第128話 天音の狙い
「右」
―スパァンッ
「左」
―スパァンッ
「上」
―スパァンッ
「上」
―スパァンッ
俺の掛け声でシアが剣を振ると敵がコマ切れに変わる。俺と天音はシアの後ろについて階段に向かって走っていく。
「あんたら大概おかしい自覚ある?」
「何が?」
俺の隣で天音が呆然とした顔で呟いているけど、言ってる意味が分からなくて首を傾げてしまう。
「はぁ……いやないならいいわ」
「そうか?ならいいんだけど」
俺は呆れるように呟いて額に手を当てて自己解決した天音に、何も分からないままとりあえず返事をした。
「階段」
俺たちはすぐに階段を見つけて次の階へ到達する。
「ここからは少しに慎重に進もう」
「ん」
「そんなに警戒しなくてもいいと思うけど」
俺とシアが二階を警戒をしながら進んでいくと、後ろで天音が呆れながら頭の後ろで手を組んでぼやいた。
「バッカ。ダンジョン舐めんよ」
「はーい」
俺が真面目な声で注意すると、天音は不承不承と言った感じに返事をした。
―スパァンッ
―スパァンッ
―スパァンッ
―スパァンッ
―スパァンッ
二階はゴールデンウィーク前と同様に普通のモンスターばかりで、ボーナスモンスターが出る気配がない。一体どういう条件であのボーナスモンスターが出てきたんだろうか。
まさか初回攻略時のみ遭遇することができるとかか?
聞いたことはないけど可能性はある。なにせあれから一度も出会えてないからな。
「うーん、やっぱり今日も出会えなかったか」
「ん」
「ほーら、やっぱりそんな強いモンスターいないじゃない」
ほら見たことかと天音が俺達を馬鹿にする。
魔石は確かにドロップしたから見せれば信用してもらえるかもしれないけど、影の中に入ってるからな。
天音は信用できないので影の力は見せたくない。
素直で隠し事が出来ない性格っぽいからそれほど警戒しなくてもいいのかもしれないけど、ラックの力はトップシークレットだからな。
ここは甘んじて非難は受けるとして、しかし黙っているとは言っていない。
「うるさいな。確かに俺は会ったんだよ。その時は俺しかいなかったからシアも会ってないし証明できないけど」
「あっそ。それで?どうするの?とりあえず三階に行ってみる?」
俺の言葉を切って捨てる天音は、これからどうするか俺に尋ねる。
「ああ、今日は金曜日だから行けるところまで行ってみようと思う」
「そ。まぁ気が済むまでやったらいいじゃない」
さっきまでの雰囲気と違い急に協力的になった天音。
なんだ?こいつは一体何を企んでいるんだ?
「あれ?どうしたんだ?やけに素直じゃないか」
「別に。帰っても暇だから付き合ってあげようと思っただけよ」
「ふーん。まぁいいけどな。それじゃあ三階に行くか」
「ん」「はいはい」
俺たちは一直線で階段に向かい、そのまま三階へと突入した。
「うーん。今の所変わったところは無さそうだな」
「でしょ?」
「とりあえず近いモンスターから順に戦ってみるか」
「ん」
俺たちはとりあえず近くのモンスターから狩っていくことにした。
それから出てくるのは通常のDランクモンスターばかり。気配からすでに分かっていたことだけど、少しも強いモンスターが出てくる気配はなかった。
「出てこないな」
「ん」
「気が済んだかしら?」
結局三階のモンスターを全て倒してみたけど、ボーナスモンスターは出てこなかった。
一体ボーナスモンスターを出す条件は一体何なんだ……。
やっぱり初回だけなのか……。
「いや、こうなったら最後の階まで行ってみる!!」
「ん!!」
もうこうなったら最後の階まで行って自分の力を試す方へとシフトすることにした。
分からないものは考えても分からない。
そんなことよりも野良ダンジョンでは推定Cランクのモンスターを倒すことができた。つまり裏試験を順調に消化しているということだ。
「え!?私宿泊の道具なんて持ってきていないわよ!?」
「いや、別にお前は付き合う必要ないぞ?」
「ん」
驚く天音に、俺とシアは暗に帰れと伝える。
「はぁ!?上等じゃない!!最後まで付き合ってやるわよ!!」
しかし、その目論見は完全に外れて、天音は俄然やる気を出してしまった。
ちっ。こいつの性格を見落としていたか。
物凄く負けず嫌いっぽいもんな。
虫駄目なのに。
「はぁ……ついてきても良いけど、俺達の邪魔だけはしないでくれよな」
「分かってるわよ」
俺たちはその日のうちに十階層に到達した。
「ふぅ。結局ここまでボーナスモンスターは出なかったか」
「ん」
シアが今日最後にしようと決めたモンスターを倒した後、俺達は今日を振り返る。
十階まで来てみたはいいものの、手ごたえのあるモンスターと会うことはできなかった。いや、もしかしたら俺の熟練度が上がったせいもあるのかもしれない。
そう考えればつじつまが合う。
あいつらと戦ったのは能動的な熟練度が進化する前だった。それが上がってしまって今や同じレベルの敵でも一発で倒せるようになったのではないだろうか。
いや……気配が違うからそれはないよなぁ。
「はぁ……はぁ……あんた達いつもこんなことやってるの?」
俺たちの後をついてきていた天音が息を上げて困惑した表情で俺達に問いかける。
「ん?そうだけど?」
「どんだけ体力あるのよ……」
「このくらい探索者なら普通だろ」
「ん」
「そんなわけないでしょ!!」
天音はなぜかキレた。
こいつは何を言っているんだろうか……。
むしろこいつはBランクのわりに体力が思ったよりも少ないな。
あ!!
ははーん。分かったぞ。
こいつはBランクにもなってまさか裏試験を理解してないんじゃないか?
能動系の熟練度を鍛えることで体力を含む能力値も上昇するんだと思う。それなのにこいつはおそらく能動系熟練度を全然上げてないんだ。
某漫画も使えるのと使えないのでは全く別次元の力を手に入れるからな。
今日俺達について来たのも俺達がランクのわりに少し強いのに気付いて、その秘密を探りにきたんだ。だからいきなり素直になった振りして俺たちを観察してんだな。
俺は完全に理解した。
「まぁ……なんていうか、頑張れよ……」
「むきー!!何よその顔!!イラつくわね!!」
「ん」
「あんたまで何よ!!」
俺とシアは一緒になって残念な生き物を見るような視線で天音を見る。天音はそんな俺たちの視線が気に障ったのか癇癪を起して暴れだした。
「それはそうと、野営の準備をするか」
「ん」
俺とシアはそんな天音を放って夜を越す準備を始めた。
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