第130話 攻略後のフィーバータイム

「結局ボーナスモンスターは出てこなかったなぁ」

「ん」

「だからそんなモンスターはいないのよ」


 俺がぼやくとシアが同意を、天音がボーナスモンスターの否定をする。


「言ってろよな」


 俺は天音を意に介すことなく、鼻で笑って答えた。


 日曜日、俺たちはあっさりと森林ダンジョンを攻略してしまった。ボーナスモンスターとは二十階層まで一度も出会うことなく、すんなり進んでボスモンスターをさっき倒してしまったところだ。


 ここのボスはCランクのモンスターだったので試しに戦ってみたら一発だった。


 どうやら俺はCランクのボスモンスターを倒せる程度には、裏試験である熟練度を攻略しているらしい。ふむ、やはり能動系熟練度を上げることが大切なようだ。


「ひとまず今日は帰るか」

「ん」

「それよりもそれ、拾わないの?」

「ああ、そういえばそうか」


 ボスから出た魔石は、普通のCランクの魔石でボーナスモンスターのような価値は無さそうだ。今までボーナスモンスターばかり倒していたから、あまりの小ささに忘れてしまうところだった。


「それじゃあ帰ろう」

「そうね」


 俺は魔石を拾ってカバンに入れると、帰還魔法陣に乗ってダンジョンの外に出た。外はまだお昼で時間的には余裕がある。スマホの時計も十四時を示していた。


「バスは何時だ?」

「十四時二十分」

「おお、了解」


 俺たちはダンジョンの入り口からバス乗り場に向かって歩いて行こうとした。


―ゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 しかしその時、地響きのような轟音が辺りに響き渡った。


 実際の震度はそれほど大きくないけど、それなりに揺れを感じる。


「な、なんだ、この揺れは地震か?」

「これは覚えがあるわ……構えなさい!!」


 俺は地震とは違う感覚を覚えながらも、それ以外の災害は知らないので地震だと思ったんだけど、天音は何かに気付いて叫んだ後、自分の武器を構えて俺達に指示を出す。


「一体どうしたんだよ!!」

「これはスタンピードよ!!来るわよ!!」


 天音に尋ねると、こっちを一瞬見て答えて、数十メートル先のゲートを顎で指す。


 そういうことか!!


「マジかよ!!」

「ん!!」


 俺とシアは急いで構えた。


―ドンッドンッドンッドォオオオオオオンッ


 何度かゲートの扉が建築機械で殴られているような鈍い音を出していたと思えば、ゲートの扉が吹き飛び、中から大量のモンスターが現れた。


 それは大量の虫型モンスターの数々。


 しかし、元々森林ダンジョンに居たモンスターとは色や大きさなどが違った。


「あれはまさか!!」


 おれはその姿に思い当たる物があった。


「ボーナスモンスター!!」


 俺は俄然嬉しくなってしまった。


 やっぱりこういう時俺ってツイてるんだよなぁ!!


「シア!!ボーナスモンスターが出てきたぞ!!行こうぜ!!稼ぎ時だ」

「ん!!」


 俺とシアがモンスターに向かって駆け出す。


 しかし、天音がついてくる様子がない。


「おい、どうしたんだよ、天音!!」

「無理無理無理無理無理無理無理無理!!虫は無理なのぉ!!」


 俺は振り返って天音に声を掛けたんだけど、頭を押さえて蹲ってしまった。


「分かった!!俺達が倒すからちょっと待ってろ!!」

「虫怖い虫怖い虫怖い……」


 どうやら後ろに一匹も通してはいけないらしいな。


 所詮Dランクのボーナスモンスターなら今の俺達の敵ではない。


「ん」


 しかも俺にはシアもいる。


 何匹出てこようが相手になるわけがないだろう!!


「シア行くぞ!!」

「ん」

 

 俺たちはゲートの方に向かっていく。


「おーい!!君たちぃいいいい!!戻ってきなさぁーい!!」


 後ろから組合職員の声らしきものが聞こえたが、天音がすぐ後ろで蹲っているので俺たちはその声を無視して突き進んだ。


「はぁ!!」

「ふっ!!」


―パパパパパパパパパパパパァンッ!!

―スパパパパパパパパパパパァンッ!!

 

 俺が拳を振い、シアが剣を振う。


 その度にその直線状にいる敵が消えていくが、その好きを埋めるように中からモンスターが飛び出してくる。


 俺とシアはひたすらに敵を屠り続けた。


「ははははははははっ。これでまた七海に良いもの買ってやれるぞぉ!!」

「ん!!」


 七海が喜ぶ顔を思い浮かべると、俄然俺のテンションがアゲアゲになっていく。


―パパパパパパパパパパパパァンッ!!

―スパパパパパパパパパパパァンッ!!


 何の考えもなく俺たちの前にやって来るモンスターなど只の的。


 ボーナスモンスターが只ぞろぞろとやってきてくれるスタンピードって、実は最高としか言いようがないんじゃないか?


 だって、普通ならダンジョンを歩いてわざわざそいつがいる場所まで行かないといけないのに、相手からやってきてくれるんだから。


 幾度となくモンスターを倒し、それから一時間ほど経った頃、ようやくその陰りが見えてきた。


「ああ~!?もうフィーバータイム終わりじゃん!!」

「残念!!」


 俺は徐々に減って来るモンスターに悲しい気持ちになる。


 せっかくこんなに簡単に稼げるモンスターがもうすぐいなくなるなんて……。


 シアも同じ気持ちみたいで残念がっている。アホ毛もシュンとしている。


―パパパパパパパパパパパパァンッ!!

―スパパパパパパパパパパパァンッ!!


 さらに三十分ほどすると中から出てくるモンスターはもうポツリポツリとまばらに出てくる程度でもうほとんど出てこなくなっていた。


「終わっちゃったな……」

「ん……」


 俺とシアは少し残念そうな顔でお互い見合わせた後、たまに出てくるモンスターを処理しながら蹲っていた天音の所に向かった。


「天音~。もう終わったぞぉ」

「虫怖い虫怖い虫怖い……」


 天音に声を掛けてみたけど、ゲートから出てきた大量の虫モンスターを見た時から蹲って呪詛を吐き続けている。


 全くしょうがないな……。


「あぁまぁね!!」

「わぁ!?」


 俺は返事のない天音の肩を掴んで揺らし、大声で名前を呼んだら、天音は変な声を出して飛び上がった。


「え?あ?普人君?」

「うん、そうだ」


 辺りを見回して俺の顔を認識して確認するように俺に尋ねる。

 

「虫は?」

「ほとんど倒した」


 俺はシアの方を指し示す。


 シアは近くで散発的にやってくるモンスターを切って捨てていた。


「そ、そう。怖かったよぉおおおおおおお!!」

「おわぁ!?」


 天音は安堵したせいかいきなり俺に抱き着いてきた。俺と天音の間で彼女の女性の象徴がぐにゃりと形を変えて押しつぶされる。


 うぉおおおおおお!!

 なんというすさまじい攻撃力だ。


「おお、ヨシヨシ。怖かったな」

「う……うう……」


 俺に抱き着く天音の頭を七海にするように撫でてやる。


 一体何で俺は天音をあやすことになっているんだろうか?


 その理由について疑問が尽きないけど、放っておくことも出来ないので天音が落ち着くまでの間、しばし頭を撫で続けていた。


「ご、ごめんね」

「ああ、いや、まぁ誰にでも苦手な物はあるからな」


 いつになくしおらしい天音に、俺は戸惑いながらも頭を掻きつつフォローする。


 俺もGの名のつく嫌われものは嫌いだからその気持ちは分かるし。


「う、うん。それであの……」

「ああ、皆まで言わなくていい。他の連中に言ったりはしないから」


 俺はもじもじして言いづらそうな天音に先んじて安心させておく。


 そんなことで脅したり、何かを強要したりすることないからね。


「あ、ありがと」

「気にしないでくれ」


 素直に礼をする天音に手を振って答えた。


「イチャイチャ禁止?」

「してないからな?」


 シアが俺と天音の間に立ち、視線を俺たちの間で行き来させながら疑問形で尋ねたので否定しておいた。


―トゥルルルルルルルッ


 そんな会話をしていた俺達。俺の携帯電話の音が鳴った。


「はい、もしもし」

『もしもし、佐藤さんですか?私、黒崎ですけど』

「はい、そうです」 


 出てみると、電話の先の声の主は黒崎さんだった。


『ダンジョンのことではないんですが、先に佐藤さんのお耳に入れたいことがありまして、ご連絡しました』

「そうなんですか?一体何事でしょうか?」


 ダンジョン以外で何か連絡してもらうようなことってあったっけな?


『えっと……落ち着いて聞いてくださいね』


 一度前置きをして心構えをさせる黒崎さん。


『七海さんが拉致されました』


 その言葉を聞いた時、目の前が真っ白になった。

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