第119話 天音様は告らせたい(第三者視点)
「ひとまず接触成功ってことでいいかな」
天音は自室のベッドに横になって一人呟く。
「全く新藤のおじさんも無茶を言うよね全く……はぁ」
天音はため息を吐いた後、無造作にベッドの上に置かれていたスマホをとってトークアプリ『LINNE』を開き、送られてきたメッセージを眺める。
そこには叔父である緊急対策室室長新藤からのメッセージが表示されていた。
『おう、天音久しぶりだな!!お前確か神ノ宮学園に受かってたよな?ちょっとそこの一年生で調べてもらいたい奴がいるからすぐに学校に登校してくれ。調査対象は佐藤普人。顔はまぁパッとはしないがそこそこ整っていて、見た目は結構鍛えている感じの青年だ。探索者として覚醒しているから候補は絞られると思う。それじゃあ頼んだぞ!!あ、絶対に手を出すなよ?多分死ぬぞ?』
普人について調査をしてほしいという叔父からの依頼。
天音は突然の内容に『ちょっと待ってよおじさん!!』と送ったものの、忙しいのかそれ以降メッセージが既読になっていない。
天音には諸事情あり、今まで学校に登校できていなかったが、新藤からのメッセージを受けて超特急でその残っていた諸事情を片付けて学校に登校した。
その日がちょうど実地講習のオリエンテーションの日だったわけだ。
そのおかげでちょうどよくやってきていた普人と出会うことが出来たのは、彼女にとって棚から牡丹餅であった。
「それにしても彼ってそんなに強そうに見えなかったけど、本当に強いのかしら?」
元々活発な性格で昔から男勝りな彼女が、探索者適性を覚醒すると戦闘狂の側面が顔を出し始めた。だから死ぬなんてと脅されると、戦ってみたくてウズウズしてしまう。
しかし、Aランク探索者の資格を持つ叔父の言うことだ。まず指示には従っておいた方が良いだろうと、ここでは一旦自制した。
「それよりも……彼の隣にいたあの子。あの子は相当ヤバいわね。確実に私より強い。下手なことをしたら彼よりも彼女から何かされるわ。彼の妹さんから何か頼まれているみたいだし。それに……何あれ?可愛すぎない?ホントに人間なのかしら?」
ただ、どうしても思い出してしまうのは人としてはあまりに美しくて可愛らしい少女の事。天音自身、自分の容姿には自信を持っていた。しかし、アレクシアの前に立つと、自分なんて……、という卑下する気持ちが沸くほどにアレクシアの容姿は人間離れしていた。
そんな可憐なアレクシアからは圧倒的な力が迸っていて、手を出そうものならすぐに首を落とされてしまいそうな未来が見える。
しかし、あの場でそれを感じ取ることが出来た者は役員たち上級生を除けば、天音だけ。つまり天音もそれ相応の実力者であった。
「とりあえず一緒にダンジョンに潜れば、おじさんが言ってたことが分かるかしら?」
とにかく現状では普人がアレクシアととても仲良くしている、ということしか分かっていない。
少しでも彼の情報を手に入れるためにパーティに志願してみると、以外にも天音を警戒していたアレクシアが了承してくれたので、明日から一緒にダンジョンに潜れるようになった。
Fランクダンジョンではほとんど分からないかもしれないけど、何か実力の一端でもわかればいいなと彼女は思った。
「でも……彼、私の胸に腕を挟んでみたんだけど、顔色一つ変えなかったわね?」
本来の目的に関してある程度の思考が終わると、次に気になるのは軽く色仕掛けをしてみた時の彼の反応。
生徒会長北条時音のように露骨にやったというよりは、天音自身の性格上、そういうことをやってもおかしくはない流れで、手を握り腕をとって全然分かっていないふりをしながら自身の胸に埋めた。
こういうことをすれば大抵の男は自分に対して甘くなることを経験則で知っていた天音だったが、今回普人に対しては全く効果なし。彼は終始アレクシアに判断を任せ、口出ししなかった。
「やっぱり彼女がいるからかしら?それだとやっぱり女として負けたみたいで悔しいわね。容姿はどうしようもないとしても、女はそれだけじゃないものね!!」
元々負けず嫌いでもある彼女は容姿での敗北は認めたものの、女としての魅力の総合値で自身が負けていると、素直に認めることは気に入らなかった。
自分には負けていない所が沢山ある。愛嬌のある性格。家事が得意で家庭的。なんだかんだ惚れたらダメ人間になるほどに甘々に尽くす所。この辺りはアレクシアにも負けないという自信があった。
「こうなりゃ、女としての勝負で彼を落としてみせようじゃない!!」
天音はベッドから身を起こして小さなガッツポーズで気合を入れる。
負けず嫌いの天音は俄然やる気になった。なってしまった。
容姿では勝てないが、女として自分がアレクシアから普人を奪って落としてみせる。そうすれば自分の勝ち。今回の調査を、なぜかそういう勝負ごとにすり替えてしまったのである。
彼女の行動によって、普人の日常がさらに混迷を極めていく。
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