第123話 アホだけど、意外と強かな女

「はぁ!?シアがなんでこんな弱そうな俺と組んでるか気になったから力を試してみただって!?」

「そ、そうよ……。悪かったわよ。ごめんなさい」


 しばらくして落ち着いた天音に、俺を後ろから殴ろうとした理由を尋ねたら斜め上の答えが返ってきた。


 どうやったらそういう結論になるんだよ……。

 どこの世界の脳筋なんだ……。


「おまえなぁ……。そういうのはもっと普通の時やってみるとかあるだろ?」

「それじゃあ本当の力が分からないかもしれないじゃない……」


 俺は呆れながら同意を求めるように尋ねたんだけど、天音はぶつくさと言い訳をする。


 いやまぁ、言わんとしてることは分からなくもない。分からなくもないけど……。 


「はぁ……こっちは一歩間違えたら死ぬところだぞ」


 この一言に尽きる。


 相手はBランク探索者。こっちはEランク探索者。その力は雲泥の差がある。本気で殴られたら普通に死ぬ。


 今回は最高レアの宝箱に入っていた超高スペックジャージのおかげで命拾いしたけど、そうじゃなかったら俺の頭がぐちゃぐちゃになっていたと思う。


 あと一歩何かが間違えば、スプラッター映画も顔負けの惨状がここに広がるところだ。


「うっ。だから謝ってるじゃない!!ごめんなさいってばぁ!!」


 咎めるような視線を向けると、土下座をして大袈裟に謝る天音。


 彼女に賭けられていた毛布がハラりと下に落ちて、彼女の真っ白な背中からお尻の上の方が露になる。


 こいつやっぱりアホだ!!


「お、お前は今の状況を考えて動け!!」

「……きゃああああああ!!エッチ!!」


 俺は動揺しながら目をそらして注意すると、今の自分の状態を思い出した天音はしばしの沈黙の後、大声で叫んだ。


 いや、それは理不尽すぎるだろ!!


「はうす」

「あいた!!」


 シアが何かをしたらしく、天音が悲鳴を上げた。


「もう大丈夫か?」

「ん」


 俺の言葉に天音ではなく、シアが返事をする。向き直るとそこにはバスタオルを落ちないように巻いて、額を押さえて涙目で悶えている天音の姿があった。


「んぎぎぎぎ……全くもう何すんのよ!!」

「また攻撃しようとした」

「女として当然の反射的行動よ!!」

「ん?」

「なんでそこであんたが首を傾げるのよ!?」


 少し痛みが引いた所でシアに噛みつく天音なんだけど、シアにはよく分からなかったらしい。


 最近のシアは寝起きであられもない姿を見られようが、風呂で殆ど全裸を見られようが、トイレでパンツを下ろしている姿を見られようが、全く持って動じないからな、パンツに頭を突っ込むのは駄目だけど。


 その辺りの機微が他の人とズレているのかもしれない。


「それはそうと、花も恥じらう乙女の柔肌を見たんだから責任をとってくれるんでしょうね?」


 ふと思いついたように、シアに呆れていた天音がこちらを向いてため息交じりに言う。


「それはお前の自業自得じゃないか!!」


 たかが裸を見たくらいで、とは言えることではないけど、今回の場合完全に天音が俺を殴ったのが原因だ。


 俺に落ち度はない。


 それなのに責任を取れとはあんまりだ。


「ふーん、そんなこと言うんだ?」

「当たり前だろ?俺は何も悪くない!!」

「後で後悔してもしらないんだからね!!」

「後悔なんかするか!!」


 俺をあざ笑うかのような顔で意味深なことを言う天音に俺は反論すると、フンッとお互いに顔を背けあった。


「まぁまぁ皆さん。そろそろ後ろの方々来てしまいます。ビッググミッグは十分から十五分程度で復活しますからね。すぐに外に出ましょう」


 なかなか動き出そうとしない俺たちを見かねたのか、如月先輩が俺達を促す。


「そうですね」

「わかりました」

「ん」


 俺たちは帰還魔法陣に乗ってダンジョンの外へと脱出した。


「お、おい、霜月さんがバスタオル一枚になってるぞ!!」

「服はどうしたんだ!?」

「目を腫らしているぞ!!泣いてたんだ!!」


 しかし、外で待ち受けていたのは天音の姿に驚愕する集まっていた野次馬達。


「うう……。汚されてしまったわ……」


 そんな中で天音が泣き真似をして儚げな姿を演出する。


 うわ!!お前それは卑怯だろ!!


 彼女はちらりとこちらを見てニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「どうやら佐藤普人になにかされたらしいぞ!!」

「なんだと!?」

「ああ、一緒に入っていったのは見ていたからな。あいつ以外は皆女子だし、アイツしかいないだろ!!」

「くそ!!俺たちの霜月さんを傷物にするなんて許せん!!」


 まんまと騙された野次馬達のヘイトが一気に俺に向けられる。


『さぁ・と・おおおおおおおおおおお!!』


 そして全員がゆっくりと俺の方を見て怨嗟の表情を浮かべておどろおどろしく叫んでとびかかってきた!!


「天音、後で覚えてろよぉおおおおおおお!!」


 俺は三下のようなセリフを吐きながら、狂気の追跡者と化した野次馬達から逃れるように駆け出した。


「ん」


 なぜかシアも一緒についてくる。


 よく分からない状況になったけど、俺達の初めての実地講習は、仲間だと思った女の子に殴り掛かられてたり、とんだ言いがかりを受けたり、すったもんだありつつも無事に終了した。

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