第120話 おべんとばっこに、ちょいとつめて?
天音がパーティに加入した次の日。
「よーし!!お昼を食べに行こうぜぇ」
「そうだな。今日はどこで食べるか」
「やっぱり屋上だろ」
「まぁ、そんなに人も来ないしな。学食で食べるやつ多いし」
「ん」
俺達は屋上に向かうために、教室を出ていこうとする。
「こんにちはー!!」
元気な声が教室内に響き渡り、周囲の注目を集めた。
その声の先に居たのは天音だった。
「あぁ!!普人君みつけた!!一緒にお昼食べようよ!!」
天音は俺を見つけるなり駆け寄ってきてやたらとデカい風呂敷のようなもの包まれた物体を俺に見せつけてくる。
周りの視線が、またお前かよ!!爆発しろ!!と言っているのを感じる。
「あ、あぁ……。俺たちはこれから屋上で食べるつもりだったんだよ」
「あ、じゃあ私も行っていい?」
「え、あ、いいんじゃないか?」
シアの顔を窺ると別にどっちでもいいという表情をしていたので、ちょっと疑問形になりながら答える。
こいつは本当に何を考えているか分からないのが怖いんだよな。
「え?疑問形なの?まぁいいけど。行っていいってことだよね?」
「ええ、もちろんですとも。霜月さんのような可憐なお嬢さんなら大歓迎です」
「ありがとう。よろしくね」
俺の代わりに仰々しい態度になったアキが天音をエスコートするように先に進むように促して、屋上に向かうために外に出た。
「こんにちは。今日も奇遇ですね、佐藤君」
しかし、天音の登場でうっかり忘れていた俺は自分を呪った。そう教室の外には生徒会長が待ち受けていたのである。
「あ、はい。奇遇ですね、生徒会長。どうされたんですか?」
「ええ、これから丁度お昼に行くところなのですよ。佐藤君は?」
「はい。自分達も昼食に向かうところです」
「今日もお綺麗ですね、生徒会長。今日もぜひお昼をご一緒しませんか?」
「ええ。勿論構いませんよ」
ゴールデンウィーク前と同じやり取りを交わして生徒会長も合流して俺たちは屋上へと向かった。
「うーん、いい天気ね!!」
屋上に昇なり、弁当箱を持ちながら大きく伸びをする天音。
体を反らせているので、その男性の眼をくぎ付けにしてやまない二つの塊が大きく徴されて思わず目が吸い寄せられてしまった。
「霞さんや生徒会長も凄いけど、霜月さんも中々……」
隣でアキが顎に手を当てながら天音を見ながら何事か呟いている。
絶対胸の評価をしているな、こいつ。
それは視線の先を見るに明らかだった。
「あぁああああああ!!普人君今見てたでしょ!!」
うっかり見入ってしまった俺に天音は小悪魔のような笑みを浮かべて俺にそろりそろりと近づいてくる。
こいつ……もしかしてわざとか?
「い、いや、見てないし」
「い~や、絶対見てたでしょ。女の子にはすぐ分かるんですからね?」
腕を胸の下で組むようにしてこれ見よがしに俺の前で胸を強調する天音。ニシシと笑う彼女はその性格がよく現れていた。
うぐ。そういえば聞いたことがある。
見ている方がチラチラバレないつもりで見ていても、見られている側が胸を見られているのがすぐわかるって。それはもちろん目を引くくらいに大きなものをお持ちな方々になるんだろうけど。
「見る?」
「いや、いいから」
なぜか隣でシアが自分の胸を両手で下から持ち上げながら、俺の顔を覗き込んできたけど、俺は首を振った。
「はいはい、見てたよ、見てました」
「はーい。素直でよろしい」
俺が手を挙げて降参のポーズをすると、彼女はぱちりとウインクして親指と人差し指をくっつけてオッケーマークを作った。
「あら、そんなに見たいのでしたら私が……」
そう言って服をおもむろに脱ぎだすのは生徒会長。
「結構です!!」
俺はすぐに服を脱ぐのを止めさせた。
「はい、どうぞ、普人君。たーんと召し上がれ」
俺たちは数人が座れるシートを屋上の床に敷いて弁当を囲む。俺の左隣にはシア。右隣りには天音が陣取り、正面には生徒会長が座った。
生徒会長と天音の間にはアキが座っていて、美少女たちに挟まれて座っているのが嬉しいのか、鼻を伸ばして物凄くだらしのない顔をしている。
俺の隣の天音が俺の前に持ってきていた重箱をドンと置いて蓋を開いた。そこにはまるで料理人が作ったような品の数々が、これでもかと詰まっていた。
「え、いや、これお前が作ったのか……?」
「勿論。私はこれでも家庭的な女なんですからね?」
驚いた俺は思わず呆然とした顔で甘えに尋ねると、腰に手を当ててドヤ顔で勝ち誇った。
滅茶苦茶怪しい奴ではあるけど、こういうところは素直に尊敬できる。
「へぇ。今初めて天音の事を心から見直したわ」
「え、あ、そう?そう素直に言われるとなんだか嬉しいわね、えへへ」
俺が感心したように呟くと、天音は頬を染めてはにかんだ。
その照れ笑いはいつも笑顔を浮かべている天音だけど、その中でもひと際輝いて見えた。
「いかんいかん」
俺は思わず見入ってしまった自分を自制して首を振る。
「どうかしたの?」
「いやなんでもないよ」
元の表情に戻った天音が不思議そうに俺を見てきたけど、俺は誤魔化すように首を振った。
「ん」
「私のお弁当も食べてくださいな?」
その直後、なぜか俺に弁当を差し出してくるシアと生徒会長。
「いや、それ作ったの寮母さんだよね?」
俺がそう返すと、二人は黙って弁当をひっこめた。当然俺も同じ弁当を持っている。
「私も作る」
「料理人を手配した方がいいかしら?」
各々何かを決意したような顔でブツブツと呟いている。
「それじゃあ、どうぞ召し上がれ?」
二人が引き下がった後、ちょっと目を潤ませながらそういう天音。
くっ。こいつが作ったものなんて何が入っているか分からないけど、美味そうだし、食べ物に罪はない。
ええい、ままよ!!
「いただきます」
俺は天音の料理に箸をつけた。
「美味い……」
天音の料理は只その一言に尽きた。
母さんの料理のような懐かしさと、日本人が好む絶妙な味付け、その両方を感じられた。
こいつこんな性格してるくせに料理がこんなに美味いとは、本当に脱帽しかない。
「えへへ、なんだか嬉しいわね!!」
俺の感想に顔をくしゃりとゆがめる天音は一段と魅力的だった。
そんなこんながありながら俺たちは和やかに昼ご飯を堪能した。勿論寮母さんの弁当もきっちり食べた。
「なんでお前ばっかり……」
アキ一人を除いて。
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