第122話 バルンバルンのブルンブルン
「それではよろしくお願いしますね」
俺達の引率として一緒にダンジョン内に入ったのは副部長の如月先輩。
彼女は魔法使いタイプの探索者らしく、制服のような服装の上にローブを羽織り、魔女帽子をかぶっている。
「こちらこそお願いします」
「ん」
「先輩お願いしますね」
俺は相変わらずジャージ。ただし野良ダンジョンで手に入れたドロップアイテムのジャージとプロテクターだ。シアはダンジョンで手に入れた姫騎士スタイル。
天音は赤のチャイナドレス風の武闘着にスパッツを履き、手にはグローブ、足はニーハイソックスとブーツを履いている。髪の毛はいつものようにポニーテールなんだけど、シニヨンを作り、シニヨンカバーで覆っていた。
彼女は俺と同様に徒手空拳で戦うタイプの探索者らしい。
「それで……佐藤君はその装備でいいのかしら?」
「い、一応このジャージはドロップ品なので大丈夫です」
「わかりました」
聞きづらそうに俺に尋ねる如月先輩に俺は苦笑いを浮かべて返事をした。
皆いかにもファンタジーって印象の装備なのに、俺だけ現実感が溢れてて浮きっぷりが半端ないからだ。
「それじゃあ、今回は基本的に葛城さんと霜月さんの講習となりますが、佐藤君も同じパーティとなるので一緒に活動して今回の目標を達成してください」
『はい』
「それでは出発してください」
「ん」
俺たちは気を取り直してダンジョン探索へと出発することとなった。
「私が先頭を進むわね!!」
「いいの?」
「この中じゃ私が一番身軽だし、何かあった時に対処しやすいでしょ」
「ん」
隊列は先頭が天音、真ん中が俺、一番後ろがシアになった。
このパーティ完全に物理特化で魔法使いがいないんだけど、この先大丈夫だろうか。
俺は少し先に訪れる未来が少し心配になった。
「グミックね」
「ん」
シアがマッピングしながら俺達はダンジョンを進んでいくと、グミックと遭遇した。一カ月ぶりくらいにあったけど、滅茶苦茶懐かしい気持ちになる。
「誰が倒すのよ?」
「誰でもいい」
「ホント過剰戦力よね。とりあえず私から順に倒していくのがいいんじゃない?」
「ん」
俺たちは順番に倒していくことになった。
今回は天音の出番。
「ふっ」
―ドスッ
彼女は軽く走ってグミックを殴る。
ほほう。俺以外に徒手空拳で戦うタイプは見たことがないから面白いな。
殴られたグミックには穴が開いて手が突き抜けた。そしてすぐにグミックは消え去って小指の先程度の魔石だけが残る。
これもすでに懐かしい気持ちになった。
「やっぱり歯ごたえないわねぇ……」
「仕方ない」
やはりすでにBランクの天音にとってFランクダンジョンの敵は雑魚もいいところだよなぁ。
「さっさと進んで終わりにしましょ」
「ん」
「わかった」
魔石を拾った俺たちは軽くジョギングするようなペースで先を進み、出てきたグミックを順番に倒していく。
―パァンッ!!
俺がいつものようにグミックをぶん殴ると当たった瞬間はじけ飛んで魔石が俺の手の上に落ちた。
「え!?」
「はっ!?」
後ろから何か声が聞こえたので振り返ってみると、天音と如月先輩がなにやら驚いた顔をしていた。
「どうかしたか?」
「いや……今何したのよ……」
俺は代表して天音に首を傾げると、神妙な顔で今の行動について尋ねられた。
「普通に近づいて殴っただけだけど?」
「え、あ、そう。わかったわ」
俺は特におかしな行動はしていないと思うんだけど、天音の返事の歯切れが悪い。
「天音のやつ一体どうしたんだろうな?」
「分からない」
シアに声を掛けるが、彼女もよく分からないようで首を振るだけだった。
それから俺たちはすぐに一階層の探索を終えて、二階層に進み、どんどん進んでいって、最終層の五階層までものの二、三時間で到達した。
「天音さんはBランクだけあって身体能力含めてかなり鍛えてらっしゃいますが、お二人もEランクなのにかなり鍛えてらっしゃいますね」
俺たちの様子を後ろで窺っていた如月先輩が俺達に声を掛ける。
「一応毎日ようにダンジョンに潜っていますからね。このくらいどうってことないですよ」
「ん」
「このくらい楽勝よね」
「そうですか」
俺達各々平気だというアピールをすると、如月先輩は俺たちを感心するような眼差しで見つめながら微笑んだ。
これでもDランクダンジョンを制覇できるくらいには熟練度を上げてきたからな。今の俺ならFランクダンジョンくらいどうということはない。
俺たちは何事もなく進み、ボス部屋へと足を踏み入れた。
「ビッググミックだな」
「そうね」
「ん」
そこにいたのはビッググミック。Fランクダンジョンのボスだ。
「誰がやるの?」
「天音でいい」
「私は遠慮するわよ。ここは男の子にやってもらいましょ」
「ん」
「へいへい」
シアに尋ねた天音だけど、シアに指名されたらそれを断って俺に振ってきた。シアもそれでいいと頷くので俺がビッググミッグに歩いて近づいていく。
―ズンッ
ある程度近づくとビッググミックが俺に体当たりをしてきたけど、痛くもかゆくもないので殴った。
―パァンッ
いつも通りはじけ飛んでヒールグミとEランク相当の魔石がドロップ。
「あいた!!」
俺がそのアイテムを拾おうとしてしゃがむと後頭部に何かが当たった感触があり、特に痛くも無いのに反射で声を出す。
一体何だと思って振り返ると、
―パァンッ
服がはじけ飛び、生まれたままの姿を露呈し、呆然とした天音の姿があった。その豊満な母性がバルンバルンと揺れていたし、下も丸見えなので目のやり場に困る。
「きゃあぁあああああ!!」
そして次の瞬間、手を押さえて蹲った。
手の痛みで自身が裸だということを理解できていないのか、色々隠せていない。
「シア。とりあえず何か羽織らせて、ポーションで回復させてやってくれ」
「ん」
俺は後ろを向いてシアに指示を出して立ち尽くした。
いやぁ、なんだか物凄いものを見てしまった……。
あのバルンバルンは圧巻だった……。
服が弾けた衝撃でブルンブルン乱れていたからな……。
俺が脳裏についた光景をついつい思い出していると、シアがこちらにやって来た。
「一体何があったんだ?」
「ん。殴りかかった」
「天音は何がしたかったんだ?」
「分からない」
俺がシアに確認すると、理由は不明だけど、どうやらシアが俺に後ろから殴りかかったというらしい。
そうなると一つ気になる事がある。
「なんで俺は生きてるんだろうな?」
「強い。当然」
彼女はそう言って俺の胸の辺りを指をさす。
そこにはどこのメーカーか分からないジャージのロゴがあった。
つまりこのジャージか!?このジャージのおかげで俺は命拾いしたのか!!ありがとう最高レアのジャージよ!!役立たずだなんて思っていて悪かった!!
俺は心の中でジャージに感謝を捧げた。
「なるほどな。そういうことか」
「ん」
頷く俺に同意するようにシアも頷いた。
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