第126話 お邪魔虫

 天音が俺に攻撃を仕掛けきた日から少し経ったある金曜日。


「お前たちはEランクダンジョンでやることは何もないな。全員がDランクの実地講習に行けるまで自習だ」

「え!?いいんですか?」


 できれば実地講習を受けたくない俺は早乙女先輩の言葉に驚きつつも、喜色を含んだ声色で尋ねた。


「ああ。ここはダンジョン探索部部長の権限で話を通しておくから問題ない。というかすでにEランク探索者になっている二人とBランク探索者じゃほとんど意味のない講習になってしまうからな。恐らく次のDランクダンジョンの実地講習の時も一、二度やったらお前たちは免除になるだろうな。今日の報告を聞く限りお前たちはDランク程度はもうクリアできそうだからな。正直試験も必要ないとは思うんだが、それは一応決まりだから受けてもらう」

「それはまぁしょうがないですね」

「ん」


 ふむふむ。


 一応学校公認の部活である以上、一定の成果をきちんとデータとして報告する必要があるんだと思う。まぁ学校の方針に逆らうつもりはないので、俺とシアは特に断る理由もないので頷いた。


 それにしても、俺は頑張ってダンジョンに潜りまくった甲斐あってDランクダンジョンをクリアできる程度のお墨付きを貰ったぞ。


 やったね。


「私はもう別にBランクだからこの試験とか別にどうでもいいけどね」

「そうだな。基本的にこの学校のカリキュラムはDランクまでを育てることを念頭に置いている。それを超えてしまったお前には退屈な時間だろう。最低限の実地講習と試験に参加さえしてもらえれば問題なくしておくから、それに出席だけはしておいてくれ」

「はーい」


 天音の言葉に頷き、話を続ける早乙女先輩。


 どこでも最低限の体裁は必要ってことか。


「それでは今日は解散だ。帰っていいぞ」

「分かりました」


 俺たちはダンジョン探索部の役員室から退室した。


「はぁ……Bランクにもなって初歩的なことをやらされるなんて思わなかったわ」

「だったら、なんでこの学校に入ったんだよ。別にくる必要なかったろ」

「い、いやそれは……私にもいろいろあるのよ」


 愚痴る天音に突っ込みを入れると、目をキョロキョロと泳がせる彼女。


 やっぱり怪しんだよな、こいつ。


「なんだよ、色々って」

「そ、それは秘密よ!!乙女の秘密は暴いちゃいけないのよ?」

「はいはい、分かりました」


 さらに突っ込んで聞こうと問い詰めると、顔を反らして乙女の秘密という都合のいい言い訳を使用したので俺は追及を諦めた。


 一体何を企んでるのやら。


「さて、やることがなくなったけど、あなた達はどうするのかしら?」

「そうだなぁ、特にやることないし、ダンジョンに行こうかな」

「ん」


 探索棟から出た俺達。


 天音がこれからの予定を聞いてくる。今日の呼び出しは終わったし、しばらく俺たちは免除になるみたいだから、前と同じようにダンジョンに行くことにする。


「そう?それじゃあ普人君、私も一緒に連れて行ってよ?」

「えぇ……なんでだよ……」


 俺達がダンジョンに行こうとすると、天音もついて来たいという。


 俺は露骨に嫌な顔して天音を見つめる。


 こいつがついてくるとラックの力を大っぴらに使えないから面倒だな。


「私も暇だし、別にいいじゃない。それに私が居ればAランクのダンジョンまで入れるわよ?」

「Aランクのダンジョンなんて行ったら死ぬわ」


 俺の視線も意にも介さず、天音が話を進めようとする。


 Aランクダンジョンには正直興味はあるけど、俺に自殺願望はない。


「えぇ……私の攻撃が効かないんだから絶対大丈夫だと思うんだけど」

「それは装備のおかげだっての。アレがなきゃ俺はただのEランク探索者だよ」


 不満そうに言う天音。昨日の事を思い出しながら呟いたらしい彼女だけど、俺は呆れるように言って首を振った。


「ふーん、まぁいいけど。それじゃあ、どこに行くの?」

「そりゃあ、俺達のランクに見合ったダンジョン、Dランクの森林ダンジョンだよ」

「分かったわ、そこでいいから一緒に連れてってよ」


 諦める様子のない天音。


「シアどうする?」

「パーティに入れない」


 俺は仕方ないので上司であるシアにお伺いを立てると条件を出した。俺とシアが窺うように天音を見つめる。


「はいはい、分かりました。それでいいわ。別にDランクダンジョンの雑魚モンスターの経験値なんていらないし」

「ん。ならいい」


 両手を上げて了承した天音に、シアは満足そうに頷いた。


 アホ毛も満足そうに飛び跳ねている。


「話も決まったみたいだし、森林ダンジョンに行くか」

「ん」「ええ」


 俺たちは森林ダンジョンへと向かった。


「はぁ……相変わらず視線が痛い」

「ん?」

「何か言った?」

「いいや、なんでもない」


 ダンジョンに着いた俺達。辺りの視線を一心に浴びている。


 今回は妹の代わりに天音を連れて歩いているけど、嫉妬の視線が七海の時よりも強い。それは七海がまだ幼く、天音が俺と年齢も見た目もそう変わらないというのが大いに関係していると思う。二人とも俺の彼女とかじゃないので許して、ホント。


「Dランクダンジョンなんて、あなた達にはもう大した相手ではないでしょう?」

「いやいや、森林ダンジョンには俺が簡単に倒せなかった敵がいるんだぞ?油断できないな」


 天音の奴がBランク探索者なのに舐めたようなことを言い始めたので俺は反論する。


 あいつら以外に強かったぞ。再生するし、一発で消えないし。確かにBランクの天音ならDランクモンスターなんて楽勝だろうけど、俺達はそうはいかないんだぞ?


「え!?そんなモンスターいるわけがないわよ」

「いたんだって。最初の一回しか会えてないからボーナスモンスターだと思うんだけど、全然会えない」

「へぇ、それは俄然面白くなってきたじゃない。そのボーナスモンスターとやらを見つけるわよ」


 俺の話に興味をもった天音は勢い勇んでダンジョンへと駆け出す。


 おい、俺達のためのダンジョン探索なんだぞ、獲物を横取りされてたまるか!!


「お、おい、ちょっと待てよ!!」

「ん!!」


 俺たちは先を行く天音の背を追いかけた。

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