張が解けない。


「そういうのはあまり頑張るようなことでもないのですが」


 俺達の様子に苦笑する黒崎さん。


「あ、そうだ。それじゃあ黒崎さんももっと砕けた感じで話してくださいよ。そうすれば、あんまり緊張しないかもしれません」


 七海が黒崎さんに提案をする。


「そ、そうですね。コホンッ……分かったわ。それじゃあ、私の事も零って呼んでね。それと敬語もいらないわ」

「うん、わかった。零ちゃん」

「わ、わかったよ、零」


 なぜかお互い恐縮しないために下の名前で呼ぶことになり、敬語も止めることになった俺達。


 ぎこちないながらもため口で話すように心がける。


「それで、二人はこの後はどうするの?」

「一応他のパーティメンバーと合流する予定です」


 俺たちはこの後シアと天音と合流してダンジョン攻略を行う予定だった。


 俺達のパーティに七海を入れてレベル上げをする。


「そう。そのパーティに私も入れてもらうってのは難しいかな?」

「え!?」


 俺たちの予定を離すと、黒崎さんからとんでもない申し出があった。


 俺はあまりに唐突過ぎて驚きで声が出る。


「えっとね、私は冒険者を引率する方で参加するから、どうせなら面識のあるあなた達だと嬉しいなぁって」

「なるほど。七海はどうだ?」


 零が俺の驚きを見て理由を教えてくれる。


 俺は別に構わないけど、七海にも確認する。


 それに俺としても七海を守る人が増えるのは助かる。零は俺の秘密の一番近いところにいる人だけど、今は七海の安全が最優先だ。それ以上に大事なことはない。それに比べれば俺の秘密なんて些細な事だ。


「私は零ちゃんが一緒に戦ってくれるなら嬉しいよ?」

「そっか。七海もこう言ってるし、俺も構わないよ」


 七海も特に問題ないようなので俺はパーティ参加を了承する。


「ありがとう。全く知らない人だと指導も大変だからね。あなた達なら私もやりやすいわ」


 すると、零は微笑んでそう言った。


 こうして俺たちのパーティに零が加わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る