第127話 イチャイチャ禁止?
「げ。虫モンスターじゃない!!」
「そりゃあ、虫モンスターいるに決まってるだろ。森林ダンジョンなんだから」
「そ、そうだったわね。そ、それじゃあ、私は見てるから倒して良いわよ?」
勢い勇んでダンジョン内に進入した天音だったけど、人の大きさに近い蜘蛛型モンスターが姿を現した途端、なにやら挙動不審になって先を促す。
全く、何も隠せてないじゃないか。
「ははーん。天音、さては虫が苦手だな?」
「べ、別に!!苦手じゃないわよ!!ここは私には弱すぎるから譲ってあげようってだけよ」
俺がニヤリと口端を歪ませて問い詰めると、天音は更にしどろもどろになって答える。
これでバレてないと思ってるんだから面白い。
「ふーん。ホントかなぁ?」
「と、当然じゃない!!私はこれでも先輩ですからね。こ、後輩に優しくするは当然でしょ?」
俺が訝し気な表情で再び問い返すと、腕を組んでそっぽを向いて顔を赤らめる天音。自然に腕を組むだけで胸が物凄く強調されて目を奪われたけど、天音はそっぽを向いているので気づかれずに済んだ。
「それならまぁいいけど、シアどうする?」
「戦う」
「まかせた」
「ん」
それ以上天音をからかうのは止めて、シアといつものように簡単なやり取りをすると、シアが弓矢のごとく弾かれるように飛び出して蜘蛛をバラバラに切り裂いた。
何食わぬ顔で戻ってきて魔石を自分の空間拡張バッグに入れるシア。
彼女は今日も絶好調のようだ。
「あ、あんた、絶対Eランク探索者じゃないわよね?」
「ん?Eランク探索者。ふーくんとお揃い」
顔に驚愕を貼り付けてシアに話しかける天音。シアは証明するように探索者カードを取り出して天音に向かって誇らしげに突き付けた。
「いや、そういうことじゃないんだけど……」
差し出されたカードに困惑する天音。
「ん?」
「いえ、まぁいいわ。なんでもない。それで今日の目標とかあったりするの?」
天音が困惑している理由が分からないのか、首を傾げるシアに天音が首を振って話を切り替えた。
そういえばここに来た目的を話していなかったか。
「ああ。とりあえず三階に行ってみようと思う」
「どうして?」
「二階で結構強いモンスターと遭遇したからな。それ以降はもう少し経験を積んでからにしようと思って進んでなかったんだ」
俺はあのモンスターと会ってからずっと二階層で戦っていたんだけど、ゴールデンウィークまでに会うことは叶わなかった。
それに、ゴールデンウィーク中に入った野良ダンジョンで、もしかしたらCランクモンスターも倒せるようになったかもしれないので、力を試すためにも先に進んでみたい。
「二階にそんな敵がいるとは思えないけど、私もちょっと戦ってみたいわ」
「虫だけどな」
拳を握って闘気をたぎらせる天音に向かって俺は冷や水をかぶせてからかう。
「うっ」
その効果は抜群で天音は物凄く嫌そうな顔をする。
天音には怖いものなんて無さそうなのに意外な一面だな。
「ぷっ。冗談だよ」
「あっ!!酷い!!騙したわね!!」
天音の反応がおかしくてついつい噴き出すと、天音が俺に詰め寄ろうとズンズンとこちらに歩いてくる。
「ははははっ。女の子らしく可愛らしい所もあるもんだと思ってね」
「~!?」
俺が自身の眼からあふれた涙を拭きとりながら返事をすると、瞬間湯沸かし器のように赤面して体を硬直させて立ち尽くした。
「どうかしたか?」
「い、いえ、なんでもないわ!!そ・れ・よ・り・もサッサと先に行くわよ!!」
立ち止まる彼女を不思議に思って尋ねると、慌てたように気を取り直した後、拗ねたよう踵を返して先へと進んだ。
「おーい、天音」
「何よ!!」
俺が呼びかけると、天音は喧嘩腰でこちらを睨みつける。
おいおい、俺が何かしたか!?
「階段はそっちじゃないぞ?」
「~!?そ、そういうことは早く言いなさいよね!!」
そんな俺の気持ちはさておき、間違いを教えてやったら、理不尽な回答が返ってきた。
ちょっとひどすぎやしませんかね?
「いや、お前が勝手に先に進もうとしたんだろ……」
俺は思わずため息を吐いて呟く。
天音は、今進んでいた方とは反対方向に俺たちの横を通り過ぎてヅカヅカと早い歩調で進む。
いや、だからさ……。
「天音」
「今度は何よ!!」
再び声を掛ける俺に同じように不機嫌そうに答える天音。
「いや、階段はそっちでもないぞ?」
「じゃあ、一体どっちが階段なのよ!!」
俺が再び教えてやると、天音はその場で地団太を踏む。
何にそんな腹を立ててるんだ?
「あっちだ」
「ふん!!」
再び立ち止まった天音は俺の指さす方にプイっと顔を背けて歩いて行った。
「一体どうしたんだろうな?」
「イチャイチャ禁止?」
「してないだろ……」
俺の問いかけるような呟きに何故か疑問口調で答えるシア。
ちょっとからかったくらいで別段イチャイチャなんてしてなかったよな。
「ほら、いつまでボサッとしてるの!!サッサと先に行くわよ!!」
俺達が二人でボーっと天音の背を見ていたら、先を進んでいた彼女が振り返って叫び、再び先へと進んでいく。
「天音のやつもああ言ってるし、追いかけるか。方向音痴なのかもしれない」
「ん」
俺たちはドスドスと不機嫌そうに歩く天音の背を追って駆け出した。
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