第129話 天音とイチャイチャ

「あなたたちも空間拡張バッグ持ってたのね」

「まあな」

「ん」


 俺たちは野営の準備を始めるために、空間拡張バッグから色々取り出していく。


「ちょちょちょちょちょっと、待ちなさいよ!!」

「なんだよ」


 俺達がいつもの道具を取り出していると、何故か天音が俺達の手を止めさせた。俺とシアは天音を意味が分からず、俺は困惑顔を、シアは無表情で首を傾げる。


 せっかくダンキャンの準備してるってのに何の用なんだよ。


「何よそのバッグの性能。一体どこで手に入れたのよ。ていうか何入れてんのよ!!」


 何か三段活用のように俺達に尋ねる天音。


 なんだ?ひょっとして欲しかったのかな?


「ああ。この前実家に帰った時、たまたま野良ダンジョンを見つけてな。十階層しかなかったから多分Dランクダンジョンだ。でも残念だったな。今そこの野良ダンジョンは今組合職員が調査中のはずだぞ」

「はぁ!?」


 俺の言葉に天音が驚愕の表情を浮かべて叫んだ。


 やっぱり欲しかったのか。まぁそこは調査が終わるまで待てば取りに行けるでしょ。どのくらいで宝箱が復活するか分からないけど、いつかは復活するわけだし。確か低ランクダンジョンの宝箱は復活が早かったはずだ。


 天音はBランクだし、案外すぐに手に入れられるんじゃないか?


「それにこれはダンジョンキャンプの道具だ。ダンジョンで寝る時に快適な道具を詰め込んでいる」


 俺は天音の驚きを無視して最後の質問に答えた。


 『ダンキャン△』を知らないのか?常識だろ?ダンジョンでのキャンプは楽しいものなんだぞ?


「そういうことを聞いてんじゃないわよ!!」

「だったらなんだよ……」


 激昂して俺に詰め寄る天音に、俺は面倒くさそうに答える。


「そんなバカげた性能の袋がDランクダンジョンで出るわけないじゃない」

「出たんだから仕方ないだろ?なぁ?」

「ん。十階層のダンジョンだった」

「ほらな?」

「そんなバカな……」


 天音が否定しようとしてもDランクダンジョンの宝箱から出てきたのは事実。ゆるぎない真実だ。


 シアも俺に同意してくれている。

 二対一多数決なら明確な勝敗がついた。


 天音はその事実に呆然となった。


「俺達ってかなりツイてるからな。それで出たんだろ。このジャージもBランクの攻撃が効かないくらいに性能が良いわけだし」

「俄かには信じがたいわね……」


 俺は適性と装備以外に関してはかなりツイてる方だ。ボーナス魔石で数十億という資産を手に入れてしまったくらいにはツイてるからな。ラックみたいな便利従魔もゲットできたし、ホントにヤバいくらい持ってると我ながら思う。


 そりゃあ確かに他人から見れば、信じがたい強運かもしれないけどね。


「俺たちは目の前で見てきたからな。俺たちは自分の眼で見たことを信じるだけだよ」

「こっちも反論できるだけの証拠はないのよね。あくまで今まで出たことがないってことだけで」

「だろ?別に信じてもらえなくてもいいさ」

「はぁ……これは言うだけ無駄ね。まぁそれで納得しておくわ」


 俺の答えに仕方ないとばかりに一応の納得を見せる天音。俺は信じてくれてもくれなくてもどっちでもいいのでヤレヤレと肩を竦めた。


「それでそれは何をやってるのよ」

「そりゃあ、ダンジョン飯の準備だろ」

「それってフィクションかFランクダンジョンとかの話でしょ。誰がDランクダンジョンでそんな盛大な調理器具を持ち込んでまで美味いご飯を作ろうとするのよ」


 俺が自分で手を挙げた。


「あなた以外でって話でしょうが!!」

「別に良いだろ?迷惑かけるわけじゃないし」

「かけるわよ!!匂いで敵が寄って来るわ!!」


 俺が鬱陶しそうに答えるが、天音はグイっと俺に近寄って答えた。


「なんだよ。それってつまり、やっぱり虫が寄ってくるのが怖いだけじゃないのか」

「ち、違うわよ」


 天音はプイっと外を向いて顔をほんのり赤らめながら不機嫌そうに返事をする。


「ほら、反論できないじゃん。それに大丈夫だ。今まで一回もモンスターが寄ってきたことはないからな」

「はぁ……分かったわよ。私も手伝うから料理食べさせてよ」

「仕方ないな」


 手伝いの申し出と引き換えに料理を提供する約束をした俺達。


 天音の料理は非常に美味しいので何も問題ない。


「ん!!」

「シアは大人しくしてような」

「ん……」


 天音が料理を手伝うの見て、俄然やる気を出して珍しく声を上げて自己主張するシア。彼女も手伝いを申し出てくれたんだけど、俺が断ると彼女は少ししょんぼりしてキャンプ椅子に深々と腰かけ、ブランケットを膝の上に載せて天井を見上げてぼんやりし始めた。


 いやだって、流石に上司でもあの料理とは思えない鮮やかの色のカレーの二の舞は真っ平ご面だ。七海と会う前に作ってた時みたいに普通に手伝ってくれるなら良いけどな。


「それじゃあ、作るか」

「ええ、任せておいて」

「ああ、天音の料理美味かったからな。期待している」


 俺と天音は二人で料理を作った。そして、できた料理を三人で囲み、その美味い料理に舌鼓を打った。


「ほんっとうに大丈夫なのよね?」

「ああ、絶対に大丈夫だから自分のテントで寝てていいぞ?」

「分かった。何かあったら起こしてね」

「了解」


 天音はシアの天との中にそそくさと入っていくと、俺だけが外に残る。


「やれやれ、ラック、野営は任せたぞ?」

「ウォンッ」


 中々信用しなかった天音をなんとかテントに押し込むことに成功した俺は、ラックに野営を任せ、俺も自分のテントで眠った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る