第121話 乙女の秘密
「お前たち準備はいいか?」
『はい!!』
「それではこれより実地講習を始める。今回の課題はFランクダンジョンの制覇だ。すでに二、三週間ダンジョンに潜っている君たちにはおそらく簡単なことだと思う。しかし、ダンジョンでは何が起こるか分からないので、気を引き締めていくように」
『はい!!』
俺達は敷地内にあるFランクダンジョンの前で武装して整列して早乙女部長式の元これから行う実地講習の説明を受けている。
寮生達は全員換装リングを受け取っているので着替えが楽だと大好評。渡した人たちには驚かれたと同時に感謝された。特に女子達に喜ばれた。
こんな良いアイテムをもらっていいのかって。
「接触禁止」
Dランクダンジョンで手に入っただけのアイテムだったので問題ないと全員プレゼントすると、女子たちに囲まれそうになったものの、その全てをシアがシャットアウトしてくれたので事なきを得た。防ぎ切った彼女は誇らしげだった。
寮生以外のクラスメイトの探索者や他クラスの探索者たちからもの欲しそうな視線を感じたが、俺を空気として扱うような連中や、全く知らない連中のことまで考えられるような思慮は無かったので無視した。
まさかDランクダンジョンで手に入る程度のアイテムであれほど喜んでもらえるとは思わなかった。最初はEランクダンジョンかと思っていた野良ダンジョンだけど、後からDランクのボーナスモンスター相当の魔石を落とすモンスターも出てきたからな。
あの野良ダンジョンはDランクダンジョンだったと思う。一応Dランクダンジョンも問題なく制覇出来たので、今回の実地試験は何も問題ないだろう。
ただ、念のため気を抜かないように気を付けようと思う。ダンジョン内は何が起こるか分からないからな。
ここにいるのは三十九名の一年生の探索者の卵たち。パーティは全部で七つ。俺たち以外は全て六人パーティで、俺達だけ三人パーティだ。
各パーティが十分おきに入場して探索していく。それぞれの班に引率の三年生が一人ついてくれる。引率とはいえ基本的に手も口も出さずに見守るだけだ。
今回の課題はFランクダンジョンの最終層への到達か。とっても簡単な課題だな。皆も覚醒して三週間程経つのであっという間に最終層に辿り着くんじゃないだろうか。
Fランクのモンスターは強くないし、ダンジョン内の広さもそれほどでもない。俺でも二日目には最終層まで潜っていたくらいだし。
「一組目は葛城のパーティだ。お前と佐藤はすでにEランクだし、一緒にいる天音に至ってはBランクだからな。高ランクでも学校のルール上各ランクの講習参加は最低一度は必須だからそこはどうしようもない。それはともかく、葛城たちは戦力的に過剰すぎるくらいだから、最初で何も問題ないだろう」
「ん」
早乙女先輩が俺達から入るように指示を出す。ただ、その中に聞き捨てならない情報が混じっていた。
「え?天音ってBランクなの!?」
「にゃはは。実はそうなんだよね」
俺はあまりの衝撃に信じらないという表情で天音に視線を向けると、彼女は照れくさそうに笑った。
なんでシアは特に反応もしないで返事してるんだ?
「一年生で一カ月でBランクになるのは不可能だよな?」
Eランクの条件を満たし、試験を受け、というサイクルをBランクまで繰り返してたった一カ月でBランク探索者になるのは無理があるので俺は尋ねる。
「ふふふ。そこは乙女の秘密だよ」
「まぁなんか察した」
誤魔化そうとする天音に俺は意味するところを理解した。女子がそんな風にして誤魔化そうとするのは大体年齢の事だろうと当たりを付ける。
「え!?」
「お前俺達より一つ年上だろ」
「な、なんでバレたの!?」
驚く天音に答えを突きつけるとさらに驚愕して口を手で覆う天音。
天音は昨日の反応を見る限り素直で天真爛漫という感じだ。だから鎌をかければあっさり吐いてくれると思ったけど、予想以上に嘘が付けないタイプだった。
「やっぱりそうだったか」
「あぁ!!鎌かけだったのね!!ズルい!!」
俺が天音の反応を見て答え合わせてしていたのに気づいた彼女は、口元をプクゥっと膨らませて俺を睨んだ。
なんだか七海と少し性格が似ているな。容姿は七海の圧倒的勝利に間違いはないんだけど。
「天音が隠そうとするからだろ」
「女の子は少しミステリアスの方が可愛いのよ?」
「いや知らないから……」
陰キャで彼女なんて出来たことがない俺に、そんなこと分かるわけがないでしょうに。
「バレてしまったなら仕方がないわね。私はちょっと海外にいたから一年遅れてここに入学したのよ」
「ふーん。そうだったのか。それにしても一つ年上でBランクだなんてかなり優秀なんだな?」
あっさりとバレた秘密を白状する天音。それでも俺達と一つしか違わないのにBランクになっているというのはとても優秀でかなりの努力をしてきたんじゃないかと思う。
「まぁね。でも私にはアレクシアがEランクという方が信じられないけどね」
「まぁ確かにそうだな」
俺の言葉に頷きながらもシアの方に視線を向ける天音。俺もその言葉に同意する。
シアの場合は俺よりも換金していたりするので、そろそろ次のランクの試験資格とかクリアしていたもおかしくないと思う。
「ん?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「ん」
俺達に見られていることに気付いたシアは首を傾げたけど、俺の返事に彼女は頷いてぼうっと遠くを見る。
「ほらほら、お前たち、後がつっかえてるから先に入れ。話くらい後でも出来るだろ」
「そういえばそうでした。それでは先に行きます」
「気を付けろよ」
「はい」
俺たちは話に夢中になっていたが、早乙女先輩にどやされる形で校内のFランクダンジョンの入り口を潜った。
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